琥珀色の戯言

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孤独のグルメ ☆☆☆☆

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
主人公・井之頭五郎は、食べる。それも、よくある街角の定食屋やラーメン屋で、ひたすら食べる。時間や社会にとらわれず、幸福に空腹を満たすとき、彼はつかの間自分勝手になり、「自由」になる。孤独のグルメ―。それは、誰にも邪魔されず、気を使わずものを食べるという孤高の行為だ。そして、この行為こそが現代人に平等に与えられた、最高の「癒し」といえるのである。

 この本、博多の某紀伊国屋天神コアの店舗は閉店してしまったのですが、移転先にはじめて行きました。最近博多ではジュンク堂かあおい書店にしか行ってなかったので……)で見つけたのですが、ちょうどそこで「福岡の書店員65人が選んだ激オシ文庫フェア」というのをやっていて、その中の1冊がこの本だったのです。僕はけっこう「食べ物に関する本」が好きなのですけど(もしかしたら、食べることそのものよりも好きかも)、なんだかやたらと「堅い」感じの絵柄で描かれたマンガに『孤独のグルメ』というタイトル。「どんな本なんだ?」と思いつつ、読み始めてみたのです。

 ……いや、この本の魅力って、どう表現すればいいのか、ちょっと難しいです。というか、人に薦めることが妥当なのかどうかさえ考え込んでしまいます。この漫画では、主人公の井之頭五郎という中年男が、「食事を摂る」シーンが描かれているのですが、読んでみると「これ、何が言いたいんだろう?」と、悩んでしまうこと必定です。「美味しい店を紹介する」グルメガイドではないし、食文化に対して薀蓄を語ってもいない。五郎は「孤独な男の断片」みたいなものをときどきつぶやきますが、それも、あくまでも「断片」にしか過ぎません。「人生」を語るための本でもない。そこにあるのは「漠然としていうのだけれども、そこから逃れらることができない『食欲』」のみ。
 でも、この本を一冊読み通すと、不思議なことに、「井之頭五郎というのはどんな人間か?」というのが、ものすごくよくわかったような気分になるんですよね。書かれているのは、彼が食事をしているシーン、それも、何かこだわりがあるわけではなく、ただ、「ものすごく何かを食べたいけど、何を食べたいのか自分でもわからない、男独りでの食事」のシーンばかりなのですけど。
 そして、この作品のひとつの特徴は、主人公は「酒が飲めない」ということだと思います。
 僕は「酒が飲める人間」なのですが、これを読んでいると、ものすごく「このメニューでビールも飲めないっていうのは、殺生だよなあ」と感じてしまいます。しかしながら、この作品の肝というのは、「酒で誤魔化すこともできないばかりに、『食べること』にいっそうこだわってしまう」ところなのです。酒飲みなら酔っ払って薀蓄を垂れていればいいところなのに、五郎は、「冷静に食べ続けること」のみで自分の胃と心を休めなければなりません。読んでると、「酒なしにしても、これは食べすぎなのでは……」とか、つい考えてしまうのですけどね。
 男独りでの食事というのは、「グルメじゃないんだけど、何か食べずにいられない」そして、「何か食べるからには、自分を満足させられるものを食べずにはいられない」という強迫観念めいた気持ちになりがちなもので、それならコンビニ弁当や吉野家でいいんじゃない?と思うのだけれど、なかなかそういうわけにもいかない。不思議なもので、ひとりでの食事というのは、「美味しければいい」っていうものじゃないんですよ、本当に。
 むしろ、あんまり美味しいと、かえって寂しくなってくることもあるのです。
 あと、店の人に注文しようとしても、声が通らなくて何度も無視されるシーン、僕も毎回そうなので、ものすごく身につまされました。もともとあんまり大きな声は出さないほうで、滑舌もあまりよくないのか、いつも僕の「すみませーん」は、店員さんの耳には届かないのです。で、しょうがないのでものすごく気合を入れて大声を出したら、同行者に「そんなに切羽詰った声を出さなくてもいいのに」なんて笑われるし。僕にとっては、「店員さんに無視されること」「はぁ?って注文を聞き返されること」って、「お前の言葉は聞き取りづらいんだよ!」って責められているようで、とても辛いことなんですよね。でも、こういうのって、「さらりと注文できる人」には、なかなかわかってもらえない。「大きな声で言えばいいじゃん」って軽く言われてさらに悲しくなったり。

 ちなみに、この本をブックフェアで薦めていたのは、福家書店福岡店の日高礼子さんという書店員さんだったのですけど(もちろん僕は日高さんがどんな方かは存じ上げません)、この「男にしかわからない(と思われる)本」を薦めた女性の店員さんってどんな人なんだろうなあ、と考えてしまいました。
 もっとも、僕の場合、福家書店でこの本を見つけていても、「もし日高さんが見てたらちょっと恥ずかしいな」ということで、買わなかったと思われますが。

参考リンク:孤独のグルメ(by 『a Black Leaf』(2006/3/22))
この本に興味を持たれた方は、↑のエントリを読んでみていただければ、雰囲気がよくわかります。

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