参考リンク:消える書店:ネットに負け相次ぎ閉店 地域中核店も− 毎日jp(毎日新聞)
この記事を読んで、ずっと考えていたんですよね、「リアル書店は、どうすれば生き残れるんだろうか?」って。
なんのかんの言っても、僕は「本屋さん」が大好きなので。
でも、「値段も同じで、配達してくれて、品揃えもよければ、Amazonで買うよね」と言われると「まあそうですよね」としか言いようがないのも事実ではあります。
都会には巨大な新刊書店がたくさんあるけれど、人口数万人レベルの地方都市では、TSUTAYAが最大の新刊書店、なんていうことも少なくありません。
リアル書店も時代とともに変遷しつづけているのです。
村上春樹の『ノルウェイの森』は1970年くらいの話なのですが、その時代、僕が生まれたくらいの時点で、すでに「商店街の小規模家族経営書店」の経営が厳しくなっていることが描かれています(ミドリの実家のこと)。
それから、地方都市でずっと生活してきた僕からみると、商店街や駅前の書店から、車で行く郊外型書店が中心になったのが、1980年〜1990年代前半くらい。その後、どこも同じような品揃えになった郊外型書店は、本が売れなくなるのと同時にバタバタと潰れ、ショッピングモール内の大型書店とAmazonの時代がやってきました。
ある意味、Amazonも含めて、「より大きな規模の書店に集約され続けている」だけなのかもしれません。
ちょっと前置きが長くなりましたが、先日、某デパート内にある中型書店(新書の新刊はひととおり揃っている、というくらいの規模です)をブラブラしていると、店員さんの電話の声が聞こえてきました。
どうも、取次の人と話をしているようです。
「すみません、客注がふたつありまして、ええ……」
そうか、「客注」か……
そういえば、いまでも、大概の書店のレジに行けば、奥のほうに「客が注文した本」が並んでいますよね。
そのとき僕は、ふと思ったのです。
「なぜ、その本を注文したお客さんは、Amazonで買わなかったのだろう?」
書店員さんも「その本なら、Amazonで注文して在庫があれば、明日か明後日には届きますよ」って言いたくならないのだろうか?(まあ、商売ですからね)
ネットでの「参考リンク」の記事への反応をみていると「便利なAmazonと不便なリアル書店なら、前者で買うのが当然だろ。本は同じ値段なんだから」というものもあります。
僕も、書店への思い入れ、みたいな要素がなければ、そうだろうな、と、なんとなく思っていました。
Amazonの売上高について調べてみたのですが、この記事くらいしか見つかりませんでした。
出版業界においては、Amazonの書籍売上高はかなりの割合を占めるとされているが、それがどの程度の規模なのかはまったく公開されていない。唯一、信頼できるデータは「出版ニュース」2010年3月下旬号に掲載された、出版流通対策協議会会長・高須次郎氏の論文のみだ。
これによればAmazonは、08年末時点で書籍雑誌の売上高は1,200億円、同年の国内出版物の売上シェアの8%を占めるとされている。これは、ジュンク堂書店や文教堂書店を有するDNP(大日本印刷)グループの2,630億円、シェア12%に次ぐ国内第2位の規模で、大手チェーン・紀伊國屋書店(同1,173億円、シェア5%)を超えるものだ。現在はこれよりも売上高を拡大していると推測できるが、具体的な数値はまったく見えてこない。
これから類推すると、だいたい、現在のAmazonの国内出版物の売上シェアは、10%前後、といったところでしょうか。
ひとつのネット書店として考えれば、ものすごい売上高なのですが(ジュンク堂や紀伊国屋が長年かけて積み上げてきたものを、一気に追い越してしまってもいますし)、それでもまだ「10%」なんですよね、Amazonのシェアって。
そこで、あらためて考えてみることにしたのです。
「リアル書店で本が売れない理由」ではなく、「なぜ、Amazonがこんなに便利なのに、リアル書店で本を買う人が大勢いるのか?」について。
以下、思いついた理由を挙げていきます。
(1)ネットで買い物をすることそのものの障壁
これは比較的わかりやすいものです。パソコンを使いこなせない、とか、未成年や審査に通らない、などでクレジットカードを所有していない(コンビニ決済や代金引換も可能なんですけどね)という人も少なくないはず。
さらに、ネットでの通販そのものに不安を抱く人、個人情報の流出を恐れる人などもいますし。
あと、買い物できるようになるまでの住所とか電話番号とかの入力がめんどくさい、という場合も。
「たかがそれくらいのこと」とも思うのですが、あれって、意外とめんどくさがる人は多いのです。
世の中には「わざわざAmazonに注文しないと買えないような本は、必要とはしていない」という人も少なくありませんし。
Amazonって、最初に何かを買うまでが、けっこうハードルが高いんですよね。
あとはもう、「ワンクリック」なのだけれども。
(2)Amazonから送られてくる荷物を受けとるのは、人によってはかえって面倒
パソコンで注文して、家まで届けてくれるんだから便利……なんですけど、ひとり暮らしだと配送されてくるタイミングに在宅するのは、けっこう難しい。それで、「不在のお知らせ」をみて、連絡をとりあったりして届けてもらうのですが、その時間に家にいて、それなりにきちんとした格好をして受けとって、というのは、けっこう面倒なんですよね(宅配ボックス、という手もありますが、もちろんこれもすべての家についているわけでもなく)。
仕事や用事などで、家の外に出る必要があるのなら、「出かけたついでに、書店に寄って本を買ってきたほうが早いし、めんどくさくない」ということも多いはず。
どんなにAmazonが便利でも、どこにでも売っている『週刊少年ジャンプ』をAmazonに注文する人はほとんどいないはずです。
実際は、そういう雑誌が以前ほど売れなくなったことが、リアル書店にはAmazonの影響以上に大きいのかもしれません。
本好きが「品揃えが悪い!」なんて不満を抱いているようなロングテールの端っこの本は、書店全体としての売上への貢献は微々たるものでしょうし。
(3)セキュリティについて
「いわゆる『アダルト本』」は、Amazonのほうが「買いやすい」と思われがちだし、実際にそうなのでしょうが、購入記録が残るAmazonでの買い物よりも、「ひとりの店員さんとのやりとり」だけで購入でき、記録が残らないリアル書店のほうが、本来は「安全性が高い」面があるんですよね。
「Amazonからの荷物を勝手に開けられて一悶着」なんて話は後を絶ちませんし。
(4)Amazonでは、「どんな本」なのか実感がつかみにくい
本の場合、同じページ数でも字の詰め込み具合で情報量が変わります。
Amazonで注文した本が、届いてみるとイメージと違った、ということは少なくありません。
(もっとも、リアル書店で買った本も、読んでみたらうーむ、ということもありますが)
買おうかどうか迷っているときに、リアル書店では、実際にページをめくって確かめることもできるけれど、Amazonではそうもいきません。
専門書とかは、Amazonではまったくどんな本だかわからないことが多いんですよね。書評も少ないし、値段も高いのに。
あらかじめ書名、作家名などが決まっている「指名買い」なら問題ないのですが、やっぱり「実物」を確かめたい場合も多い。そして、リアル書店で確かめて、それを買いたければ、そのままレジに持っていくことになります。よほど重い本でもなければ、わざわざAmazonで注文して届けてもらったりはしません。だって、リアル書店でもAmazonでも「同じ値段」なのだから。
(5)「おすすめ機能」って、そんなに購入のきっかけになってますか?
Amazonの「オススメ機能」の精度は上がっていると思います。思うのですが……精度が上がってくると、「いかにも自分が好きそうな、読みそうな本」ばかりが並んで、逆に興ざめしてしまうような気がするんですよ。
ああ、この「オススメ」に従っていたら、僕はどんどん狭い世界に閉じ込められてしまいそうだな、って。
いま読んでいる、セブン-イレブンの鈴木敏文会長の著書『売る力』(文春新書)のなかで、コピーライター・岩崎俊一さんとのこんな対話が紹介されていました。
岩崎さんは、トヨタ・プリウスの「21世紀に間にあいました。」や、日本郵便の「年賀状は、贈り物だと思う。」などの有名なコピーを手がけ、時代感覚に敏感な方です。岩崎さんとお話をさせていただいたとき、こんなことをいわれました。
「わたしは小売業の仕事を比較的たくさん手がけており、そのなかで気づいたのですが、こういうものがあればいいなというものや予期せぬものに、そのお店で出あうことができれば、これはもう相当大きな喜びが生まれます。そういう点を考えると、買い物は一つの大きなエンターテインメントではないでしょうか」
岩崎さんのいう「こういうものがあればいいなというものや予期せぬもの」とは、意識していたニーズというより、店頭で見て、「わたしはこういうものがほしかったんだ」と心のなかにあった潜在的ニーズ、つまり、ウォンツを掘り起こされるような商品ということでしょう。そんな商品と出会ったことへの喜びにお金を投じる。
僕にとって「書店で、思いがけない本を見つけるのは、無上の喜び」です。
その出会いのために、とくに今買いたい本もないのに書店に行くことも多い。
Amazonの「オススメ機能」は、うまく僕のためにカスタマイズされすぎていて「想定内すぎる」のですよね。
そもそも、「他人にオススメされた本」よりも「自分で見つけた(ような気がする)本」のほうが、思い入れもあるし、読んでみたい気分になりやすいものです。
本の並べ方が上手い書店というのは、さりげなく、客が「自分で見つけられる」ように棚がつくられているように思われます。
そういう意味では、最近流行りの「つまんない本をチェーン店全体で推して売るためのPOP攻勢」みたいなのは、本当に勘弁してもらいたいんですけどね……
(6)子どもと一緒に、Amazonの倉庫には行けないよね。
ショッピングモールの書店というのは、「子どもと本との出会いの場」になっているんですよね。
「図書館に行け」という人もいるでしょうけど、図書館では静かにしていなければ他の人の迷惑になってしまいがち(書店内だって、大騒ぎはできませんが)。
以上、とりあえず思いついたところを挙げてみましたが、「電子書籍」も含めて考えると、またいろいろ変わってきそうな話ではあります。
(2)の「受け取りのステップ」が無くなるだけでも、かなり負担は軽減されますし。
どんなにAmazonが効率化されていても、取り扱う商品が「紙の本」であるかぎり、どうしても「めんどくさい部分」は残ってしまうのです。
こうして「Amazonで本を買わない理由」を考えると、意外とリアル書店にも強みがたくさんあるのではないか、という気がするのです。
そもそも、ショーケースとしてのリアル書店がなくなると、Amazonも困ってしまうのではないかなあ。
Amazonのことですから、いずれは「すべて電子書籍に」なんて野望を抱いているのかもしれませんが。
これを書いていて、ひとつ思ったことがあるんですよ。
「皆さん、本屋さんで本を買ってください。そうしないと町から本屋がなくなります」。海文堂書店最後の夜、福岡店長は店の前に集まった約300人を前に、悲痛なあいさつをした。
この記事に対するはてなブックマークコメントには、「情に訴えるだけでは、便利なネット通販にかなうわけないだろ」というような厳しいものも少なくありません。
でもね、こういう世の中だからこそ「いままでずっとつきあってきた書店を応援したいから、せめてここに置いてあるものはここで買う」っていう「書店を必要とする人たちの気持ち」こそが、リアル書店にとっての「最後の砦」だと僕は思うのです。
世の中には「何かを応援して高揚感を得る」というために、見返りのない出費をしている人って、たくさんいるから。
そして、彼らはそれを楽しみにしているのだから。