琥珀色の戯言

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【読書感想】通訳日記 ザックジャパン1397日の記録 ☆☆☆☆☆

内容紹介
19冊にのぼる大学ノートに綴られた日本代表4年間の記録。
通訳就任からザックジャパン解散までの1397日にわたる「通訳日記」には、
これまで明かされてこなかった"真実"が記されていた。
誰よりも日本の可能性を信じたザッケローニ監督の真意、キャプテン長谷部誠との
絶対的な信頼関係、ザックと本田圭佑の熱い対話の数々、監督と通訳を超えた深い絆……。
日本サッカーの教訓として、この貴重な資料を公開する。
Number連載当初から話題を呼んだ「ザックジャパン通訳日記」が遂に書籍化。


 2015年2月3日。
 サッカー男子日本代表・アギーレ監督の契約解除が発表されました。
 驚いた、というよりは、こうなるかもしれないな、と思ってはいたのですが、なんのかんのいっても、解任の決断ができないまま、ワールドカップ予選に突入し、本大会まで行ってしまうような気もしていたのです。
 むしろ、日本のサッカー協会としては、けっこう思い切って決断したな、という印象でした。
 告発が受理された、という段階で、「有罪」が確定したわけでもないのに解任というのも、道義的にはどうなのだろう?とも思うし。
 ただ、今年の6月からワールドカップ予選がはじまる、ということで、代表チームの日程よりも取り調べや裁判が優先されるようであれば、支障が出ることは間違いなく、現実的な選択として、「監督交替」しかなかったのでしょうけどね。
 しかし、アギーレ監督は、本領を発揮できないまま、こんな形で辞めることになってしまい、さぞかし無念だろうなあ。
 香川選手が、「いままで接した代表監督のなかで、いちばん楽しかった」というコメントを残しているのをみると、かなり有能な人ではあったのでしょう。


 僕がこんなふうに、アギーレ監督に同情的になってしまうのは、たぶん、この『通訳日誌』を読んだからだと思うのです。
 ザッケローニ監督時代の通訳だった矢野大輔さんが、在任中の監督の言動や選手との関係を記録していった『通訳日記』。
 これを読んでいると、代表監督というのは、こんなにひとりひとりの選手をきちんと見ていなければならないものなのか、と驚かされます。
 ザッケローニ監督の人柄の素晴らしさと日本への愛着、エネルギッシュな仕事ぶり。
 そして、選手たちとの信頼関係。


 監督は、代表選手を決めるために、200試合以上の試合(日本人選手が所属している海外チームも含めて)をスタジアムで観戦し、チームにあった戦術を構築し、短い合宿期間のあいだに、「代表チーム」をつくりあげなければなりません。
 ザッケローニ監督は、イタリアの名門チームを指揮してきた経験もあり、世界のサッカー情勢や名門クラブ、そこに所属している選手の事情にも、すごく詳しいのです。
 この本のなかには、本田圭佑選手やキャプテンの長谷部誠選手をはじめとする代表選手たちとザッケローニ監督のさまざまなエピソードが出てきます。
 なかでも、本田選手は、ザッケローニ監督に絶大な信頼を置いており、代表のことだけではなく、自分の今後のサッカー人生のことや、海外のビッグクラブでどのようにプレーしたら良いか、というようなアドバイスも、頻繁に求めているのです。

「それから……」と監督。
「最近、カペッロスパレッティなどいろんな人から、『本田のポジションはどこだ?』と聞かれる。ヨーロッパの強豪クラブが圭佑に注目している。私は『パワーとクオリティを兼ね備えたトップ下だ』と答えている。ヨーロッパのビッグクラブでトップ下をやるからには、最低でも2ケタ得点を期待される。2ケタ決めないと、周りは納得しない。そのためにボールから遠い側のバイタルエリアで、ボールとゴールを見るポジショニングを身につけるんだ。特にセリエAでは、マーカーを背負いながらボールを受けると、相手はすぐにタクティカルファウルをしてくる。
 圭佑はプロ意識が高く、ストイックなのは知っている。その姿勢を変えることなく、自分にプレッシャーをかけてプレーすることを継続するように。何か分からないことがあれば、私にすぐ聞けばいい。そうやって高めあっていこう」
 監督からのアドバイスを聞いた圭佑は、「Grazie!」と素直に感謝の意を示した。


 本田選手は日本代表のキーマンとはいえ、ここまでひとりひとりの選手のことを普段からしっかり観ていて、「代表以外でのサッカー選手としてのありかた」まで、きちんとアドバイスできるのか、と僕は驚いてしまいました。
 代表監督って、有名選手を自分の好みで集めてきて、パズルのピースのように、自分の型にはめて完成、みたいな仕事だと思っていたんですよ。
 でも、そんな甘いものじゃなかったのです。
 そろそろ日本人監督でも……という声もあるようなのですが、「世界のサッカーを知っている、体験している」、あるいは、強豪クラブチームの首脳部との人脈がある、というのは、やはり大きいのです。
 代表チームというのは、選手と世界との「接点」でもあるのだから。


 2011年にアジアカップで優勝したときのエピソード。

 機内で爆睡。成田到着。監督から森脇と権田(修一)にカップを持たせようと提案。最後までこの気遣い。
 森脇にはこのようなメッセージを送った。
「私はちゃんと君を見ている。頑張っているところも、サボっているところも。サッカーもプライベートも全部見ている。だから、これからも自分を信じるように。(アジア杯で出場機会はなかったが)君を選んだのは、私なんだ」
 ゲートを出ると、たくさんのファンたちが待っていた。素直に嬉しかった。

 ザッケローニ監督は、「代表チーム」に選ばれたことを自信にしてほしい、そして、代表から選考洩れしているときでも、つねに自分は君たちを見ている、というメッセージを発信しつづけています。
 この本を読んでいると、その「気配り」に圧倒されてしまうのです。
 そういえば、中日の元監督・落合博満さんも「監督の仕事は、選手たちを『見守る』ことだ」と、仰っていたのを思いだします。
 選手たちだって、ちゃんと見ていてくれる人の評価は、受けいれざるをえないのです。

 練習は試合前日のティピカルなメニュー。監督が、「チーム全体に向けて話をする時、監督は逆光の位置に立つんだ。そして全員が揃うのをちゃんと待ち、一人一人の顔を見ながら話すこと」と教えてくれた。この一つ一つのアドバイスが僕の財産。

 15時の全体ミーティングでの監督の言葉。
「代表チームに招集する基準として、4つのパラメーターがある。(1)タレント、(2)フィジカルコンディション、(3)向上心を持っているか、(4)協調性。この点をクリアした君たちが代表に呼ばれている」

 16時からトレーニング。
 監督は石原を評価。献身的な動き、裏への飛び出しが良い。
 初見の選手もいる中で指導する監督の姿を見てると、ディテールへのこだわりと即時の判断がすごいとあらためて感じた。選手全員をよく見ているし、何が良くて何が悪いかすぐに指摘できる。そして的確。


 ザッケローニ監督の言葉や行動には、すべて「理由」があり、それを明確に選手や周囲の人たちに伝えています。
 ワールドカップで結果を出せなかったがために「期待はずれ」な印象があったザッケローニ監督ですが、4年間を通してみると、ザックジャパンは、けっして悪いチームではありませんでした。
 親善試合とはいえ、フランス代表に勝ち、コンフェデレーションズ杯では、イタリアと壮絶な点の取り合いをして、世界を唸らせた。
 逆に言えば、どんなに立派な監督、すばらしいチームでも、ワールドカップという舞台で結果が出なければ、評価されないのが現実ではあります。
 この本を読んでいると、一視聴者としては、「こんな試合、興行収入以外にやる意味があるのか?」と感じるような「親善試合」や、ワールドカップ予選での「消化試合」でも、監督やチームは、ちゃんと目標を設定しており、一試合たりともおろそかにはしていないことに驚かされます。
 内心、こういう親善試合って、「とりあえず怪我しないようにしよう」っていう感じじゃないのかな、と思っていたので。

 
 きっと、アギーレ監督にも、選手やスタッフにしかわからない、いろんなことがあったはずです。
八百長疑惑で辞めた監督」ではなく、世界のサッカーを知るプロの監督としての顔も。


 「疑惑」がある監督だと、代表チームのイメージが悪くなる、というスポンサーからのクレームがあったのかもしれないし(その事情もわかる。宣伝になり、企業にとってプラスになるから、ものすごい額のお金を出して代表チームをスポンサードしているのだから)、2014年のワールドカップ以来、結果が出せておらず、アジアカップでもPK戦で敗れるという日本代表チームの悪い流れを断ち切るための「ショック療法」という意味もあったのでしょう。


 この『監督日記』は、「記録する」っていうのは、すごく大事なことなのだな、と、あらためて考えさせられる本でもあります。
 「ワールドカップで2敗1引き分けで、日本国民をがっかりさせたチーム」だと思っていた「ザックジャパン」への印象が、この本を読むと、大きく変わってくるのです。
 この本は、「そのなかで起こっていたこと」を語ることによって、「ザックジャパン」の歴史的な評価さえも、動かしてしまいました。


 ザッケローニ監督は、本当に日本という国を愛してくれていたのです。

「大輔、もし何年か後に私のことを聞かれたら、こう言っていたと伝えて欲しい。代表戦を行うたびに超満員のサポーターが熱い声援を送ってくれる。こんなに素晴らしい国は、世界中のどこを探しても他にない」


 僕も、あの東日本大震災原発事故のあと、日本を離れる外国人も多いなか、すぐに日本に戻ってきたザッケローニ監督が、「ただ日本のためになりたい」って言ってくれたことを、ずっと忘れません。

 

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