琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

「学歴やキャリア」と「恋愛」


別れの理由を言えない男達。 (はてな匿名ダイアリー)より。

女友達が立て続けに2人、振られた。
しかも相手の男が両方とも、すぐ(半年以内)に他の女性と結婚した。

彼女達はいわゆる「デキる」女性。
一人は弁護士。もう一人は地元では大企業のキャリアウーマン(古い?)。

男は両方とも同僚。

弁護士カップルは、彼女の方が司法試験合格が早かった。
サラリーマンカップルは、彼女の方が学歴が高かった。

もう分かった人がいるかもしれないけれど、
男達が結婚相手に選んだのは両方とも、
学歴もキャリアも自分と比べるまでもない、従順な「女の子」だった。

男達はもっともらしい理由をつけて彼女達を振った。
まるで彼女達に非があるかのように。

彼女達は、心から彼らを愛していた。
学歴もキャリアも関係なく、リスペクトしていた。

彼女達はまだ、告げられた突然すぎる別れと、その後の彼らの行動に打ちのめされた心を、
癒せないままに苦しんでいる。
私が悪かったと。私が悪いことをしたのだと。

そばで見ていて、彼らが憎らしくてしょうがない。
彼らが、せめて彼女達に本当のことを伝えていてくれたら。
自分の小ささを、素直に吐露してくれていたら。
俺の自尊心が、もう限界だったんだ、と、伝えていてくれたらと。

これに対して、

学歴とか職業とか、恋愛するのにどうでもいいと思うんだけどなあ(NC-15)
↑のような反応があったのを読んで、僕は「なんだかちょっとスッキリしないなあ」と感じたのです。

例えば、レッドソックス松坂大輔投手の妻・倫世さんは慶應義塾大学法学部の出身です。ヤクルトスワローズ石井一久投手の妻・彩子さんは青山学院大学文学部英米文学科卒。松坂投手と石井投手は高校卒業後すぐにプロ入りしていますから、学歴としては「高卒」です。でも、松坂投手や石井投手が、奥さんに「学歴コンプレックス」を抱いているかというと、たぶん、そんなことはないはずです。「うちの嫁さんは、英語が得意で助かるなあ」というような感じではないのでしょうか。もちろん、内面のことは僕にもわからないので、家庭内では「ちょっと物識りだからって、偉そうにしやがって!」なんてケンカしたりしているのかもしれませんけどね。でも、それは彼ら夫婦にとって「致命的」な問題にはならないはずです。

僕は、id:muffdivingさんが仰るところの「小さい男」なのだろうなあ、と自分でも思うのですよ。
僕は田舎の大学を出て今の仕事をやっているのですが、田舎の大学の医学部っていうのは、「地元では自分より高学歴のやつはほとんどいない」一方で、「医学部・医者どうしの集まりに行けば、自分より低学歴の人はほとんどいない」という存在です。大学時代の僕は、自分のそういう中途半端さが本当に憂鬱でした。

この仕事を選んだ人の多くは、自分の知識や能力にある程度自信を持っていますし、極論すれば、「それを誇りに生きてきた人」がけっこう多いんですよね。
たぶん、この「別れの理由を言えない男達」は、それぞれ自分の経歴や能力にプライド(と秘められたコンプレックス)を持っており、それを生きていく上での支えにしてきた人たちなのだと思います。だからこそ、彼らは「自分よりデキる彼女」の存在そのものが辛かったのではないかなあ、と。ずっと一緒にいれば、「自分のコンプレックスがずっと刺激され続ける」のですよこういうのって。「恋人のほうがデキること」によりコンプレックスが刺激され、さらに、「相手が自分の恋人にもかかわらず、コンプレックスを感じてしまう自分の情けなさ」に苛まれ……ほんと、こういうのって、ネガティブの堂々巡りになるんです。「同じ世界」で生きていればこそ、他の人にはわからない「共感」が生まれることがある代わりに、消すことができない「競争心」が出てくることもあるわけで。

正直、僕も自分の妻が周囲から「奥さんは優秀だね」と言われたりすると嬉しいのと同時に「それに比べて僕は…」と少し悲しくなることがあるのです。関係ない人からみたらくだらない話なのかもしれないけれど、向こうはもう学位を持っていて、論文のインパクトファクターが高かったりすると、なんだかすごく自分が情けなくなってくるのです。そりゃあね、彼女は悪くないですよ、頑張っていい仕事をしているんだから。別にそれを僕に自慢することもないしね。でも、自慢しないということが、かえって僕を拗ねさせたりもするんですよ。ああ人間小さい……
そして、依存しきれるほど僕のプライドは低くないけど、最も身近な人だけに、ライバル意識をむき出しにすることもできない。

「野球選手と女子アナ」だったら、「お互いに道は違うけど、がんばろうね」で済むのかもしれません。あるいは「もともと学歴や業績で競争する世界に生きていない人」にとっても。ずっと「学歴なんて関係ない」という価値観で生きている人が「恋愛に学歴なんて関係ない」と思うのは当然です。僕が女性に対して「スポーツが得意かどうか」にこだわらないのと同じこと。「学歴にこだわること」と「セックスの相性にこだわること」って、単にその人の「好み」の差だけで、「学歴で選り好みするのだけが悪」ってことでもないような気がするんですよね。
そりゃあ僕だって、一瞬の恋愛に「学歴や職業」は関係ないと思うけれども、ずっと付き合っていく上では、「お互いに高めあう関係」ってヤツに疲れはてることもあるんですよ。

僕がこの「『デキる』女性」たちに言いたいことは、別にあなたが悪いんじゃない、ということです。恋愛っていうのは、どちらも悪くなくても、うまくいかないときってあるし、お互いに頑張れば頑張るほどすれ違ってしまうときってあるんですよ。
逆説的に言えば、もしあなたたたちに「悪いところ」があるとするならば、「こういうときに『全部自分の責任』『自分が悪いことをした』と考えてしまうような弱さと傲慢さ」なのではないかと僕は思うのです。自分より能力があって、仕事ができて、二人の間に起こったトラブルは「全部自分が悪かった」と考える女……僕だったら、いや、多少なりとも自分にプライドがある男だったら、こんな女性とずっと付き合っていくと「窒息しそう!」です。

ほんと、僕は恋愛オンチでテレビゲームと本だけを生きがいにしてきた人間なので、恋愛に関してこんな偉そうなことを言ってはいかんと思うのですが、男たちが「別れの理由」を言えなかったのって、「自分の小ささを告白したくない」のと同時に「本当のことを言葉にすると、彼女たちを傷つけてしまうと思ったから」なのではないかなあ。


最後にひとつだけ、僕自身の恥ずかしい話を。

 実は僕もまだ結婚する前に、妻とすごく大きなケンカをしたのです。それはすごく些細なキッカケだったんだけど、僕はどんどんエキサイトしてきて、「そりゃあお前は優秀だし、仕事もできるし、俺より論文もたくさん書いて学位も取ってるし……でも、だからこそ一緒にいると辛いんだよ、自分がバカに思えてくるんだよ!」と言ってしまったんですよね。
 そのとき、彼女は、僕にこんなふうに言ったのです。
「えっ、そんなふうに思ってたの? ごめん、私、今まであなたがそんなふうに感じてたなんて、考えてみたこともなかった……私のほうが知識もキャリアもないし、比べたりなんかしたことないのに……」

 ほんと、人と人って、わかっているつもりでも、本当はお互いにわかっていないことって、たくさんあるのだと思います。10年付き合っていても、こんなものなんですよ。僕にとっては信じられない話なのですが、彼女は本当に「そんなこと考えてみたこともなかった」。
 「デキる女性」たちも、たぶん、恋人がそんなに小さな人間だということに、気付いてのではないでしょうか。
 そして、男の側も自分のコンプレックスを言葉にして伝える努力をしていなかった。あるいは、伝える機会に恵まれなかった。
 もちろん、それを伝えられていたら、2人の関係がもっと続いていたかどうかはわからないのだけれども、少なくとも、何かが変わった可能性はあると思います。
 それができないのが人間、なのかもしれないけれど。

 実際は、僕が自分のコンプレックスを告白したことによって彼女の態度が変わったわけではないのですが、僕自身は、それを言葉にしたことによって、少しラクになりました。

 とりあえず、僕たちはそれから仲直りをして、今は結婚して、ときどきケンカしながらも仲良く暮らしています。
 僕の中には、まだ、「負けたくない」という気持ちもくすぶっているんですけどね。

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