琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

『ノーカントリー』感想 ☆☆☆☆


『ノーカントリー』公式サイト

解説: 1980年代のテキサスを舞台に、麻薬密売に絡んだ大金を手にした男が非情な殺し屋に追われるサスペンス。監督は映画『ファーゴ』のコーエン兄弟。大金を手にした男を映画『アメリカン・ギャングスター』のジョシュ・ブローリンが、彼を追う殺し屋を映画『海を飛ぶ夢』のハビエル・バルデムが、殺し屋を捕らえようとする保安官をトミー・リー・ジョーンズが演じる。独特の緊迫感と恐怖を演出し、人間と社会の本質をあぶり出すコーエン兄弟マジックが見どころ。(シネマトゥデイ

あらすじ: 狩りをしていたルウェリン(ジョシュ・ブローリン)は、死体の山に囲まれた大量のヘロインと200万ドルの大金を発見する。危険なにおいを感じ取りながらも金を持ち去った彼は、謎の殺し屋シュガー(ハビエル・バルデム)に追われることになる。事態を察知した保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)は、2人の行方を追い始めるが……。(シネマトゥデイ

 第80回アカデミー賞の作品賞・監督賞(コーエン兄弟)・助演男優賞ハビエル・バルデム)・脚色賞受賞作。
 近場ではやっていなかったので、ちょっと遠出して観てきました。
 観終えた時点での率直な感想は、「うーん、すごく緊迫感がある映画だけど、これ、何が言いたいんだろう?これでアカデミー作品賞っていうのも、ちょっと選考した人たちは「考えすぎ」なんじゃないの?というものだったんですよね。日本で生活している僕にとっては、なんだか実感が湧かない世界ではありますし、登場人物にもあまり感情移入できません。
 ただ、ハビエル・バルデムが演じた殺し屋・アントン・シガーの存在感は凄かった。彼が持っているガスボンベみたいな凶器って、「家畜を殺すための道具(しかも本物!)」なのだそうです。アントン・シガーは、利益や恨みのために誰かを殺すのではなく、かといって、「無差別殺人者」でもない。彼は彼なりの「美学」みたいなものにのっとって人を殺していくのですが、その「美学」は、彼に殺される側には全く理解不能です。彼の圧倒的な暴力の前には、個々の人間の心の揺れやそれぞれの「事情」なんて、容赦なく踏みにじられていきます。
 コーエン兄弟がそれを意図していたのかはわかりませんが、アントン・シガーって、まさに「世界のなかのアメリカ」の象徴のようにも感じられます。
 この映画の原題は、"NO COUNTRY FOR OLD MEN"というもので、作品中で保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)が述懐していたように、「年寄りには(というか、僕にもよくわからんのですが)理解不能になってしまった今の(アメリカをはじめとする)社会への絶望感」を表明しているような気もしますし、その一方で、コーエン兄弟は、今を生きている人たちに、「じゃあ、お前たちはアントン・シガーの標的にされたら、どうするつもりなんだ?」と問うているようにも思えたんですよね。
「本当に、どうしようもない」「運が悪いと諦める」のか?
 そもそも、"OLD MEN"って、誰のことなんだ?

 暴力こそが、この世界の「神」になってしまったのか?
 正直、「いろんな不快なことを投げつけられた挙句に置き去りにされるような映画」ですし、気が滅入ることこの上ない作品ではあります。
 一般的には、「デートで行くには最も向かないタイプの映画」だとも言えるでしょう。
 「ねえねえ、あれってどういう意味?」とか聞かれても、「うるせー俺も今考えてるんだよ!」とか言いたくなりそう。

 「アカデミー賞」の看板につられて観に行って後悔はしなかったけれど、純粋に「映画で楽しい時間を過ごしたい人」には全然向かない映画です。僕が観た回の観客たちも、大部分は「何これ?」という怪訝な顔をして劇場から足早に出ていきました。
 逆に、「ベタなハリウッド娯楽大作にはもう飽きた」という人には一見の価値があるんじゃないかな。

参考リンク:『ノーカントリー』ハビエル・バルデム 単独インタビュー
↑この映画で「怪演」を見せ、アカデミー助演男優賞を受賞したハビエル・バルデムさんへのインタビュー。
「本当は暴力的な映画が苦手」なのだそうですよ。

アクセスカウンター