琥珀色の戯言

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【読書感想】一私小説書きの日乗 憤怒の章 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
行きつけの店で酒を呑み、編集者と打ち合わせ、新作の執筆にいそしむ。あこがれの人との邂逅に心ときめかせ、愚昧な人々に怒りを爆発させる。現代の私小説家、西村賢太の虚飾無き怒りの日々の記録。日本語日記文学の新しい形が、ここにある。


僕はこの日記の前にあたる『一私小説書きの日乗』も読んでいるのですが、西村賢太さんの「日乗」を読んでいていちばんインパクトがあるのは、その食生活なんですよね。

 夜、十条にて味噌チャーシュー麺と餃子。
 深更、缶ビール1本、宝(焼酎)3分の2本。
 手製のハムエッグ三個とスモークチーズ、ドライサラミ。
 最後に緑のたぬき


僕もそんなに少食ってわけじゃないのですが、西村さんの食べっぷり(しかも深夜、寝る前に!)と、偏りまくった食生活には読んでいるだけで胃もたれがしてきます。
そのカップ麺、本当に食べなきゃダメ?って言いたくなってしまうのです。
そりゃ、痛風の発作も出るって!


でも、読んでいくうちに、なんだかすごく壮快な気分にもなってくるんですよ。
いまの世の中って、日記でも公開される前提であれば、けっこう「配慮」するじゃないですか。
ちょっと気取ったものを食べたり、栄養のバランスを考えていることをアピールしてみたり。
ところが、西村賢太という人は、露悪的に思えるくらい、自分が食べたいものを、食べたいだけ食べ、酒も飲む。
そして、それを包み隠さずに公開日記に書く。


この日記を読んでいると、これだけ編集者と喧嘩・仲直りをくり返し、自分の小説を映画化した作品を酷評しながらも、人気作家として活躍し、こうして日記すら単行本になってしまう西村さんって、本当に不思議な存在だなあ、と考えずにはいられません。
編集者っていうのも、やっぱり、大変な仕事なんだなあ、と。
最相葉月さんが、著書で「最近の20代~30代前半くらいの、メール世代の編集者には、電話での作家との交渉の仕方や原稿の催促のノウハウを持っていない人が少なくない」と嘆いておられました。
逆にいえば、最近は作家も「メールでのやりとりだけで済む、手がかからない人」が多くなったということなのでしょうね。
ところが、「西村賢太担当」は、けっこう大変そう。

西村さんは、こういうふうにしか生きられない人だったのか、こういうふうな生き方も、ある種のプロモーションみたいなものなのか。
テレビ番組などでは、案外「適応」しているようにも見えるんですよね。


それにしても、こうして、遠くから眺めている分には、西村賢太という作家は、やっぱり面白い。
少なくとも西村さんなりの「美学」や「こだわり」を貫いている。
映画『苦役列車』を脚本家の宮藤官九郎さんが採り上げたコラムについて、こう仰っています。

 で、一点、文中で気になったのは、「私小説を娯楽作品へと転化した」とあることで、自分は二十歳のときから私小説ばかりを読み、現在までそれにすがりつく格好となっているが、その間、私小説を娯楽以外のものに思ったことは、ただの一度もない。だから自身の狙いとその成果は別として、自分の私小説も、すべて自分なりの”陰鬱な娯楽作品”のつもりで書いている。『苦役列車』も、また然りである。


西村さんの「私小説」が、内容の「暗さ」のわりにユーモラスに感じられるところがあって、多くの人に読まれているのは、こうして「娯楽作品のつもりで書いている」からなのかな、と思ったのです。
そういう陰鬱さは娯楽として消費されることもあるし、「お高くとまっている純文学」は、読者に伝わらない。
というか、基本的に「つまらなくて、気分が沈むだけのもの」を読みたがる人は、ほとんどいないはずです。


ちなみに、この日記の期間、西村さんはけっこうテレビのクイズ番組などに出捐されています。
TOKYO MXの『ニッポン・ダンディ』にはレギュラー出演も。
憧れだったというビートたけしさんとの邂逅のエピソードも描かれていて、たけしさんのカッコよさと、カリスマっぷりに、読んでいる僕もシビレてしまいました。

 ワタナベエンターテインメントより、”明細書在中”の封筒が届く。
 先月分のギャラのそれは、先週すでに届いている。訝しく思いつつ開封してみると、此度は”賞金”の別途振込みの知らせ。
 いつだったか、クイズ番組の団体戦で優勝した際のものらしく、その、きっちり頭割りの金額が記載されている。
 かようなものが、本当に貰えることに一驚し、何がなし感心す。


ああいうのって、本当に貰えるんだな、と僕も感心してしまいました。
案外みんな、律儀にやっているのですね。

 
西村賢太ファンおよび有名人の日記フリークの皆様には、おすすめです。


一私小説書きの日乗

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