琥珀色の戯言

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扉は閉ざされたまま ☆☆☆☆


扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)

扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)

出版社 / 著者からの内容紹介
密室殺人、完了
完璧に騙せたはずだった
ただひとりの女性をのぞいては
緊迫した攻防をシャープに描く
“同窓会”ミステリー
照明は、点けたままでいいのだろうか?
暗くなっていく時間帯に、入浴時に部屋の照明を消すだろうか。
消さない、というのが伏見の結論だった。
照明のスイッチには手を触れずに、再びドアノブを握った。ゆっくりと引いた。
どん、と音がしてドアが閉まる。
よし。
伏見は一人うなずいた。
久しぶりに開かれる大学の同窓会。成城(せいじょう)の高級ペンションに七人の旧友が集まった。〈あそこなら完璧な密室をつくることができる〉当日、伏見亮輔(ふしみりょうすけ)は客室で事故を装って後輩の新山を殺害、外部からは入室できないよう現場を閉ざした。何かの事故か? 部屋の外で安否を気遣う友人たち。自殺説さえ浮上し、犯行は計画通り成功したかにみえた。しかし、参加者のひとり碓氷優佳(うすいゆか)だけは疑問を抱く。緻密な偽装工作の齟齬(そご)をひとつひとつ解いていく優佳。開かない扉を前に、ふたりの息詰まる頭脳戦が始まった……。

<著者のことば>
「鍵のかかった扉を、斧でたたき壊す」
本格ミステリの世界にはよくあるシーンです。「そうではない」話を書こうと思いました。閉ざされた扉を前にして、探偵と犯人が静かな戦いを繰り広げる。この本に書かれているのは、そんな物語です。対決の立会人はわずかに四人。あなたが、五人目です。

 ここ10年くらい、なんとなく「本格」ミステリから遠ざかっていたのですが(それこそ、『容疑者Xの献身』しか読んでいないくらいに)、最近またちょっと興味が出てきて、何冊か続けて読んでいます。
 とはいえ、選んだ作品が『インシテミル』『イニシエーション・ラブ』となると、「本格」じゃないだろう、と言われればそれまでなのですが。
 この『扉は閉ざされたまま』、『このミステリーがすごい!』の2005年度版で第2位になった作品だそうなのです。
 最初に「犯行シーン」が描かれて、読者には犯人がわかっている状態で、犯人と探偵役との駆け引きを愉しむという、『刑事コロンボ方式』(または、『古畑任三郎方式』)のミステリなのですが、いささか冗長すぎる犯行シーン(ここを読んで敬遠する人もいるのでは……)を読み終えると、かなり読みやすくて息詰まる犯人と探偵役の美女との攻防が続いていきます。 
 「この扉がいつ開かれるのか」(というか、このストーリーなら、扉が開かれてからが本当の勝負だと思いますしね)と、「非常に先が気になるストーリー」で、かなり愉しめる作品でした。ただ、多くの人が書かれているように「この動機はちょっとねえ……」とは感じてしまったんですよね(ですから、文庫版で加えられたという「前章」は、「ああ、蛇足だ……」としか思えませんでした)。あと、この「仲間」たちの能天気さにも。こういうシチュエーションで、友人が部屋から出てこないとしても、実際の周囲の反応はこんなものなのかな、という気もしますが、このくらいの人数がいれば、一人くらいものすごく心配する人が出てきて、なんらかの「決定的な手段」をとらざるをえないのが自然なのでは……
 この作品、こんなふうに「自然じゃない」気がするのですが、「実際はこんなふうになってもおかしくないのかな……」と許容してしまうギリギリのラインをうまく渡っているんですよ。人によっては、「ファール」だろうけど。

 そして、主人公と探偵役の碓氷優佳(うすいゆか)が、「感情移入しにく人物」なんですよこれが。「頭がいい」のは探偵役の宿命だからいいんだけど、事あるごとに「選ばれた人間」「自分の感情をコントロールできる人間」というような描写が繰り返されると、「単なる嫌なヤツ」だとしか……
 被害者は、あまりにかわいそうですよねこれ。あと、このペンションの経営者も。

 『インシテミル』を読んだときも感じたのですが、そもそも、現代で「密室」を作り出すには、よっぽど不自然な条件が必要なのは間違いないことですし、読者もすぐに納得できる「わかりやすい動機」だと、トリック云々よりも、「動機から犯人が絞られる」可能性も高いですしね。
 そもそも、『インシテミル』なんて、「動機のことは、まあいいじゃないか」と開き直っていたものなあ……あのくらい思い切らないと、今の世の中、「クローズドサークルもの」(外部と完全に遮断された空間を舞台にしたもの)のミステリは書けないのかも……

 と、文句ばっかり書いてしまったようですが、「動機のリアリティには全然こだわらないから、2時間くらいで読める知的でちょっと斬新なミステリが読みたい」という人には間違いなくオススメできる良作です。

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