琥珀色の戯言

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レインツリーの国 ☆☆☆☆

レインツリーの国

レインツリーの国

内容(「BOOK」データベースより)
きっかけは「忘れられない本」そこから始まったメールの交換。あなたを想う。心が揺れる。でも、会うことはできません。ごめんなさい。かたくなに会うのを拒む彼女には、ある理由があった―。青春恋愛小説に、新スタンダード。

 あるサイトに載せられた懐かしい本の感想をきっかけに知り合った若い男女の物語。もう、本当に「直球勝負」だとしか言いようがない小説です。この作品を読んでいると、有川浩さんがこの作品にかたむけた「ひたむきさ」みたいなのが伝わってくるのです。
 まあ、正直なところ「ちょっと内容的に古いよな」とも思いましたし、かなり丁寧に主人公たちの心の動きが書かれているのですが、それでも「こんなにキレイにはいかないだろうな」とも感じました。有川さんはたぶん、自分でもそう思いながら「これが少しでも何かのきっかけになれば」と祈りながらこの小説を書いたのでしょう(「あとがき」を読むと、その気持ちが伝わってきます)。
 現代のサイト持ちとしては、「こんな頻繁にメールしてくる人がいたら、気持ち悪いしめんどくさいだろうなあ」という気もしたんですけどね。一種の「ネットナンパ」だと言えなくもないし。

『レインツリーの国』はそんな自分のために始めたサイトだ。誰にもハンデを気にすることなく、自分の言葉で自分の思ったことを語って、誰に僻むでもなく卑屈になるでもなく。
 言葉が、コミュニケーションがハンデにならない普通の女の人のように振る舞えるたった一人の国を作ってみたかったのだ。
 その国に伸がやってきたことで、ひとみの人生はもしかしたら変わった。

 ただ、僕もサイト持ちのひとりなので、こんなことも考えてみるのです。
 ひとみは、伸と出会ったことによって、『レインツリーの国』を失ってしまったのではないか?
 現実と繋がる媒体となってしまったことによって、サイトは、「自分の言葉で自分の思ったことを語ることができる場所」ではなくなってしまうのではないか?
 誰にでも読めるWEB上に公開しているにもかかわらず、こう思うのが矛盾しているのは自分でもよくわかるのですが……

 もしかしたら、僕がWEB上で読むたびに不快になっているサイトも、なんらかのハンデを抱えている人の『レインツリーの国』なのかもしれません。そうであっても、僕としては降りかかってくる火の粉を払わないわけにもいけないのですが。

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