琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

嫌われ松子の一生

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観てきました。いや、なんだか中谷美紀さんの「嫌われ松子の一年」を読んだら、なんだか映画のほうも観ないと気がすまなくなってしまって。しかし、どう考えても、両方興味がある人は、先に映画のほうを観ておくべきですね。「一年」のほうは、どうしてもネタバレしているところがあるから。

それで、感想なんですが、正直観ていていたたまれなくなって、前半は2回くらい帰ろうかと思いました。
追い詰められたら、信じられないようなことをやってしまうような人間っていうのは、たぶん、世の中にたくさんいて、僕もその素養がある人間のひとりなのだと思うのだけれども、じゃあ、それを実際に見せられたら「うん、そうそう」なんて頷けるかと言われれば全然そんなことはなくて、「うわぁぁぁぁぁやめてくれぇぇぇぇ」というのが率直な印象なのです。
でも、公式サイトを観ていたら、

監督として、映画化するには面白い題材だが、原作のままリアルに松子の人生を描くことは、あまりに悲惨でエグい。しかし、エンターテインメント作品にするために《ディズニー映画のヒロインがたまたま別の扉を開いたら、松子のような人生もあるのでは》という観点が導入された。できるだけ多くの人に映画を見てもらうために中島監督が目指したのは【ファンタジーの追求】である。

と書いてありました。
そう、確かにミュージカル仕立てになっていて、笑えるようなシーンも取り入れられているのだけれど、この映画で笑える人って、よっぽど肝が据わっていると思うよ。
というか、あれだけポップな映像と音楽で表現してみても「悲惨でエグい」話なので、原作小説は、どんなに「悲惨でエグい」話なんだろう……と。

ほんと、中谷美紀さんの演技と存在感は素晴らしいし、カラフルな映像と楽しい音楽などの演出面にはまったく隙がありません。逆に、テンポにこだわりすぎて、さまざまな伏線が「出しっぱなし」で終わってしまっているような気もしましたけど。

というわけで、以下はネタバレ。

率直に言うと、この作品って、「すばらしくよくできている」んだけど、「面白くない」のですよまったく。いや、「つまらない」のではなくて「面白がれない」というか「笑いとばせない」というか。WEBのどこかでだれかも書いていたのだけれど、この物語を見せられて「松子は『与え続けた人』」「松子は『神様』」なんて言われても、「えーっ?」って感じ。つーかあれって「無償の愛」でもなんでもなくてただの共依存だし。どうしようもない人間が、どうしようもなく生きていくのを、本人が生きている間は「臭いものにはフタ」で、死んだとたんに「聖人扱い」なのかよ、と。あんな身内がいたら、死ぬほど迷惑だと思うし。かえって綺麗に感動的にまとめてしまいすぎていて、ウソ臭くまとまってしまった、というか……

僕は子供のころ、戦争や犯罪や浮気をしている大人に対して「どうしてそんなことしちゃいけないってことがわからないんだろう?大人ってバカなんじゃない?」といつも感じていたのです。
しかしながら、大人になってわかったよ。大人は「それがバカなことであることに気づかない」のではなくて、「それがバカなことだと重々承知の上で、それをやっている」あるいは「そうせざるをえない」のです。そういう「痛み」みたいなのを感じる痛点をグリグリやられ続ける映画なのですよこれは。
この映画の中の松子の人生は、はっきり言って人生の選択ミスの連続で、「こんなバカが先生になれねーだろふつう」とか言いたくもなりますが、実際のところ、「強迫観念的なマジメさにとりつかれた人」っていうのは、こういう転落のしかたをしていく可能性が高そう。
ただ、この映画に関しては、「深刻な話なんだから、マジメに観なければならない」なんてことはないと思います。ただ、僕は「シカゴ」を観ていても、「殺人犯の裁判をこんなネタにするなんて不謹慎だな…」とつい考えてしまって、今ひとつ作品にノリきれなかったので、そういうのは意識せずに良質のエンターテインメントとして楽しめる人にとっては、良い映画だと思いますよ。


とりあえず、中谷美紀さんか中島哲也監督か「下妻物語」が好きな人は、観て損はしない映画です。
でも、悪いツボにハマるとしばらく落ち込みまくってしまうかも。

僕は、この映画で屈託なく笑えるような無神経な人とはつきあいにくいと思うし、この映画に感情移入しまくって泣くような情念の人とつきあうのは怖いと思いました。じゃあ、どうすればいいんだ?って話なんですけどね。

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