琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】ウェブニュース一億総バカ時代 ☆☆☆☆


内容紹介
あなたが見ているそのウェブニュース、実は広告かもしれない。
ほぼ無料で運営されているニュースサイトの収益構造を解説するとともに、
そこで「広告」と見えないような「記事」が、どのような企業の働きかけと
お金の流れによってできているかを明らかにする告発の書。
ウェブニュースを真実だと思って見ていると、あなたはどんどんバカになる!


「タダより高いものはない」
 そんなことを考えずにはいられない内容でした。
 僕はわりと広告に関する本を読んできたので、この新書に書かれている内容については「ああ、現場はそんな感じなんだろうな」という印象だったのです。
 ネット上の「広告」について多くの人がイメージしているのは、「あのうっとうしいバナー広告」とか「PRって書いてあるやつ」だと思うんですよ。
 「俺はネットリテラシーが高いから、広告とかは『Adblock』で全部ブロックしてるからね。ステマに引っかかってる連中は、バカだよなあ!」という段階で思考停止している人こそ、この新書を読んでおくべきです。
 いまの広告は、「広告」の顔をしていないものが少なくないのです。
 「広告」と書いてあるだけで毛嫌いする人は多いけれど、ちゃんとそう明記してあるものは、けっこう良心的なんですよね、むしろ。
 最近のニュースサイトでは、「記事のような広告」がどんどん増えてきています。

「今の時代”広告”と”記事”の間に線を引くなんてナンセンスだよ。記事のように面白い広告がある。一方で、広告のように企業の役に立つ記事がある。これらはすでに分けられないものだ」
 これは、あるニュースサイトの編集者から飲み会の席で私が実際に聞いた言葉である。編集者はこう続けた。
「そもそもなぜ無料で記事を読めているのかをユーザーは考えたほうがいいよね。新聞や雑誌を読むにはお金を払う必要がある。でもウェブでニュースを読む場合お金は必要ない。それはつまり”そういうこと”なんだよ。そうとも知らずに読んでいるとしたら……まあバカだよねえ」


 新聞や雑誌でも「広告主の意向」が反映されるというのは、ご存知の方も多いでしょう。
 それでも、これらのメディアは「読者からもお金をもらっている」。
 では、無料のネットメディアでの読者とお金を出す人の力関係は、どうなっているのか?
 これはまさに”そういうこと”が書かれている新書なのです。


 ただ、広告が必ずしも「悪」なのかというと、そうともいい切れないところがあって。
 ネット上のコンテンツを制作し、配信するには、人件費なり、設備投資なりにお金がかかります。
 ユーザーは、ネット上のコンテンツは、無料なのが当たり前だと思っている。
 「広告」でお金を稼ぐ、というシステムが無いと、ネット上のコンテンツを生み出す「動力」が失われてしまう。
 ネット上の「広告」とか「ステマ」って、ネット上ではとくに槍玉にあげられやすいけれど、これはテレビと同じ仕組みなんですよ。
 そしてこれは、テレビやネットだけの話ではありません。
 『文藝春秋』という月刊誌(芥川賞受賞作が掲載されることで有名)を読んだこと、ありますか?
 僕がこの雑誌を読んで驚いたのは、やたらと分厚い本のなかに載っている、有名人の対談記事を読んでいくと、片隅に「PRのページ」と書いてあったことでした。
 これ、「記事」だと思っていたのに……
 雑誌だって、以前から、こんな感じでした。
 「広告だか記事だかわからない」というのは、ネットの専売特許ではないのです。


 ネットの場合は、いろんな意味で「玉石混合」というのが、現状のようです。

「裏取り」という言葉がある。新聞記者やテレビ局の報道に携わる人間は、媒体に嘘や誤った情報が掲載されてしまわないように、その情報が本当かどうかを検証する作業を行う。これを裏取りと呼ぶが、ウェブニュースでこの裏取りが行われているかどうかは、正直”媒体による”という状況だ。
 媒体によるというのは、ウェブニュースの運営母体が新聞社であったり、テレビ局である場合も多いからだ。その場合は結果的に裏取りが行われた情報が掲載されることになるが、例えば数人で運営しているような小さな媒体であれば、裏を取らずに記事を掲載することは当然あり得る。それどころかソーシャル・ネットワーキング・サービスなどで流布されるデマ情報を”報道”として掲載している場合も……。
 ここまで読んで、あなたは驚いたかもしれない。「免許もいらない、誰が書いたかも分からない、裏も取っていない情報を掲載している媒体を”ニュース”サイトと呼んでいるの?」おっしゃる通り。

 こういう「デマニュースサイト」の情報を元に、「日本のマスゴミは……」なんて一席ぶっている人がネットには少なからずいるんですよね。
 「情報元は『2ちゃんねる』の書き込み」とか、「Twitterでの匿名の人の発言」とか……


 また、こんな手法も紹介されています。

 【図2−9】は、某ニュースサイトのインタビュー記事である。本文直下に「次のページ」というリンクがあり、併せて1から4までの数字が記載されている。
 これは、記事のページを細かく分けることで、ページビューを稼ぐ手法。一昔前のインターネットであれば、画像が多すぎるページ。縦に長すぎるページは容量が大きくなるため、ページを分けることはユーザーの利便性という面から見ても意味があった。
 しかし、昨今のように大容量通信が当たり前になると、細かすぎるページ分けは利便性の向上に寄与しにくく、むしろページビュー稼ぎのための上げ底の意味合いが強くなる。
 このようにページが分けられた記事は、ページが進むごとに閲覧者が減っていく。そのため、記事の結論やまとめが最後のページに書いてあると、そこまで辿り着くユーザーがほとんどいない……なんてこともあったりするから笑えない。

 そうか、あれは「PV稼ぎ」だったのか……
 そんなことまでして、ユーザーにわざわざ「クリックさせる手間」をかけさせ、「ページビュー」の見かけの数字を上げようとするなんて、セコすぎる。
 でも、これが「PV至上主義」が生んだ現実なのです。


 この本で興味深かったのは、けっこう具体的な「金額」の話が出てくるところでした。

 ニュースサイトも実は同じように広告を販売し、収入を得ているのだ。前ページ【図1−5】は「朝日新聞デジタル」という、新聞の発行部数700万部を誇る朝日新聞社が運営するニュースサイト。さて、どこに「広告」があるか分かるだろうか。
 正解は、【図1−6】の囲んだ4ヵ所・朝日新聞デジタルの媒体資料(広告出稿を検討する広告主が見るための資料のこと)を見てみると、きちんとそれぞれの枠に名前がつけられていて、一番上の横長のバナーが「プランディングボード」(1週間の掲載が保証され、1回表示毎に1円で販売)」、右下が「トップレクタングル(1週間掲載で低下450万円)」、左側の2行あるテキスト部分が「トップテキスト(1週間120万円)」、左下が「トップパネル(1週間120万円)」というそうだ。

 本のなかでは、図でわかりやすく「ここがこの広告枠」というのが示されています。
 「1週間100万円以上もするのか、僕はこんなところ、クリックしたことないのに……」と思うのですが、この広告って、実際にその値段相応の効果が得られているのでしょうか。
 PV(ページビュー)が多いサイトの「広告料」って、こんなに高額なのです。
 となると、なりふり構わず、「少しでもユーザーにクリックさせたくなる」のも当然です。
 そのためには、「いかにも広告」というものでは、あまり効果が期待できません。

 
 いまは、「広告」と「コンテンツ」の境界がさらに不明瞭になっている時代です。
 たとえば、某番組の「いま売れている本の紹介」は、ある程度「出版社側が売りたい本」のなかから選ばれているといわれています。
 それは、露骨に「広告としてやってくれ」というよりは、「ウチとしては、これがいま一押しなんだけど、どうでしょう?」というふうに「強制じゃないけど、おすすめ」されて、「著者もインタビューを受けてくれますから」と背中を押されるわけです。
 箸にも棒にもかからないような劣悪な本がすすめられるわけではないけれど、選者の「自由意志」ともいいがたい。
 そもそも、本気で選ぶとすれば、週に1冊のペースで「おすすめ」できるものを見つけることができるかどうか。


 以前読んだ広告についての新書のなかには「これから売りたいものを、マスメディアに企画を持ち込んで採り上げてもらい、自らブームをつくっていく」手法について書かれていました。
 マスメディアのほうも「ネタ」は多いに越したことはありませんから、向こうからアピールしてきたものに、食いつくこともあるのです(もちろん、全部言いなりになるほど、メディア側も甘くはありませんが)。
 ネットニュースに限らず、いまや、「ニュースは報じられるものではなく、作られる時代なのだ」ということは、知っておいて損はありません。


 考えてみると、ネット業界というのは、いまの「広告収入が頼り」という時代が続く限り、「誰かが広告に釣られてお金を落としてくれないと、成り立っていかない」のも事実なのです。
 「騙されちゃだめだ」とはいうけれど、ネットの広告には効果がない、ということが証明されれば、ネットの無料コンテンツは、素人の趣味のサイトだけになってしまうかもしれません。
 「俺は騙されたくないけれど、誰かが騙されてくれないと困る」というようなビジネスモデルが、この先も、ずっと続いていくことは可能なのだろうか?

 あなたはウェブニュースのことを「無料で読めるニュース」だと勘違いしているかもしれないが、正確には「ニュースサイトがあなたの個人情報を売ってくれる代わりに無料で読めている」だけなのだ。

 「ネット上の広告」についての基礎的な知識が、読みやすく、コンパクトにまとめられている良書だと思います。
 結局のところ、どんなに「騙されるものか!」と決意していても、いまの世の中でネットを使う限りは、「広告」を避けて通ることは難しい。
 だからこそ、このくらいのことは、知っておいたほうが良いんじゃないかな。


ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)

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