琥珀色の戯言

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チルドレン ☆☆☆☆

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

こういう奇跡もあるんじゃないか?
まっとうさの「力」は、まだ有効かもしれない。信じること、優しいこと、怒ること。それが報いられた瞬間の輝き。ばかばかしくて恰好よい、ファニーな「五つの奇跡」の物語。
吉川英治文学新人賞作家、会心の受賞第1作!
短編集のふりをした長編小説です。帯のどこかに“短編集”とあっても信じないでください。
伊坂幸太郎

 そういえば、この『チルドレン』で、伊坂さんは直木賞候補になられたんですよね。読んでいて僕が感じたのは、「個々の作品は、ミステリとしてはあんまり目新しくも面白くもないな」というのと「これは『短編集のふりをした長編小説』とは言いがたいのでは……」ということでした。登場人物のセリフもなんだか大仰で説明調だし。
 でも、この作品からは、伊坂幸太郎さんの「善意」がものすごく伝わってくるんですよね。
 家庭裁判所の調査官、陣内の言葉。

「俺たちは奇跡を起こすんだ」
 座敷の周辺がしんと静まり返った。
「少年の健全な育成とか、平和な家庭生活とか、少年法とか家事審判法の目的なんて、全部嘘でさ、どうでもいいんだ。俺たちの目的は、奇跡を起こすこと、それだ
 困惑する僕たちを尻目に、陣内さんはさらに声を大きくした。
「駄目な少年は駄目なんだろ。あんたたちはそう言った。絶対に更生しないってな。地球の自転が止まることがあっても、温暖化が奇跡的に止まっても、癌の特効薬ができることがあっても、スティーブン・セガールが悪役に負けることがあっても、非行少年が更生することはない。そう断言した」
「そこまでは言ってないだろ」中年男が怒った。実際、そこまでは言ってなかったな、と僕も思ったが、陣内さんは聞いていない。
「それを俺たちはやってみせるんだよ」満足感を浮かべて、笑う。「俺たちは奇跡をやってみせるってわけだ。ところで、あんたたちの仕事では、奇跡は起こせるのか?」

 僕はどんな仕事でも「奇跡」を起こすことはできるのではないか、とも思うのですが、こういう「落ち込んでいるときに元気が出る言葉」が「わざとらしいセリフ」とせめぎあいながら転がっているのが、まさに伊坂幸太郎の真骨頂なのではないかと思うのです。「小説としての繊細さ」には欠けるかもしれないけれど、読んだ人がなんとなく「やってやるぜ!」という気分になるような力が、この作品にはあるんですよね。僕は小説としての面白さなら『死神の精度』をオススメしますが、伊坂幸太郎作品がはじめて、という読者には、この『チルドレン』か『アヒルと鴨のコインロッカー』が良いのではないかと思います。
 あと、『チルドレン』ってドラマ化されていたんですね。全然知らなかった……

死神の精度

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アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

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チルドレン [DVD]

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