琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】透明人間は密室に潜む ☆☆☆☆

透明人間は密室に潜む

透明人間は密室に潜む

  • 作者:阿津川 辰海
  • 発売日: 2020/04/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


Kindle版もあります。

透明人間は密室に潜む

透明人間は密室に潜む

内容(「BOOK」データベースより)
透明人間による不可能犯罪計画。裁判員裁判×アイドルオタクの法廷ミステリ。録音された犯行現場の謎。クルーズ船内、イベントが進行する中での拉致監禁―。絢爛多彩、高密度。ミステリの快楽を詰め込んだ傑作集!


 最近、新書とかノンフィクションばかり読んでいるので、物語を読みたい、という気分で書店に出かけて見つけたのがこの作品でした。
 『このミステリーがすごい!』2位か……1位の辻真先先生の『たかが殺人じゃないか』はもう買っちゃったしなあ……ならばそれを先に読めよ、と自分でも思うのですが、もう老い先短い身としては、気になった本はとりあえず買っておくことにしているのです。

 300ページ弱で、中編が4作収録されているので、最近よくある主人公が同じとか、最後に話がつながる連作ものなのかな、と思ったのですが、読んでみると、それぞれ趣向が異なる4つのミステリが収められていて、読んでいてすごく楽しめました。
 いきなり「透明人間」とかが出てくるので、「ミステリにはリアリティがないとダメ」ってタイプの人は拒絶反応が出るかもしれませんが、「人間」とか「組織」を描くミステリも良いけど、「トリックや展開の面白さ」を味わうには、このくらい割り切った世界観も悪くないな、と思うのです。

 透明人間病。細胞の変異により、全身が透明になってしまう恐ろしい病だ。現在、日本全国で約十万人、全世界では七百万人の発症が報告されている。人類史上初の症例が確認されてから百年余り。透明人間の存在は、社会システム、軍事、各国の諜報戦に大いなる混乱を巻き起こした。その混乱も去り、透明人間と共生する社会のあり方が摸索されるようになった。
 しかし今、透明人間が被害者となった、痛ましい事件が相次いでいる。


 正直、いろんなバリエーションがあって面白いなあ、華やかだなあ、とワクワクできる一方で、「作品を成立させるために、設定があまりに非現実的になっているのではないか」という気がするところもあるのです。
 この「透明人間病」にしても、透明人間病患者の血液や排泄物・老廃物は見えないけれど、爪の下に溜まる汚れは見える、なんていうのは、リアルなんだかあまりにも御都合主義なのか微妙ではありますよね。というか、その「見える・見えないの境界」がどういう機序で成立するのかよくわからん……なんてことは言わずに、設定のなかでつくられたトリックの面白さを堪能すべきなのでしょう。
『屍人荘の殺人』に対して、「ゾンビなんていねえよ!」とか言ってしまうよりは、「そういう世界」を受け入れてしまったほうが楽しめるのと同じです。


fujipon.hatenadiary.com


でもまあ、最近の『このミス』を読んでいて思うのは、これだけ科学捜査が進歩し、監視カメラがたくさんあって、みんながスマートフォンを持ち歩いている時代には、密室なんてそう簡単には成立しない、ということなんですよね。それこそ、ゾンビとか透明病でも存在しないと無理。

著者の阿津川辰海さん、『紅蓮館の殺人』を書いた人だったんですね。

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これも、舞台設定が魅力的なミステリでした。

この『透明人間は密室に潜む』のなかで、いちばん印象的に残ったのは、「裁判員裁判×アイドルオタクの法廷ミステリ」の『六人の熱狂する日本人』でした。タイトルからして、『十二人の怒れる男』や『十二人の優しい日本人』を想起せずにはいられないのですが、法廷劇好きの僕にはツボにはまる作品だったんですよ。読みながら、これ、映画『キサラギ』じゃん!って思っていたのですが、あとがきで作者自身もアイドルオタクで、『キサラギ』について言及していて、筒井康隆さんの『12人の浮かれる男』にまで触れていることに、けっこうニヤニヤしてしまったのです。
1994年生まれで、僕よりずっと若いのに、読んでるなあ、本当にミステリを読むのも大好きなんだなあ、と。
読みやすくて、いろんな味を楽しめて、それぞれの作品で、新しいことにも挑戦している、という、よくできた幕の内弁当みたいな作品集だと思います。

単行本のオビに辻真先さんの「参った、といっていい。読みやすいのに読みでがある」というコメントがあるのですが、まさに、その通りなんだよなあ。


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紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

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2021本格ミステリ・ベスト10

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このミステリーがすごい! 2021年版

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  • 発売日: 2020/12/04
  • メディア: 単行本

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