琥珀色の戯言

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鷺と雪 ☆☆☆


鷺と雪

鷺と雪

内容(「BOOK」データベースより)
帝都に忍び寄る不穏な足音。ルンペン、ブッポウソウドッペルゲンガー…。良家の令嬢・英子の目に、時代はどう映るのか。昭和十一年二月、雪の朝、運命の響きが耳を撃つ―。

第141回直木賞受賞作。
北村薫さんの文学界、とくにミステリ界での貢献は広く知られているところで、今回の受賞についても、「北村さん、よかったですね」という雰囲気がうかがわれます。
北村さんの熱心な読者とはいえない僕も「まあ、北村さんなら『功労賞』でもいいんじゃない?」と考えていたのです。

でも、この受賞作『鷺と雪』を読んでみると、「うーん、この小説、どこがいったい面白いの?」と考え込まずにはいられませんでした。
昭和の太平洋戦争前の日本、東京、そしてそこでの華族の生活を「ここまでよく調べたなあ」と感心するくらい精緻に描いているのですよ、この作品は。

 室町といえば三越本店のある辺り、鶴の丸は和菓子の老舗だ。古めかしい、立派なお店が室町にある。
 江戸時代、どこだかの、茶人で甘いもの好きのお殿様に《天下に並びなし》と気に入られた。おかげで、その大名家の替え紋で打ち菓子を作ることを許された。今に伝わる、鶴が三羽で丸くなった形の《鶴の丸》だ。
 打ち菓子といえば、普通は、微塵粉に砂糖、水飴などを混ぜて木型で抜く落雁である。鶴の丸では、そこに秘伝の一工夫があり、香ばしくおいしい。他にも、特製の水羊羹や、季節の野菜をお菓子にしたものがあり、評判のいいお店だ。

このような当時の東京についての薀蓄話が満載で、東京の人たちにとっては、すごく親近感がわく小説なのかもしれません。
しかしながら、東京にも戦前の日本にもとくに思い入れのない僕にとっては、単なる、「ダイナミズムにも意外性にも欠ける、ミステリとしても謎解きの醍醐味がない中編集」だったんですよね。
いや、北村さんがこの時代を描くために行った努力の数々は伝わってくるんだけど、主人公は「いいご身分のお嬢さん」だし、ベッキーさんというのも「釣書は立派だけど、やっていることはオリジナリティがない、古典的なヒーロー(女性ですが)」にしか思えない。登場人物に魅力を感じないのです。
「ほどよく寸止め」にされていて、『雪沼とその周辺』のような、上品な小説であることは認めるけれども、もうちょっと読んでいて心を動かされる作品のほうが、僕は好きです。

直木賞受賞作でなければ、「よく調べて書かれた佳作」で済んだのかもしれませんが……
けっして悪い作品ではないです。ただ、「直木賞って、やっぱり、作家に対する『功労賞』みたいなものなのかな……」と感じたのは事実です。
北村薫さんの6回目のノミネートじゃなければ、「なんでこれが直木賞?」って声が、もっと出そうな気がします。
三部作の三番目しか僕は読んでいないので、一作目から読めば、違う感想になるのかもしれませんけど。

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