琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】あの人が好きって言うから…-有名人の愛読書50冊読んでみた ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

俳優やアーティスト、政治家、計50人の「愛読書」をお題に、なぜあの有名人がその本を好きなのかボンコバ流に考察。各回に死後くんの似顔絵つき!

【ア行】赤江珠緒/芦田愛菜/安倍晋三/阿部寛/有村架純/安藤サクラ/石田ゆり子/稲垣吾郎/上野樹里/宇垣美里/宇多田ヒカル/有働由美子/大坂なおみ/大谷翔【カ行】加藤シゲアキ/川島明(麒麟)/北川景子/黒木華/小池百合子/河野太郎/カルロス・ゴーン【サ行】堺雅人/坂上忍/佐藤健/菅義偉 【タ行】貴乃花/高橋一生/滝川クリステル/田中圭/田中みな実/土屋太鳳/出川哲朗/ドナルド・トランプ【ナ行】中居正広/長澤まさみ/中谷美紀/中村勘九郎/のん【ハ行】長谷川博己/BTS/ビートたけし/藤井聡太/ディーン・フジオカ/フワちゃん/星野源【マ行】メーガン・マークル【ヤ行】吉岡里帆/米倉涼子/米津玄師【ワ行】渡部建


 「愛読書は何ですか?」「最近読んだなかで、面白かった本は?」
 こういう質問って、よく聞かれそうなのですが、僕の場合は実生活で尋ねられた記憶はあまりありません。
 そもそも、日常で接する人のほとんどは、そんなに本に興味がないのです。
 100万部のベストセラーを、買った人が全員最後まで読んでいたとしても、日本の人口の100人に1人にも満たないわけですし、友人や図書館で借りて読んだ、という人がいるとしても、200~300万人くらいでしょうか。そう考えると、教科書に載っている作品の知名度って、圧倒的ですよね。あと、マンガはやっぱり強い。

 僕もこういうブログをけっこう長い間やっていますから、「愛読書は何ですか?」と聞かれることを想定してはいるのですが、有名すぎる作家や作品だと、個性が無い、あるいはたいして読んでいないじゃないかと思われそうだし、あまりに奇をてらったチョイスだと「お高くとまりやがって!」みたいな反応を示されそうです。
 いや、僕自身も、「私は読書にハマっているんです」という人に「どんな本を読んでいるの?」と尋ねて、「東野圭吾!」という答えが返ってきたときには、どんな顔をしていいのか、と一瞬考えてしまいました。東野圭吾さん、素晴らしい作品も多いんですけどね。売れすぎ、メジャーすぎているだけで。
 「読書家」というのは、読んでいる本で他人を「値踏み」するような、めんどくさい存在ではあるのです。


 有名人が「愛読書」として紹介するのは、どういう本が適切なのか?
 この本では、50人の有名人が挙げた「愛読書」を、ブルボン小林さんが実際に読んでみて、その感想を書いているのです。
 「こんなつまらない本を読んでるのか……」なんて意地悪なスタンスではなくて、「なぜこの人はこの本を選んだのか?」という考察とともに、「紹介してくれた本」を自らも楽しんで読んでいる作品が多いのが伝わってきます。
 「他人が薦めてくれた本」って、その人のことが好きなら、それだけでけっこう興味がわきますよね。


 貴乃花の愛読書が『横綱の品格』(双葉山 時津風定次著)、菅義偉前総理が『豊臣秀長 ある補佐役の生涯』(堺屋太一著)というのは、いかにも、というか、本人のイメージ通りで面白くないなあ、という感じなのですが(そこで突飛な本を挙げる意味もないのでしょうけど)、北川景子さんが挙げている、三浦綾子著『塩狩峠』、吉岡里帆さんの『戯曲 吸血鬼』(唐十郎)などは、こういう本を読んで、感銘を受けてきた人なのか……と意外な一面を見たような気がしました。

 将棋の世界で大活躍中の藤井聡太さんの項より。

(藤井さんの愛読書を調べていたら、加藤一二三さんの話がたくさん出てきた、という話のあとで(ちなみに、加藤さんの愛読書は『福翁自伝』(福沢諭吉)だそうです)

 藤井君も藤井君だよ(怒られる筋合いはなかろうが)。落ち着いた言動で大人びている、とかいう次元じゃない老成ぶり。なんだか、平成の十代じゃないみたいだ。大体、愛読書が『竜馬がゆく』に『深夜特急』に椎名誠『アド・バード』って、昭和か! おそらく、父親か伯父さんの影響なのだろう。いずれも分厚い、読みでのある作品群だ。
 恐る恐る『竜馬がゆく』と『深夜特急』に手を伸ばしたら、どちらもリーダブル。ライトノベルとまではいわないが、ひっかかりの少ない明朗な文章だ。だから二作ともベストセラーなのだな、といきなり納得させられた。


 この作品群をみて、50歳の僕は、「藤井さん、あなたは僕ですかっ!」と心の中でツッコミを入れてしまいました。
 僕が10代~20代で読んだ本を、いまの10代が、「愛読書」として挙げるとは。まあ、これは読んでいないと今の時代には出てこないタイトルですよね。
 いずれも読みやすくてエネルギッシュな作品で、僕の世代の多くの人の「愛読書」でもあります。
 昔の作品でも、こだわらずに読むし、良いものは良い、というのが藤井さんのスタンスだというのが伝わってきます。
 『深夜特急』って、僕は著者がカジノで追い詰められながら、台が発する微妙な音を聴き分けて勝負するシーンがものすごく記憶に残っています。『竜馬がゆく』は、「えっ、こんなにあっさり竜馬死んじゃうの?」だなあ。
 椎名誠さん、ずっと人気作家ではあるけれど、いまの若者は昔ほど読まないのではなかろうか。以前の椎名さんは、冒険家や映画監督としても活躍していて、作品だけではなく、椎名誠の生きざまに憧れた人も多かったのです。

 ブルボン小林さんは、有名人と選んだ本の大部分を好意的に採り上げていますし、同じ作家のなかで、なぜこの作品を選んだのか?という「愛読書を選ぶ側の心理」みたいなものにも、有名人側、作品側の両方からアプローチをしているのです。
 自身も著明な作家・批評家であるブルボンさんだからこそできた仕事、という印象が強いのです。

 ただ、すべての作品に対して好意的というわけではなくて、滝川クリステルさんが挙げた『星の王子さま』(サン=テグジュベリ/河野万里子訳)に対しては、こんなふうに書かれています。

 ムカムカする(クリステルにでなく、本に対しての感想です)。
 子供向けの寓話の中で、大人が愚鈍でつまらない存在に強調して描かれるなんて、よくあることだし、目くじら立てて読むことではないのだが、それにしても大人の愚鈍さの描写が妙に念入りだし、フェアじゃない。所有物の勘定ばかりしてる人。威張って指図ばかりする人。自分では調べにいかない学者。愚かさが個別に割り振りされて、単純化されたら誰でも愚かに決まっている。人間ってもっと複雑だろうに。
 そんな彼らに対し、王子様は常に上から目線で批評だけして、少しの優しさも発揮せず、啓蒙や忠告さえしない。
 特急列車に揺られる人に(急いでいても)「なにを探しているか分からないんだね」と十把一絡げに決めつけ「子供だけが、なにを探してるか分かってるんだね」って、うるせえよ(クリステルに言ってません。王子に言ってます)。
 さまざまな星を旅してきた王子と出会う「僕」も、王子と大差ない。子供の頃に描いた落書きを大人たちに理解されなかったことをずーっと根に持っている。同族意識から、ほとんど恋愛に近い感じで惹かれあう二人。やがておセンチな別れを迎える。
 しかし、僕のようにむかつくことなく、本書の寓意や詩的な言葉を楽しめた人でも、これを愛読書に挙げることのド直球感にはビビるのではないか。なにしろ「すぐ読める」「ベストセラー」だ。


 たしかに、「ありきたりすぎ」ではありますが、このブルボンさんの『星の王子さま』への容赦なさに、僕は気圧されてしまいました。嫌いなのはわかるけど、こんな熱量で「嫌い」を語られると、それはそれで「気になる作品」なんだろうな、とも感じます。
 『星の王子さま』のどこが、ブルボンさんの「逆鱗」に触れるのだろうか。

 そして、滝川さんを悪く言っているわけではない、と繰り返されるほど、なんだか、愛読書として挙げた滝川さんが責められているみたい、ではあります。
 誰かが「好き」って言っているものを否定するのって、こんなにもその人を否定しているようにみえるのか……
 

 数年かけてコツコツ読んでいくうち、有名人の読書には独特の傾向がある気がしてきました。ここで紹介する全冊に共通するのは、どの本にもパワーがある。だからこの本自体、読むだけで元気になれる読書ガイドになりました。
 本書を読んでも有名人にはなれません。でも、有名人って、有名であるってなんなんだろうということが、少し分かってくると思います。どうぞ気楽に、好きな人のところから読み進めてください。


 読んでいると、自分が好き、あるいは凄いと思っている有名人が「愛読書」として紹介していると、それだけで、「読んだときはたいしたことない、と思ったけれど、実は素晴らしい本だったのではないか、読み直してみるべきかも……」と思うんですよ。
 大谷翔平選手の愛読書が『チーズはどこへ消えた?』(スペンサー・ジョンソン/門田美鈴訳)と聞いて、「あの本を『ありきたりのザ・ビジネス書』だと読んで5秒で内容を忘れた僕のほうが見る目がなかったのか」と反省しました。


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