琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

『ユナイテッド93』感想 ☆☆☆☆

http://www.united93.jp/top.html

 町山智浩アメリカ日記で以前紹介されていた(http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20060514)のを読んで、これは観ておかねば、と思っていたのです。昨日は公開されて3回目の週末だったのですが、某地方都市のシネコンの夕方5時半からの回で、5割程度の入り。ただ、同時間帯には「ラフ」くらいしか他に上映されていなかったため「消極的選択」でこの作品にした人も多かったかもしれません。

 それで、作品を観ての感想なのですが、とにかく観ていて疲れました。作品の内容もなのですが、なんといっても、「揺れ動く手持ちカメラ」で全編撮影されているため、常に画面が細かく動いているのです。もともと乗り物酔いしやすい僕は上映開始後1時間くらいの時点で脂汗をかいて吐き気が抑えられなくなり、途中で席を立とうかと何度も思ったくらいでした。同じように乗り物酔いしやすい方は、酔い止めを内服してから観たほうが無難かもしれません。というか、そこまでして観る価値があるのかというと、僕自身は「一度は観ておいてよかった」とは思うけれど、他人に薦めるかと言われたら微妙なところです。

 正直、この映画に対しての「感想」というのは、僕にとっては「怖い」とか「自分がこんな目に遭わなくてよかった」というようなもので、そこから先に進みようがないような気がしています。命の大切さというけれど、彼らは別に危険なことをやろうとしていたわけではなくて、日常の一部として「飛行機でどこかに行こうとしていた」だけだったのですから、そういうのって、頑張れば、気をつければどうにかなるってものじゃないですよね。
 この映画は、基本的には「残されたデータや家族からの証言に基づいて、なるべく『当時』の機内や管制室の状況を再現したドキュメンタリー風の作品」であり、本当にあの状況にリアルタイムで対処していた管制官の多くが、その人自身の役として出演しているくらいです。

 僕たちは、この映画の「結末」を最初から知っているのです。
 でも、乗客たちは、自分の「運命」を知らないわけで、彼らの心は、ハイジャックされた機内でも揺れ動き続けます。不安と、まさか命までは獲られないだろう、という希望と、そして、貿易センタービルの情報を聞いたときの衝撃……

 ただ、町山さんも書かれていますが、この映画はあまりに「ドキュメンタリー的」であるがゆえに、「本当はわからない部分まで描いてしまっている」というのは、忘れてはならない事実だろうと思います。
 それでも、こんな目に自分や自分の愛する人が遭うのは耐えられない。それだけは間違いないことです。
 最後に乗客たちと携帯電話で話した人たちは、その言葉を一生忘れられずに、抱えて生きていかなくてはならないのだろうし。

 そういう意味では、「携帯電話」って残酷な道具だよなあ、とも感じました。

 とりあえず、「興味がある人は、一度観ておいて損はしない」映画だと思います。
 ただし、それなりに精神的なダメージを受ける覚悟はして。

 以下ほんのちょっとだけネタバレです。

 「ユナイテッド93」の乗客たちは、「自分たちが助からないのであれば、せめて被害を最小限に食い止めようとテロリストと戦い、ホワイトハウスへの墜落を食い止めた」という話がありましたが、この作品では、その「献身」は採用されていません。乗客たちは、あくまでも「自分たちの命が助かるという可能性を信じて」最後まで戦ったのです。それは、僕にとっては、ものすごくリアルな動機であり、戦いでした。

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