琥珀色の戯言

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【読書感想】おどろきの心理学〜人生を成功に導く「無意識を整える」技術〜 ☆☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
人にかならず好かれる方法がある!?/自分の感情は簡単にコントロールできる!?/特定のブランドをたくさん買わせることができる!?/人の記憶は簡単にすり替えられる!?/SNSを使った世論操作が可能!?――科学としての心理学が明らかにした、おどろきの研究結果。プロレス好きの気鋭の心理学者が、徹底的に面白く、わかりやすく解説!


「心理学」って、面白くはあるんだけど、まあ、飲み会の会話のネタくらいにしか役に立たないよね。
テレビ番組での「心理テスト」とかで、人間の性格が4つくらいの類型に分けられるというだけでも、けっこう適当な感じがするし……
あれが「心理学」かどうか、僕もあまり自信はないですが。


 著者は、「はじめに」で、「皆さんにとって、心理学のイメージは、取っ付きやすくて面白い反面、どこか『うさん臭い』『怪しい』といったものではないだろうか」と仰っており、「まさにその通り!」と僕は心の中で呟いてしまいました。


 この本、ものすごくフランクに「心理学」について語られているのですが、中身は真剣というか「科学としての心理学」を多くの人に理解してもらいたい、という思いが込められた意欲作なのです。

 ただし、本書で扱う心理学は「実験心理学」のみである。
 心理学には大きく2つの分野がある。それは実験系と臨床系である。臨床系は、臨床心理士やカウンセラーになる人材が、患者さんの心を改善するためのノウハウを学ぶ学問である。一方、実験心理学は、統制された特殊な環境下に人間を置いてなんらかの刺激を与え、その刺激から得られた反応(行動)を記録する学問である。最終的には、刺激に対する人間の行動パターンから、人間の心の振る舞いの特性を推察する。


(中略)


 本書では、モテ、サブリミナル、記憶、意思、血液型診断などの身近な心理学のトピックを取り上げ、実際に科学として行われた心理実験をできるだけ正確にお伝えしていく。読み終わる頃には、最新の心理学について一通りの知識が得られるとともに、心理学的に正しい思考法、方法論を身につけることができるだろう。


 著者は、「モテる心理学」という宣伝文句の問題点について、「赤い背景で囲まれた女性のほうが、男性からは魅力的にみえる」という実験結果を例にあげて、このように解説しています。

 赤でモテるという元論文でも、30人以上の被験者から回答を求め、さらに同じ実験を繰り返していたのは、反応を平均化・平滑化するために必要な作用だった。
 今日、赤い服を着たからサトシ君の好感度が上がるはず、というシングルショットの期待は、心理学的に正しい態度ではなく、そういう期待を持つべきではないのである。
 では、心理学的に「赤でモテる」を正しく応用すると、どうなるだろうか?
 それは、ある女性が100回合コンやお見合いパーティに参加して、毎回何十人もの男性と交流する際に、100回毎回赤い服を着て参加する場合と、同じく毎回青い服を着て参加する場合とでは、相手に言い寄られる回数のトータルが、赤い服を着た場合の方が、青い服を着た場合よりも確実に多くなるという事例である。100回という繰り返しかつ不特定多数の男性に対しては、赤は確実に効果を発揮する。
 つまり、心理学では「あの人にモテるための戦略」は立てられない一方、「人間一般、男性一般によりモテるための戦略」であれば立てることができるのだ。しかし、そこで「モテた」として、その言い寄ってきた男性の中にA子さんの好みの基準をクリアする相手が何人いるのかは、心理学では全く考慮に入っていない。ここに大きな問題がある。
 往々にして、人間の心の問題は「誰でもいいからモテたい」というよりも「特定のあの人にモテたい」というものである。後者のような、特定の事例での効果的な方法論は心理学では提供できない。なぜなら、心理学は平均値の科学だからだ。


 異性全般(あるいは、ある世代とか、特定の地域に住む人たち、というくらいまでは絞り込めるかもしれません)に、モテやすくなるような戦略には、心理学を役立てることができるけれど、あこがれの「あの人」に好意をもってもらえる「必勝法」みたいなものはない、ということなんですよね。
 いやほんと、著者は誠実だよなあ。


 この新書では、大変興味深い実験結果が、たくさん紹介されています。
 サッカー界の大スター、ネイマール選手がプレーしているとき、彼の脳はどうなっているのか?
 

 そんなの簡単。一般人よりも広範に脳をフル稼働させて、あのすごいプレーを生み出しているに決まってるだろ、と、僕は思ったんですよ。
 著者も、多くの人はそう思うはず、と述べています。
 ところが、実際に脳のスキャン画像を撮影してみると、意外な結果が得られたのです。

 ネイマールは、足首の運動に対して最も小さく脳を活性化させており、次にプロのサッカー選手、その次にサッカーはしていないものの普段から体を使っている水泳選手で脳の活動が小さい。逆に、一般人で最も脳の活動が大きい。さらに、一般人では活動部位が多岐にわたっているのに対して、ネイマールは運動野という部分のわずかに2つの領域が小さく活性化しているだけだったのである。


(中略)


 つまり、サッカーがうまい、体をコントロールすることが巧みな人ほど、それに割かれる脳の活動が小さいのである。その活動に必要な部分だけを効率的かつ経済的に活性化させているといえるのだ。


 著者は、このことを「脳を活性化すればするほどエネルギーを使うことになるので、技術が巧みな人が最小限のエネルギー消費で同じことをできるというのは『省エネ』ということなのだ」とも述べています。
 効率を考えると、たしかにそうなんだよなあ、と。
「運動でも勉強でも、その上達を志す子供には『いかに脳を活性化させるか』ではなく「いかに脳を活性化させないか」を目指すように指導するのがよいだろう」
 もちろん、それができるようになるにはトレーニングが必要なのですが、「脳の活性化」が善であるとは限らない、ということです。


 また、「サブリミナル」の実験についてのこんな話も。
 1957年にジェームズ・ヴィカリーという人物が映画のなかに、ポップコーンを食べろ」「コカ・コーラを飲め」というメッセージを「5秒ごとに3000分の1秒」挿入したところ、売店でのポップコーンとコーラの売り上げが激増じた、という報告をしています。
 この「サブリミナル広告」の話、知っている人は多いはず。
 僕も、もちろん知っている……つもりでした。
 ところが、著者はこんな「驚きの事実」を紹介しています。

実はサブリミナルカットは、捏造された話だった。ヴィカリーの1957年の発表から5年後の1962年、ヴィカリー自身が「あの発表は嘘だった!」と告白しているのだ。ヴィカリーは、当時自分が経営する広告会社の業績不振に悩んでおり、起死回生の一発として、サブリミナルカットの話をゼロから捏造したのだ。つまり、なんとか儲けを出して倒産を逃れたいという思いで、全くの空想話をでっちあげ、さも事実であるかのように発表したのである。
 このカミングアウトについて、多くの読者は知らなかったのではないだろうか。


 僕は知りませんでした……僕が子供の頃読んだ本(たぶん日本で1980年代に読んだもの)には、サブリミナル広告の恐怖!というような感じで、この「ポップコーンを食べろ!」の話が紹介されていたけれど、捏造だったという告白はスルーされていたのです。
 ただし、この「サブリミナル広告」についての話は、その後、さらに意外な方向に転がっていったのです。
 心理学って、けっこういろんなことをやってきたのだなあ。


 そのほかにも、血液型の話や、サッカーに本当に「危険な時間帯」というのが存在するのか、など、親しみやすい話題がちりばめられており、それらが実際に行われた実験や統計を根拠に説明されているので、「腑に落ちる」本なんですよ。
 こうしてみると、心理学というのは、たしかに「科学」なのだということがわかります。
 人の心が対象なだけに、「うまく実験できているのか」を検証するのが難しい、というのも伝わってくるんですよね。


「心理学」好きの人だけでなく、「心理学って、うさんくさいな」と疑問に感じている人にこそ、読んでみていただきたい新書です。