琥珀色の戯言

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【映画感想】3月のライオン 後編 ☆☆☆☆

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あらすじ
プロ棋士の桐山零(神木隆之介)が、川本あかり(倉科カナ)、ひなた(清原果耶)、モモ(新津ちせ)の川本家3姉妹と食卓を囲むようになって1年。彼女らとの交流に安らぎを感じる一方で獅子王戦に臨もうとするが、幸田柾近(豊川悦司)は頭をけがして入院、その娘・香子(有村架純)は妻のいる後藤正宗(伊藤英明)との関係に悩み、二海堂晴信(染谷将太)は自身の病気に苦しむなど、それぞれ試練に直面していた。さらに、川本家には3姉妹を捨てた父親が現れたことで不穏な空気が漂い始める。

www.3lion-movie.com


映画『3月のライオン 前編』の感想はこちらです。
fujipon.hatenadiary.com


 2017年の映画館での9作目。
 レディースデーのレイトショーで、20人くらいの観客でした。


 ネットでは「前編は大コケした」などと書かれていたのですが、原作未読の僕にとっては「原作ファンの失望」はよくわからず、けっこうよくできた将棋を題材にした映画だな、と思っていたのです。
 後編は、宗谷名人を超える、という話になるのだろうな、と思っていたのですが……
 これを観ながら、将棋の世界って、一戦一戦がどのくらいの「重さ」なのだろう?と考えていました。
 あの羽生さんですら、通算対局成績では、勝率は7割強です。つまり、10回指せば、3回弱は負け、なんですよね。
 プロ野球でもペナントレースで首位のチームが全勝というわけではないように、個々の勝負では、負けることもあるのが将棋の世界です。
(誤解なきように申し添えておきますが、天才揃いの棋士のなかで、しかも、相手はトップクラスばかりのなかで羽生さんの勝率7割というのは、驚異的な数字です)
 それなのに、一局に、こんなに集中していくものなのか。
 案外、コロッと負けてしまうこともあるのではないか。
 羽生さんの場合は、そういう負けがなかったから、七冠なんていう信じられない記録をつくることができたんですよね。
 しかし、最近の将棋に関するコンテンツをみていると、実在の棋士の話である『聖の青春』はさておき、フィクションでも、名人は軒並み「羽生さんみたいな人」として描かれているのは、羽生さんの影響力があまりに大きいことを示しています。
 羽生さんが第一線を引いてしまったら、将棋界はどうなっていくのだろうか。
 そんなに目立ちたがりというわけでも、饒舌でもないのに、キャラクターとして、あれほど「立っている」人というのも稀有な存在だよなあ。
 この『3月のライオン』の宗谷名人は、作者によると「羽生善治さんと谷川浩司さんを足して2で割らないような感じ」だそうなのですけど。


 観ていて気になったのは、いろんなことが中途半端というか、なんだかスッキリしないまま終わってしまったことでした。
 とくに、ひなたの学校での出来事については、あれで「解決」なのか(いや、本人も「終わったみたい」としか言ってないけど)、それでいいのか?とものすごくモヤモヤしてしまいました。
 でも、ああいう終わり方が、たぶん、現実で起こりうる可能性のなかでは、いちばんマシなんだろうな、うーむ。
 結局、「相手とまともに戦ったり、説得することよりも、ブチキレて広い範囲にぶちまけ、上層部が隠せなくしてしまうことのほうが問題解決につながる」のだよなあ。
 相手は「反省」なんてしない。壊れたものは、元には戻らない。
 それでも、ずっとあの状態が続くよりは、はるかに良いのだとは思うけど……やっぱりスッキリしない。
 桐山零のあの「正義感」には、応援したくなるのと同時に、それは周りも困惑するだろうな、という気がしました。


 幸田家の問題も、川本家の問題も、なんというか、「平和そうに見える家庭でも、一歩足を踏み入れてみれば、こんなもの」というレベルの崩れかたで、かえって観ていてつらいところがあったのです。
 大人になってあらためて痛感したのは、家族関係とか友人関係というのには、多かれ少なかれ、イビツというか、清くも美しくもない要素が含まれている、ということなんですよ。
 そんななかで、悩んだり苦しんだりしながらも、「一歩でも前に進むことの尊さ」みたいなのが、この作品の大事なところなのかな、と。 
 現実には、すべてが丸く収まるようなハッピーエンドなんて、そうそうやってこないのだよね(まあ、この『3月のライオン』もフィクションなんだけど)。


 エンドロールの『春の歌』を聞きながら、たしかにこれは、そっとやってきた春のような映画だな、と思いました。
 これは、そう簡単に「終わる」ようなドラマじゃない。


 どこかで聴いたことがある歌だったけど、そうか、スピッツの曲だった。
 個人的には、宗谷名人をもうちょっと掘り下げてほしかったのだけれど、上映時間的に厳しかったのかな。
 加瀬亮さんの宗谷名人、その場にいるだけで「名人っぽさ」が伝わってきます。
 あと、豊川悦司さん、伊藤英明さん、佐々木蔵之介さんといった、棋士を演じた俳優さんたちが素晴らしかった。前編では、「海猿棋士?」と内心毒づいていた伊藤英明さんの後藤さんが、後編ではすごくよかった。
 あと、伊勢谷友介さんがあんな役とは!
 ……ただ、あの伊勢谷さんの役って、あまり自分に自身がない父親である僕としては、なんだか身につまされるところもあって、桐山くん、そんなに追い詰めなくても、とも思っていました。
 それでも、なんというか、あまりズルズル行ってもロクなことにはならないだろうし、でも、あの人、あれからどうするんだろう……


 原作はまだ完結していないみたいだし(というか、この映画版も完結しているとは言いがたい)、最初から原作を読んでみようと思います。
 この映画って、「もうちょっと描きたかったところ」が、きっとたくさんあったんじゃないかな。
 でも、その「中途半端さ」が、現実というもののもどかしさ、でもあるようにも思われるのです。
 あえてそうしたのか、結果的にそうなったのかは、僕にはわからないんですけど。


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