琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】ジェフ・ベゾス 果てなき野望 ☆☆☆☆


ジェフ・ベゾス 果てなき野望

ジェフ・ベゾス 果てなき野望


Kindle版もあります。

ジェフ・ベゾス 果てなき野望?アマゾンを創った無敵の奇才経営者

ジェフ・ベゾス 果てなき野望?アマゾンを創った無敵の奇才経営者

内容紹介
■アマゾン創業者ジェフ・ベゾス、奇才経営者の実像に迫る物語
インターネットに大きく賭け、買い物や読書の習慣を大きく変えてしまった
アマゾン創業者、ジェフ・ベゾス。本書は、その奇才の生い立ちから現在までを
詳細に追った物語である。
宇宙に憧れた聡明な少年が、ウォールストリートの金融会社をへて、
シアトルで創業。当初はベゾス夫婦とエンジニアのたった3人でアマゾンを始めた。
そこからベゾスの快進撃は始まる。


時に部下を叱りつけ、ありえない目標を掲げ、けたたましく笑う。
そうして小売りの巨人ウォルマート、大手書店のバーンズ&ノーブルなどとの
真っ向勝負に立ち向かってきた。ベゾスのビジョンは、「世界一の書店サイト」には
とどまらない。「どんなものでも買えるお店(エブリシング・ストア)を作る」という壮大な
野望に向けて、冷徹ともいえる方法で突き進んでいく。


 Amazonの光と影。
 僕自身もAmazonにかなり依存しながら生活をしています。
 ネット通販が一般的になる前までは、「書店での取り寄せ」か「大都市の大型書店に出かけて」買わなければならなかった本が、Amazonのおかげで、自宅に居ながらにして、手に入るようになりました。
 その一方で、Amazonが、僕の愛するリアル書店の苦境の一因となっているのも事実ではあるのです。
 いまや、書店だけではなく、多くの小売業者にとって、Amazonは驚異となり、その勢いは衰えることがありません。

 配送は、米国の場合、3日から5日。デジタル製品なら秒単位で届くし、形のある物も数日で届くのだ。予定よりも早く届いて大喜びしたという話もよく聞かれる。消費者にとってこれほど満足度の高いお店はほかにないと言っても過言ではないだろう。
 アマゾンの年間売上高は、創業17年目の2012年に610億ドルを記録した。売上高1000億ドル突破までの期間が小売業の史上最短記録となるのもまちがいないだろう。利用者はアマゾンにほれ込んでおり、同じくらい強烈にライバル会社はアマゾンを恐れている。ビジネス用語で「アマゾンされる」(To be Amazoned)と言えば、「急成長しているシアトルのオンライン会社が、自社の従来型事業から顧客と利益を根こそぎ奪っていくのをなすすべもなく見る」という意味になるのだ。


 この本では、関係者へのインタビューを重ね、Amazonの創業者であるジェフ・ベゾスの生い立ちから人となり、そして、Amazonの「やり口」を浮き彫りにしています。
 ベゾスの「実の父親」まで探し当ててインタビューしているというのは、正直「そこまでしなくても……」とは思ったのですが。
 そういえば、スティーブ・ジョブズも養子に出されていたんだよなあ……


 Amazonという会社は「顧客指向」を徹底しています。
 そして、レビューやマーケットプレイスなどで、「顧客参加型」のモデルをつくりあげることによって、信頼と愛着を得てきたのです。

 (1995年)6月に入るとレビュー機能が登場する。カファンが週末2日間で完成させたものだ。ベゾスは、ユーザーが書いた書評が他サイトより多くなれば他のオンライン書店に流れる顧客が減り、アマゾン・ドット・コムのプラスになると考えていた。ただ、ユーザーがなんでも好きに書けるようにすると問題が起きる可能性もあり、その点についてはみんなで検討を重ねた。最終的には、検閲後に公開するのではなく、ひどいレビューがないかチェックする形とした。
 初めのころのレビューは、社員やその友人が書いたものが多かった。カファンも、とある顧客の注文で届いた本(『厳しい風――中国収容所時代の記録』)をさっと通読し、レビューを書いている。
 当然のことながら、否定的なレビューが書かれることもある。のちにベゾスは、講演で、君の仕事は本を売ることであって本にけちを付けることではないと怒りの手紙を出版社の役員からもらったときのことを取りあげこう語った。
「我々はまったく違う見方をしていました。その手紙を読んだ瞬間、『我々はモノを売って儲けているんじゃない。買い物についてお客が判断するとき、その判断を助けることで儲けてるんだ』と思いました」


 僕も、ちょっと時間ができたときにAmazonのレビューを眺めたり、書店で気になる本を見かけたときに、Amazonでどう評価されているのかを確認したりすることが多いのです。
 その本に関する、ネガティブな情報が書いてあれば、たしかに、買うのを控えるかもしれません。
 でも、買おうかどうか迷ったときに、「よくわからないから、やめておくか」ではなく、「これだけみんな褒めているのだから、買ってみるか」という結論になることも、少なからずあるんですよね。
 もしAmazonにレビューが載っていなければ、こんなふうに頻繁に訪れることはなかったはず。
 ジェフ・ベゾスの判断は、たぶん、正しかった。
 そもそも、買おうと思い、値段を比較すると(日本の新刊書では値引きはありませんが)、Amazonより安い実店舗の商品というのは、なかなかありませんし。


 Amazonというのは、「容赦ない企業」でもあります。
 社員は休みなしのハードワークを求められたし、結果を出せない人材は、どんどん切られて(あるいは、自主的にAmazonを去って)いきました。
 この本を読んでいると、ジェフ・ベゾスの要求をこなして、ずっとAmazonで働き続けることができた幹部社員は、ごく一握りであったことがわかります。
 選り抜きの精鋭たちを使い潰しながら、Amazonは進撃していったのです。


 商品を安く売るためには、コストダウンが必要になります。

 アマゾンはソフトウェアとシステムを特に重視しているが、現実には物流システムを支える大事な要素がもうひとつある――低賃金で働く作業員だ。この10年間成長を続けたアマゾンは、ホリデーシーズンごとに数万人ものアルバイトを雇い、その10%から15%を正式採用してきた。そのほとんどは実入りのいい仕事がほとんどない地域で働く非熟練労働者で、時給は10ドルから12ドルといったところである。彼らにとってアマゾンは冷酷なマスターだと言えるだろう。FCにはDVDや宝飾品など、簡単に隠せる商品がたくさん置かれており、盗難が絶えない。だから、どのFCにも金属探知機と監視カメラがあるし、そのうち警備会社と契約して設備のパトロールまでするようにもなった。
「アマゾンは、作業員を見れば泥棒と思うところです。まあ、しかたないと思いますけどね。実際、かなりの人が盗みを働いているのでしょうから」
 アソシエイトと呼ばれる作業員として2010年にファーンリーFCで働いたランダル・クラウスは、こう証言している。


(中略)


 アマゾンのフルフィルメントセンターは、盗みや労働組合化、ずる休みよりもっと予測不可能なものにも対応しなければならなかった――天気である。フェニックスに設置した最初のフルフィルメントセンターでは、夏の暑さが殺人的なためエアコンを入れるしかなかった。だが、そこまで暑くない地域では、不必要な費用だとしてエアコンは設置しなかった。そのかわり、猛暑への対応プロトコルを策定。気温が38度以上になると(中西部の夏にはよくあることだ)、午前と午後の休憩時間を15分から20分に延長するとともに、扇風機を設置し、スポーツ飲料のゲータレードを無料で配るとしたのだ。
 その程度でどうにかなるはずがないと思う人が多いだろうが、実際、その通りである。2011年、アレンタウンの新聞、モーニングコール紙がリーハイバレーにあるふたつのアマゾンフルフィルメントセンターは作業環境がひどすぎる、真夏の猛暑に耐えられるものではないと批判する記事を掲載した。15人の作業員が熱中症と思われる症状を訴え、近くの病院に収容されたのだ。救急担当の医師は、不安全な労働環境であると連邦の規制当局に連絡。アマゾンが民間の救急企業と契約し、作業員が倒れたらすぐ対処できるようにと、猛暑時にはFC近くに救急車を待機させていたとも記事は報じており、これはあまりに残酷だと多くの読者とアマゾン顧客が驚いた。


 アマゾン側は「事故件数はそんなに多くはなく、総合的な安全性としては、アマゾンの倉庫で働くほうがデパートで働くより安全」だと主張していたそうです。
 そして、統計や報告された事故件数からみれば、それも一理はありそうなのですが、やっぱり、こんな状況で働く人たちはたまらないでしょうし(それでも、非熟練労働者にとっては「仕事がある」のが大事、という面もあるのですが)、顧客としても、「そんな会社で買う」ということに抵抗があります。
 結局、バッシングを受けたアマゾンは、2012年に、フルフィルメントセンターの大半にエアコンを設置しました。
 5200万ドルをかけて。
 こういう経緯をみていると、少なくとも、「労働者に優しい企業」って感じはしませんよね……


 また、Amazonマーケットプレイスで商品を売るというのは、その企業にとっては「諸刃の剣」でもあるのです。

 アマゾンと他者の緊張をもたらしているのは、マーケットプレイスの隆盛である。ホリデーシーズンにマーケットプレイスが販売する商品は、2011年の36%から2012年には39%と増え続けている。アマゾンの発表によると、利用するサードパーティの数は世界で200万以上に達しており、2011年と2012年を比べると販売数量が40%も増えている。マーケットプレイスは仕入れも在庫もコストを負担する必要がなく、売れた商品については必ず6%から15%の手数料が転がり込むのだから、アマゾンにとっておいしい商売だといえる。
 独占販売権などの強みがないところを中心に、利用する小売業者とアマゾンは痛し痒しの関係にあるようだ。アマゾンはサードパーティの動きをしっかり監視しており、売れ行きのいい商品があると自分たちも販売を始めることが多い。手数料を払いながら人気商品検索の手伝いをしているようなもので、アマゾンマーケットプレイスを使う小売業者たちは一番凶暴なライバルを助けていると言える。

 アマゾン社内では、サードパーティの売り手はヘロイン中毒のようなものだと言われている。まず、爆発的な売上増加で舞い上がってハイな状態になる。そのうち中毒を起こす。最後に、アマゾン自体が安価で販売するようになり、利ざやが削られていくと自滅する。これを元アマゾンバイヤーのケリー・モリスは次のように表現する。
「皆、ヘロインを使うべきではないとわかっているのに、手を出さずにいられないのです。最終的にやめるしかないとわかるまで、ぐちをこぼしたり文句を言ったり、脅してきたりし続けるわけです」


 すべてを、Amazonのものに。
 一顧客としては、Amazonはものすごく便利で、ありがたい存在ではあるのですが、Amazonは、そこで働く人や、他の企業に「甘い顔」は見せません。
 多くの人は、「顧客」であるのと同時に、Amazonと競合する企業で働いている存在でもありますし。


 この「容赦ない拡大指向」が行き着く先は、どこなのか?
 そんなことを危惧しつつも、やっぱり使ってしまうんですけどね、Amazon
 僕も「中毒」なのかな……

アクセスカウンター