琥珀色の戯言

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【読書感想】TikTok 最強のSNSは中国から生まれる ☆☆☆☆

TikTok 最強のSNSは中国から生まれる

TikTok 最強のSNSは中国から生まれる


Kindle版もあります。

TikTok 最強のSNSは中国から生まれる

TikTok 最強のSNSは中国から生まれる

内容(「BOOK」データベースより)
中国籍ながら日本で育った著者は、20年ぶりに帰国し、想像を超える進化を遂げていた社会に驚愕する。顔認証だけで決済できる自販機、火鍋屋で忙しく動き回る配膳ロボット、老若男女みなが夢中になるライブ配信アプリ…。中国には日本にはないサービス・商品が多数生まれていたのだ。14億もの人口がひしめき、日本の何倍ものスピードで変化し続ける中国では、想像力と技術の限りを尽くして壮大な社会実験が繰り返されている。そうした「未来国家」中国から見えてくる、数年後の日本の姿とは―


 TikTokって、こんなに盛り上がっているんですね。
 僕はTikTokに、女子高生が踊っている短い映像ばかり、というイメージしなかくて、若者の間で一気に流行っていつのまにか消えてしまうサービスのひとつなんだろうな、と思い込んでいました。
 
 著者がいま、TikiTokの運営元のバイトダンスで働いている、ということで、その課題や問題点を指摘することは難しいだろうな、とは思うのですが(いちおう、「この本を書いた時点では、バイトダンスでは働いておらず、利害関係はなかった、と説明されてはいますが、まあ、鵜呑みにはできませんよね)、現在の中国での「動画サービス」の状況についての話には驚かされました。

 著者は中国で体験した「動画文化の広がり」について、こんなふうに紹介しています。

 たとえば、電車の中、日本で電車に乗ってまわりをみてみれば、SNSをいじっているか、スマホゲームをやっているか、もしくはニュースアプリなどで記事を読んでいる人が大半ではないでしょうか。もちろんなかにはNetflixYouTubeをみている人も若干いますが、中国では、実に半数以上がなにかしらの動画、しかも長くて数分の短尺動画をみているのです。

 そして、街中の屋台。中国の田舎の街では、今も昔も変わらず屋台が庶民の食事を支えているのですが、店番のおじさんやおばさんが、自分が調理している風景をスマホライブ配信していました。なにも揚げパンや串焼きをつくる腕前を自慢したいわけではなくて、あくまでも単調な作業が暇なので、なんとなくというノリで配信もやっている様子。ライブ配信で誰かが反応をしてくれれば気も紛れるし、万が一でも、誰かが「投げ銭」(もちろんアプリ上の機能です)をしてくれればラッキー、といった程度で配信をしているのです。

 わたしの体感ですが、中国で店番をする人は本当に99%の確率で、みんな暇つぶしにスマホで動画をみている。そして5~10人に1人程度はライブ配信をしている。驚異的な使用率です。
 こうした様子に衝撃を受け、すぐにライブ配信アプリをいくつかダウンロードしてみました。すると、「屋台系配信」がしっかりジャンルとして成立していること、正確には「屋台系」だけでなく、多くの一般人が積極的に日常風景をライブ配信していることに気づきました。しかも、そうした日常をコンテンツとして配信しているのが若者だけでなく、老若男女すべての人であることに驚きを禁じ得ませんでした。


 日本では、YouTuberなどの「動画配信者」は少なからず存在するのですが、ここまで日常的なものではありません。
 なんのかんの言っても、「配信する側」になるのは敷居が高いですよね。
 ところが、中国では、ここまで気軽に、多くの人が「配信者」になっているのです。
 その理由として、著者は、ネットワーク環境の整備とともに、TikTokが基本的に15~60秒というショートムービーであることを指摘しています。
 僕は、「そんな短い時間じゃ、それこそ、女子高生が踊ってみせるくらいしかできないだろう」と思っていたのですが、中国では「そのくらいの時間だったら、自分もちょっとしたアイデアやノリで、コンテンツを作れる」と考える人が大勢いました。
 YouTubeで10分くらいの見てもらえる動画をつくろうとすれば、それなりのトーク力や編集技術が必要になりますが、TikTokでは、そのハードルがものすごく下がったのです。

 TikiTokの大きな武器として、著者は「協力なレコメンド機能」を挙げています。

 TikTokというアプリの最大の特徴の1つは、ユーザーが「自分で動画を探さなくてよい」ことにあります。バイトダンス社が誇る強力な機械学習の技術が、視聴者ごとに最適化された動画をお薦め(レコメンド)してくれるのです。そしてユーザーがTikTokを使えば使うほど、その精度は高くなります。

 加えてTikTokは、「画面をスワイプするとすぐに次の動画あり、動画終了後には自動リピート」と、ユーザーに次々と動画をみせる連続性にも長けています。
 動画メディアにとって、この「ユーザーが連続して視聴してくれるか否か?」はとても重要な指標です。

 ほかのサービスでも、たとえばNetflixのユーザーであれば、この「連続視聴」を強く意識した仕様の強力さを体感しているはずです。たとえば連続ドラマのコンテンツであれば、1話をみおわるとシームレスに、絶妙に計算された間でストレスなく次の話に移っていきます。Netflixをみはじめると、ついつい「あともう1話だけ……」を繰り返してしまう、という人も多いのではないでしょうか。

 一方で、YouTubeはまだまだユーザーに連続視聴をさせる設計が弱いと感じます。たとえばYouTubeで動画をみていると、途中でまったく関係ないCMが挟み込まれることがあります。この中断は、視聴者の連続性を損なってしまう仕様です。それに対してTikTokの場合、CM動画すらも完全にコンテンツに溶け込んでいるため、視聴体験が中断される感覚がほぼありません。それによって、ユーザーが圧倒的にハマってしまう中毒性が生まれているのです。


 YouTubeは、「ここで広告か……」と興ざめしてしまうことが多いですよね。配信側とすれば、「いいところ」にCMを挟んだほうが、視てもらえる確率が高くはなるのでしょうが、それは「視聴者の反感」と背中合わせです。
 ただし、TikTokに関しても、今後、さらに広告で稼ごうとするのであれば、「お金になりやすい動画」ばかりになってしまう、という可能性はありそうです。


 また、TikTokでは、クリエイター(配信側)のモチベーションを保つための工夫もなされているのです。

 TikTokのレコメンドのシステムは、視聴者だけでなくクリエイターにとっても重要な意味を持ちます。
 TikTokのレコメンドのシステムは、「クリエイターのフォロワー数に限らず、優良なコンテンツを評価し、適切なユーザーに届ける」という理念のもとで設計されています。よって、たとえ駆け出しのクリエイターが投稿したコンテンツであっても、平等に一定量の初期アクセスが付与されます。そこから、コンテンツのいいね数、シェア数、視聴完了率、コメント率など、アクセスを配布した先のユーザーからの評価を見て、良ければさらに大きなアクセスを渡す……といった仕組みになっているのです。
 したがって、フォロワーがまったくいない新参者のクリエイターでも、良質で面白いコンテンツを作れば、一発目で評価されて膨大なアクセスを獲得する可能性もあります。一方で、フォロワー数百万人のようなビッグアカウントのインフルエンサーでも、手を抜いた面白くないコンテンツを上げれば、広く拡散されることはないのです。

 この仕組みは、フォロワー数絶対主義の他SNSTwitterInstagramYouTube)とは一線を画しています。

 女子高生たちのダンスやリップシンクなどの「アイデア」は、ブームとして遠からず過ぎ去っていくでしょう。しかし、こうしたTikTokの裏側にあるバイトダンス社の圧倒的な技術力は、一朝一夕に真似できるものではないのです。


 バイトダンス社は、もともとニュースアプリで、機械学習の最適化に注力してきた会社なのだそうです。
 そのアプリの開発で、ユーザーへのレコメンド機能を追求してきたことが、TikTokで活かされているのです。
 バイトダンス社は、動画配信サービスの会社というより、機械学習によって、そのユーザーが求めるものを選択し、届ける企業なのです。
 ブログを書いたり、Twitterで発言したりしていると、新規参入の難しさというか、「いまさら新しい人が何かを発信しても、見てもらう選択肢に入れてもらえない」という現実に直面するわけです。
 既得権益者、すでにフレンド数やフォロワー数が多い人が、圧倒的に有利になっている。
 ところが、TikiTokは、機械学習によって、これを改善し、新規参入者のモチベーションを上げることに成功しているのです。

 テキスト文化から、通信インフラの改善にともない、動画がメインになっていくことは、避けられない。
 そのなかで、TikTokは、機械学習という、ユーザーが意識していないところでの差別化で、優位に立とうとしています。

 正直、「あなたが見たいのは、これなんでしょ?」と、次から次に目の前に出されるのが、観客として幸せなのだろうか、という疑問はあるのです。
 生まれてから死ぬまで、「あなたへのレコメンド」に従って生きるのが正解、なんて時代は、想像すると怖い。
 とはいえ、そのほうがラクなんだろうな、とも思うし、経済的にもデジタルコンテンツでも豊かになった中国の人たちは、格差を嘆きつつも、けっこう幸せそうにも見えるのです。


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