琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】ネットは基本、クソメディア ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
WELQに端を発するキュレーションサイトの問題をDeNA報告書と10年以上のネット編集の実体験から解説。もはや「マスメディア」となった2017年におけるネットの現実を示した上で、身を守る術を紹介する。


 中川淳一郎さんの『ウェブはバカと暇人のもの』が上梓されたのが、2009年。
 もう8年も経ったのか、まだ8年しか経っていないのか。

 
 この新書では、日頃ネットを使っていて苛立つことが網羅されていて、何度も「そうそう」と頷いてしまいました。
 ネットにはさまざまな検索サイトがあるのですが、僕がいちばん利用しているのはGoogleです。
 検索結果については、他の検索サイトよりも一日の長くらいはあると感じているのです。
 でも、Googleで検索上位に表示されるサイトをみて、「何これ?」と思ったことはありませんか?


 中川さんは、2017年5月22日に広島市内で逮捕された「渋谷暴動事件(1971年)」の大坂正明容疑者の逮捕直後の検索結果について紹介しています。

 逮捕報道から6時間、グーグル検索で「大坂正明」と入れると、トップに来るのはウィキペディア、続いてこの件を報じた産経新聞の記事が来る。
 私がこの文章を書いているのは23日朝5時だが、産経の記事は「5時間前」だ。3番目には第一報であろうNHKで「6時間前」となっている。そして、ここから「勝手サイト」が三つ続く。


(中略)


 学生運動をしていた中核派となれば、当然どこの大学かが気になるわけだが、この三つ目のサイトは見出しにその要素を入れてきた。だが、中身を見ると力が抜ける。

 大坂正明容疑者の出身大学は一体どこだったのでしょうか?
 大坂正明と検索をかけるとまっさきに【大学】という検索ワードが出てくるので気になっている人も多いんだと思います。大坂正明容疑者の出身大学について調べてみたんですが、信憑性のある情報は一切出てきませんでした。出身が北海道ということもあるので地元の大学を出ているという可能性も高いですね。中核派のメンバーの一人なので、そこで活躍していたのは東京に出て来てからだと言われています。 (本にはこのサイトのURIも掲載されているのですが割愛)


 あのよ、「一切出て来ませんでした」って、「一切」とまで言えるの? 「出身が北海道ということもあるので地元の大学を出ている可能性も高いですね」って、何が根拠よ。当時大坂は学生で、渋谷の暴動に参加しているわけで、北海道からわざわざ来たとでも言いたいのか? 私も大坂の出身大学は知らないため(千葉県内の大学という報道はあった)、これ以上は言わない。「地元の大学を出ている可能性も高いですね」と同様に「〇〇大学の学生だった可能性も高いですね♪」なんて恐ろしくて公の場で書くわけにはいかない。
 こうした記事が上位を席巻するというのは、もはやグーグルがクソサイトに完全敗北したようなものである。「そこそこ有名な芸能人」「健康情報」「美容情報」「犯罪者」を検索すると、こうしたサイトが上位に並ぶようになったため、ニュース以上の情報を得るためには、グーグルの2ページ目以降に行かなくてはいけなくなってしまったのだ。


 こういうこと、あるあるー!
 世界最高の頭脳集団であるはずのグーグル、もうちょっとしっかりしてくれよ……と言いたくなります。
 こういうサイトを強引に上位に表示するのが「SEO対策」というのなら、それはネット利用者に対する嫌がらせでしかありません。
「大坂正明容疑者の出身大学は一体どこだったのでしょうか?」
 それを知りたくてクリックしたんだよ!
 検索上位にこんなサイトがかなり多いことに、愕然としてしまうのです。
 (ちなみに中川さんは、著作権も肖像権も無視した「とにかく人々の興味を持ちそうなネタを網羅し、検索上位に表示させよう」といった意図を持ったサイト群を「勝手サイト」と総称しています)
 「〇〇(有名人の名前) 結婚」とかで検索してみると、「〇〇さんは結婚しているのでしょうか?ネットで検索してみましたが、信憑性のある情報は出てきませんでした。でも、美人でモテそうですから、もう結婚していてもおかしくはありませんね」とかいうのが、検索上位にずらっと並んでいるのです。
 こういうのをたて続けにみせられると、パソコンを壁に投げつけたくなります。
 Googleさんも有益なサイトを上位表示するように、改善を続けているようなのですが、そのアルゴリズムの隙をついて、「勝手サイト」は繁殖していきます。
 ネットの広告で、個人でもお金が稼げるようになってから、こういうのが、本当に増えてきた。
 ちょっとマイナーなキーワードで、ネットを頼るとこういう目に遭いまくるのです。


 こんなふうに、いかがわしいというか、魑魅魍魎が跋扈するネットメディアなのですが、その一方で、その影響力はどんどん強まってきています。


 これまでは、ネットを格下のように扱ってきたマスメディアも変わってきています。

 いまはネット発の情報がマスメディアを席巻しているともいえる。
 たとえばスポーツ紙の電子版に顕著なのだが、とにかく芸能人がブログを更新した直後、あるいはテレビ番組で波及力のある人物が発言をした後に「〇〇がブログで××と主張した」「〇〇が××(番組名)で□□と疑問を呈した」といった形の記事ができる。恐らく、ひたすらアメブロを始めとした芸能人ブログをチェックする担当者がいるのだろう。社員ではないのかもしれない。とにかく彼らは早いのだ。アメブロ芸能人ブログのトップページでは検索機能がついている。また、新たな更新順にブログを見ることができる。この両方を駆使し、「〇〇がブログで××と主張した」記事を出せるのだ。検索機能を使い、ひたすら「妊娠」「入籍」「結婚」「離婚」「出産」「誕生」などのキーワードを入れれば最新の「妊娠した芸能人」「結婚した芸能人」などを知ることができる。さすがにこれらの人生の一大事は頻繁には起こらないが、もう一つのテクニックがある。
 それは、話題のキーワードを入れることだ。たとえば、お笑い芸人・ガリガリガリクソンが飲酒運転の疑いで逮捕(後に釈放)されたが、この時、アメブロ芸能人ブログのトップの検索欄に「ガリガリガリクソン」という名前を入れれば、彼のことを批判する芸能人のことを発見できるのだ。そして「〇〇が飲酒運転疑惑で逮捕のガリガリガリクソンを批判」という記事が一本完成する。
 結局、かつての新聞記者が「足で稼げ」ではなく、「検索で最新情報を集め、他社よりも早く世に送り出せ」といった記事づくりが隆盛を極めているのである。


 最近は、その番組がまだ放送されている時間に、「出演者の発言」がネットにニュースとして採りあげられていることもあるのです。
 そういう記事が、けっこう人気上位になってもいます。
 地道に取材した記事よりも、こういう「有名人のブログやテレビ番組の内容を紹介するだけの記事」のほうが人気になって稼げるとなれば、ラクなほうに流れるのも仕方がない。
 でも、こんなのばっかりで良いのか?とは思いますよね。
 そもそも、元のブログを読めばいいのに、って話だし。


 ただ、今回の新書で、中川さんは、「ネットメディアの問題点」を語りつつも、「ネットの自浄作用」についても言及されています。
 「ネットはバカと暇人のもの」だったのだけれど、ここまで一般に普及してくると、ネットを特別な場所として扱うわけにもいかなくなってきたのです。
 あるいは、「ほとんどの人間は、バカか暇人」でしかなかった、ということなのか。

 今回のキュレーションサイト問題については、DeNAがすべてを引き受けるような形になったが、クソメディアはまだたくさん存在する。その一方、クソメディア駆逐のために良心ある人々の参入も増加しつつあるし、良い記事を量産するメディアに対して、ヤフー等のポータルも優遇するようになっている。クソでは生き残れない状態になりつつある。ただし、グーグル検索がクソ排除ができるかも重要だ。本書冒頭で紹介した「流行りものパクリ網羅型」はまだまだ猛威を振るっている。
 メディアの人間たちによる相互監視の機運も盛り上がり始めている。アメリカでは昔から政治家の発言やニュースについて事実関係を検証するサイトがあるが、日本においてもそれを進めるべく、スマートニュース株式会社の執行委員である藤村厚夫氏らが中心となり、「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)という団体の設立を発表した。2017年6月21日のことだ。
 2017年は、ネットメディアの様々なことがリセットされた年になるだろう。人材の流動化も進み、資金も流れている中、「脱・クソ」の良いチャンスである。


 WELQについても、ああいうサイトを問題視し、告発する善意の人々がネット内から出てきた、そして、実際にWELQを撤退させることができたというのは、ネットの変化であり、進化でもあると思うのです。
 とはいえ、「儲かる」かぎり、悪いことをしようとする連中も、生まれ続けるにちがいありません。
 本当の闘いは、まだ、始まったばかり。
 いずれにしても、これからの世界では、ネットを排除してしまうことは、もう、できないのだから。


fujipon.hatenadiary.com

ネットのバカ(新潮新書)

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