琥珀色の戯言

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【読書感想】 明日クビになっても大丈夫! ☆☆☆☆

明日クビになっても大丈夫!

明日クビになっても大丈夫!


Kindle版もあります。

明日クビになっても大丈夫! (幻冬舎単行本)

明日クビになっても大丈夫! (幻冬舎単行本)

内容紹介
商社マンを辞めて好き放題してるのに、
サラリーマン時代の何倍もの年収を稼ぐようになった
WEBライター・ヨッピーの
ストレスフリーな生き方!


いまを生きながら楽しく稼げ!


「現役の千葉市長とゲーム対決をする」「AV女優と童貞を合コンさせる」「24時間テレビの100kmマラソンが本当に大変なのか試す」「大阪でひたすらたこ焼きを食べる」などの面白記事をネットで発信し続けているWEBライター・ヨッピー。
好き放題しながら楽しく稼いでいる彼による、
会社に寄りかからずに生き延びる方法。


・新卒で入った会社の仕事が死ぬほどつまらなかった話
・個人のやりがいがないほうが、組織がまわるという不幸
・日本の大企業はなぜダサいのか
・会社を辞めてもいい3つの条件
・好きで仕方がないことを仕事にしたほうが断然強い
・「好きなものが見つからない」という人は、単にまだ気付いていないだけ
・僕の収入に関する本当の話
・ライバルに勝つための「ちょい足し」のススメ
・自分にとっての「神様」は誰なのか問題
・アイデアは見つけようと思ったら見つけられる
・六本木の会員制バーには行くな
・とりあえず水風呂に入ろう  など。


 
 この本を読んでいて、僕は、高橋留美子先生のことを思い出しました。
fujipon.hatenablog.com

(以前、高橋留美子さんの担当編集者だった、有藤智文さんからみた「マンガ家・高橋留美子」より)

 とにかく高橋先生は、本物のプロフェッショナル。四六時中マンガのことを考えながら、メジャーなフィールドで優れた作品を極めてスピーディーに作り上げる。マンガが本当に好きで一所懸命だから、『うる星(やつら)』はアニメ版も盛り上がって、別のファン層も生まれていったんですけど、そちらのほうは基本的にノータッチでした。
 もちろん天才ですけど、それ以上に努力家なんですよね。もう、仕事を休むのが大嫌いな人で。この間、『1ポンドの福音』を単行本にまとめるために、『ヤングサンデー』で完結まで集中連載したんですけど、その時も『少年サンデー』の『犬夜叉』の週刊連載を休まなかった。『うる星』を描いている頃は、並行して連載している『めぞん一刻』を描くことが息抜きで、『めぞん一刻』の息抜きは『うる星』だとおっしゃってましたからね(笑)。


 ヨッピーさんは、「本当に好きなことなら、サラリーマンをやりながら、土日にだって副業としてできるはず」だと、この本のなかで仰っています。
 その通りだと、僕も思う。
 そうか、ちゃんと保険をかけながら、とりあえずやってみればいいんだ、と勇気づけられる人も多いのではないでしょうか。
 少ない時間をやりくりしてでもやりたい、とか、やることそのものが気分転換になる、というレベルに「好き」じゃないと、その副業を仕事にするのは難しい。
 ヨッピーさんは「書く」ために、いろんな人間関係や会社での評価を捨ててもいるのです。
 ここまで、ネットで書くことを人を喜ばせる(あるいは、呆れさせる)ことが好きで、企業案件などでは、面白くするために、必要なお金は惜しまずに投資する、という姿勢のトップランナーがいるとなると、「ヨッピーさんのようになる」のは、ものすごくハードルが高い。
 というか、ここはもう、いわゆる「レッドオーシャン」ではないか、とも思うのです。


 ヨッピーさんは、もともと『オレイズム』というテキストサイトをやっていた方なんですよね。
 同じ時代から個人サイトを運営してきた僕としては、あの時代の「お金になるなんてことは想像もせずに、ただ書きたい、読んでもらいたい、という謎の情熱」を持ち続けていることが、ヨッピーさんの凄さなのかな、と思います。
 「なんでお金にならないことをするんだ?」って言う人は多いけれど、世の中には「楽しいからやっている」という人がたくさんいて、そういう人の「突き抜けた『好き』」が、時代の波に合って、結果的にお金として評価されることもある。海洋堂の造型師のボーメさんとかもそうですよね。
 ヨッピーさんの話はすごく面白いのだけれど、「一般人が真似することが可能か」で考えると、まだ、ブログサロンの人とかのほうが、現実的ではないか、とも感じるんですよ。

「サラリーマンを辞めてブログ一本で生活します!」「僕はブログで自由に生きるんだ!」みたいな人達が最近はちらほら出てきていて、「僕は自由です!」「満員電車とはおさらばダ!」「サラリーマンなんてくそくらえ!」みたいに調子こいてる人達がいるのだけれど、そういう人達はみんな「今月はいくら稼ぎました」とか「こうして稼げるようになりました」みたいな記事、そしてアフィリエイトのリンクをずらずら並べた記事ばかりを書き、「ブログで稼げるコツを教えます! 月の5000円から!」みたいな事を言い出すのは単純にそういう記事を書いて信者を作り、信者からお金を巻き上げないと生活ができないからだ。型にハマるのを嫌ってサラリーマンを辞めたのに、今度は「ブロガー」という型にハマる。チンカスみたいな話である。
 でも、副業として、趣味の延長線上でやるのであれば、そんなふうなしがらみに囚われなくて済む。

 
 正直、僕はそういう「型にハマったブロガー」たちの記事をみるたびに、この人たちは、こんな「スカスカおせち」みたいなものを売ることに、罪の意識はないのだろうか、って思うんですよ。
 でも、彼らを慕う人たちをみていると、お金が欲しい、というよりは、何か信じるもの、あるいは志を同じくした「仲間」みたいなものが欲しくて、そのコミュニティに所属しているのではないか、という気もするのです。
 お金だけなら、コンビニでアルバイトしたほうがよっぽど稼げる人がほとんどなのだから。
 彼らは、「しょうもない記事」「誰にでもできるような、Wikipediaのコピペ」にも、惜しみなく賞賛の言葉を投げかけます。
 それは、妄信なんだろう、と考えていたのだけれど、もしかしたら、「これくらいなら自分にも書ける」というような共感や希望が、かれらに「参考になります!」とコメントさせているのかもしれません。


 ただし、ヨッピーさんは、「はあちゅうさんが世界一周したことはどうでもいいけれど、スポンサーをつけて、その経過を発信したことには意義がある」とも仰っているのです。
 受け取るだけではなく、受け取ったものを自分なりに消化して、なんらかのリアクションを発信し、「生産する趣味をつくる」ことが大事なのだ、と。単なる日記でもいいから、「自分から発信してみる」ことで、得られるものは、けっこう大きい(失うかもしれないものもあるけど)。
 だから、ヨッピーさんを単なる「アンチイケダハヤト」として快哉を叫ぶのは間違っていて、イケダさんが高知に移住して、現地での生活について発信していることに関しては、ちゃんと評価しているのではないかと僕は思っています。
(わざわざそういう断り書きをつけないのが、ヨッピーさんのテキストサイト時代からの経験の蓄積による「処世術」みたいなものなのかな)


 お金のこともけっこう赤裸々に書かれていて、「ネットを利用して自由に生きるための戦略」についても解説されているのですが、僕はヨッピーさんのような転職はできそうもありません。
 でも、ヨッピーさんの生き方を取り入れることはできる、というか、読んでいて、「そういえば僕も、ネットで発信できるようになったことによって、自分のなかの物事の見方が変わったし、人生を積極的に楽しめるようになったな」と頷いていたのです。


 ヨッピーさんは、「なぜアイディアが枯渇しないか」について、こう書いておられます。

「なんの話をしてるの?」と聞かれそうなので解説をすると、例えば貴方が朝起きて、会社に向かうために駅まで歩いていたとする。その時に「落ちてる一万円札」を見つけられるかどうかの話だ。もし貴方が、何も考えずに道を歩いていると、落ちている一万円札に気づかずに通りすぎるだろう。だけど、家を出る前に「今日、駅まで歩く道のりで一万円札が落ちてる」という情報を事前に知っておけば落ちてる一万円札に気づく事が出来る。
 つまり、日常的に「ネタを探す」という姿勢が取れているかどうか、の話なのだ。僕は企画を考える仕事をしているので、常日頃から「何かないかな」「このネタどうかな」と思いながら日常を過ごす事が身についているのだと思う。だからインターネットの記事を見ていて、「おっ。これをネタにしよ」と思う事も多々ある。こういう意識を普段から持ってるかどうかだけの違いでしかない。


fujipon.hatenablog.com


 僕は「食える」ほどブログでは稼げないけれど、仕事をしながらでも発信できる時代を生きられて良かったと思っています。
 自ら発信することによって、大きなお金を稼ごうとすると、満たされずに悶々とするばかりになってしまうけれど、「食べていけなくても、好きなことを好きなように書ける、そして、たとえ少ない数でも、読んでくれる人がいる」っていうのは、すごいことなのです。
 ネット以前の時代は、商業ベースに乗らないものは、知り合いに読んでもらうか、何らかの媒体に投稿して採用されるしかなかったのだから。
 

 ネットを使って、食べていけるかいけないか、というのではなく、人生を少しでも楽しめるようになるかどうか。
 僕は「ネタを探す姿勢」を身につけたおかげで、退屈だった日常が、けっこう楽しくなりました。
 案外、転がっているものなんですよ「一万円札が落ちているつもり」で探せば。


 ヨッピーさんは、ある意味「特別な『好き』を持った人」であり、そう簡単にまねできるものではありません。
 国会議事堂の前で自慰行為をやる、なんていうのは、正気の沙汰じゃない。
 しかも、そんなことさえ、もうヨッピーさんがやってしまった後なので、二番煎じになっているのが、今のインターネットなわけで。
 
 
 僕がいちばん「これは真似できないな」と思ったのは、この話です。

 例えば以前、オモコロのみんなで河口湖のほとりに「合宿」と銘打って30人やそこらでコテージを借り切って1泊2日の旅行に行った。でも、やっぱりオモコロのみんなで行くのだから「普通にはしたくない」という思いがあるわけで、そこでオモコロを運営する株式会社バーグハンバーグバーグの社長であるシモダテツヤに「なんかやろうぜ」と僕がこっそり持ち掛け、その席上でオモコロのライターの一人である「セブ山」の服を全部燃やすというドッキリを仕掛ける事になった。


 ああ、大学生ノリだな、僕も学生のころは……って、僕は学生の頃でも、ここまでのことは知人にもできなかったし、こういうことを笑えなかった。
 吉本の若手芸人の「誰がいちばん面白いかチキンレース」のようなことを真剣にやってきて、下積みもあって、ヨッピーさんはここにいるのです。
 ある種の「狂気」さえ感じます。
 表現とか創造の世界で「突き抜ける」というのは、簡単じゃない。
 そして、このオモコロでの合宿で、セブ山さんも含めてみんなこのノリを楽しんでいたにもかかわらず、「普通にパワハラだし、外部に出したら炎上するだろうな、と思って記事にしなかった」というバランス感覚が、ヨッピーさんのすごいところなんですよね。
 企業広告を受けながらも、「もっとも大切にしているのは読者」というスタンスがぶれないところも。
 もしかしたら、こういうのって、「お金が稼げるなんて露ほども思っていなかったテキストサイト時代を経験してきた」からなのかもしれませんね。
 どうせ、もともと稼げるものじゃなかったんだし、っていう。
 「お金になるのが当たり前」からスタートすると、どうしても、福沢諭吉さんの顔色が気になるのではないかなあ。


 僕は最近、自分の時間をなるべくつくって、北海道に日本シリーズを観に行ったり(カープ負けたけど)、徳島の大塚国際美術館まで自分で車を運転して1泊旅行に行ったり、仕事のついでにブリューゲルの絵を観たりしています。
 ヨッピーさんの「生きる上で大事にしている三つの事」のひとつに「行きたい所に行く」というのがあるのだけれど、今の日本の(いや世界レベルでもそうだな)交通機関の発達とローコストキャリア(LCC)の充実を考えると、大概のところに行けるんですよ、本当に行こうという意思さえあれば。
 ヨッピーさんにはなれないけれど、ヨッピーさんの生き方のエッセンスを取り入れることができる人は多いはず。


 「副業」とか「お金を稼ぐ」というところがクローズアップされがちだけれど、本当は「いま、閉塞感にとらわれている人たちが、少しでも多く幸せを感じながら生きるためには、どうすればいいか」というヒントが書かれている本だと思います。


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