琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

「よくできた偽物」は、「本物」の代わりにはなれない。

参考リンク:日本で一番すごい美術館 - Chikirinの日記

このエントリを読んでいて、先日行った、この博物館のことを思い出しました。
北九州市立 いのちのたび博物館【自然史・歴史博物館】


この博物館、『スペースワールド』という大きな遊園地(ギャンブルパパも安心の『WINS八幡』も併設)のすぐ近くにあるのですが、入場料は、なんと500円!巨大な恐竜の標本も多数展示されており、化石や九州の伝統文化も満載。好奇心を非常にくすぐられる博物館です。
妻もけっこう楽しんでいましたので、「自然科学なんて大嫌い!」という人でなければ、性別に関係なく楽しめると思います。


僕も大きな恐竜の標本に圧倒されて、写真を撮りまくり、息子と大はしゃぎしていたのですが、その展示をよく見てみると「レプリカ」の文字が。
あっ、ここにも、あれも……
大きな恐竜の標本は、みんな「レプリカ」なんですよねこの博物館。
それを見たとたんに、僕の標本に対する情熱は、3分の1くらいになりました。
「なんだ、偽物なのか……」って。


しかし、偽物には偽物なりのメリットもあります。
この博物館の標本は、かなりの割合で、来館者が「触れる」ようになっています。
それに、「本物」に、こんなに力強く展示できるような恐竜の骨は、ほとんど無いはず。
「これでもかっ!」というくらいの多数の標本をそろえることも難しいでしょう。
少なくとも、3歳の息子は、恐竜を怖がりながらも、楽しんでいたようです。
(ちなみに、標本でもティラノサウルスなどの肉食系は怖がり、草食系はそうでもない、という傾向がありました。直接襲われたこともないはずなのに、恐竜の見た目の何を基準に「怖い」「怖くない」を区別しているのか、考えてみるとすごく不思議)


このあいだ、大宰府九州国立博物館でのある企画展で、『源頼朝像』と『平重盛像』が、開催期間の半分ずつ展示されることになっていたのです。開催終了近くに行ったときは『平重盛像』が本物の期間で、『源頼朝像』は「レプリカ」。
源頼朝像』の前で、『源平討魔伝ごっこ』をやりたかった僕としては、大変無念だったのですけど、その一方で、こんなことも考えました。
専門家ではない僕には、このレプリカが「本物」として展示されていても、わからなかっただろうな、と。


恐竜の標本の場合は、さすがにツルツル、ピカピカだったので、「レプリカっぽいつくり」ではあったのですが、精巧なレプリカの場合、「これが本物です」と見せられて「ウソだ!」と指摘できる人は、どのくらいいるのでしょうか?
だから偽物を本物といつわって展示してもいい、っていう話じゃないんですが、そのくらいの鑑賞眼しかないのに、「本物」にこだわるのも、バカげたことなのかもしれません。


それでも、目の前にある作品が「本物」だとありがたく感じるし、「レプリカ」だと「なーんだ!」と足早に通り過ぎてしまう。
ラベルが「本物」でも「偽物」でも、目の前にあるものは物質的には同じものなのに、ラベルによって、感動したり、軽視したりしてしまうのです。


この参考リンクで紹介されている「大塚国際美術館」、僕もぜひ行ってみたいと思います。
「大金をかけて、陶板で精巧なレプリカをつくる」という試みは、すごく面白いし、見ていて楽しいだろうなあ。
モナリザ』と『最後の晩餐』と『最後の審判』と『ゲルニカ』が一同に会するなんてことは、現実にはありえないし。


でも、その一方で、この「精巧な偽物の山」を見て、「感動」できるのだろうか?という気もするんですよ。
だって、偽物は偽物だもの。
いや、真贋を見抜く力がなくても、最初から「これは偽物ですよ」と言われると、同じものを見ても、なんだか萎えてしまうのです。


「写真が撮れる」とか「触れられる」っていうのは、「精巧なレプリカ」の大きなメリットだと思います。
ただ、「偽物だとわかっている偽物」に触れることが、「いつか本物を見てみたい」という興味を育てるかと言われると、そうでもないかなあ、と。
むしろ、レプリカを見て、「まあ、こんなものかなあ」と自分なりに納得して完結し、「本物」への興味を失ってしまう場合も多そうです。


僕は新婚旅行で『最後の晩餐』を観に行ったのですが、作品そのものも凄かったのだけれども、展示室に入ると、何もないコンクリートの壁みたいなところに、いきなりあの絵が描いてあるというシチュエーションのほうに、むしろ感動した記憶があります。
イタリアにそうそう行けるもんじゃないし、とくに子どもたちにみせてあげたい、という気持ちは理解できる。
でも、その一方で、子どもたちにとっても、「しょせん、偽物は偽物」じゃないか、とも感じるのです。
「真贋を見極める目」を持たないとしても、「その作品が、どういう目で人々に見られているか」を知るのも、重要な体験ではあるわけですし。


「博物館」と「美術館」の場合は違うような気がしますし、そんなに違わないような気もします。
ただ、大塚国際美術館を「日本で一番すごい『美術館』」と言ってしまうことに、僕は抵抗があるのです。
それじゃあ、「本物」を集めるために努力をしている人たちが、あまりに不憫じゃないかな。


ちきりんさんは、「本物」をみたことがあるから、「そっくりさん大集合」をネタとして楽しめる面もあるはず。
そうでない人には、「偽物は偽物」でしかないのかもしれません。
少なくとも、陶板の『最後の晩餐』が、本物を見ることの代替経験になるとは思えないのです。
そもそも、この「陶板」と「画集」は、そんなに差があるものなのだろうか?
そんなことを気にするのは、僕が「眼鏡をかけてたら、いつも『ガラス窓越しの風景』を見ているようなものだよなあ」なんて考えるような眼鏡人間だからなのかもしれませんが。


ネタに使ってしまって申し訳なかったので、最後に宣伝。
いのちのたび博物館』は、とても素晴らしい博物館ですよ!
子どもも大人も半日くらいは楽しめて、入場料500円!
北九州にいらっしゃる機会があれば、ぜひちょっと寄ってみてください。

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