- 作者: 見城徹,林真理子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/09/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Kindle版もあります。
内容(「BOOK」データベースより)
16年間の絶縁期間を経て、また、二人の関係が始まった。二人は、いかにしてコンプレックスと自己顕示欲を人生のパワーに昇華させてきたのか。才能を見出し、見出され、また刺激し、磨き上げていく編集者と作家の関係が、濃密な名言の応酬となって一冊に凝縮された、文学史上前例のない、とてつもない人生バイブル!
林真理子vs見城徹!
ふたりが並んでいる表紙の写真が、すでに「過剰」!
まあなんというか、「コンプレックスを糧に、のしあがってきた二人が、そのフェロモンをブンブン撒き散らしながら言葉の応酬を重ねている本」なんですよ。
大部分の人にとっては、とうてい真似できるような生きかたではないし、参考にするのもリスクが大きい人々だとは思うのだけれど(ただし、見城さんの「人たらしの術」には、なるほどなあ、と感嘆するところも多々あります)、「こんなふうにしか、生きられない人がいるのか……」と、読んでいて感慨深いものがありました。
「出る杭は打たれる」日本社会で、打ちつけてくる金槌のほうをへし折ってしまうような生きざま。
林真理子さんが『ルンルンを買っておうちに帰ろう』で、女性の本音を赤裸々に書いて、大ベストセラーとなり、メディアの寵児となった頃のこと、僕も少し記憶にあります。
子供だった僕には、「なんでこんな見た目が良いともいえず、厚かましい感じの人が、もてはやされているのだろう?」とすごく謎だったんですよね。
林さん本人も、見城さんも、当時は「一発屋」みたいな感じで終わるだろうと思われていた、と述懐されています。
そんな林さんに、小説を書くことを薦め、「あなたは直木賞を取れる」と太鼓判を押したのが、見城さんだった。
ずっと、仕事の面では支え合い、毎晩のように飲み歩くなど「肉体関係のない愛人」のような二人だったけれど、見城さんが幻冬舎を作って1年もしないうちに「絶縁」し、その絶縁は16年間も続くことになりました。
この本を読んでも、その詳しい理由はよくわからないのだけれども、この「過剰な」二人のことだから、とくに「これ」という理由はなかったのかもしれませんね。
あるきっかけで関係は回復していたのですが、ふたりの長年を振り返った雑誌の対談がきっかけとなって、この本が生まれたのです。
それにしても、見城さんの「仕事中毒」っぷりはすごい。
見城:この40年近く、365日毎日会食だからね。例外なく。
林:うちでお茶漬けなんて……。
見城:ない。3ヵ月先まで会食が全部決まっている。急に会食しなければいけなくなると、しょうがないから土日に入れて、土日も入れようがなくなると、会食がランチになるわけ。ランチだけは気楽に食べたいんだけど、週に2回ぐらいはビジネスランチになっちゃう。それが政治家だったり、スポーツ選手だったり、作家だったり、芸能人だったり、テレビ局の人間だったり、ミュージシャンだったり、いろいろ。
林:すごい人脈……
見城:表面的なつき合いは絶対にしない。つき合うからにはちゃんとつき合う。20代のころ、夜の11時ごろ村上龍から電話が来て、「今、こんなの書いている」とか1時間くらいああでもないこうでもないと話して、やっと終わると今度は宮本輝から電話がかかる。またああでもないこうでもないと話して、終わると今度は中上健次やつかこうへいが酔っぱらって家に来ちゃうんだよ。俺、独身だったし。それでいて、坂本龍一や尾崎豊と毎晩のように飲んでいて、君や山田詠美や森瑶子など、女性作家たちとも会っていたから、どうやって寝ていたんだろうなと思う。
林:ほんとですね。
見城:それはとりもなおさず自分が擦り切れていく作業なんだけどね。
いくら「有名人との交遊」とはいえ、これはさすがにキツいだろうな、と。
見城さんは、それを「自分が擦り切れていく作業」だと評しています。
けっして、「楽しいからそうしていた」わけじゃなかった。
この人がいたからこそ、世に出た作品というのが、たくさんあるのだよなあ。
見城さんは、「コンプレックス」について、こんな話もされています。
僕は自分に強いコンプレックスを持っているため、作家と話していると、その人のコンプレックスをすぐに嗅ぎ当てられる。僕はコンプレックスのデパートなのだ。これは一種の特技と言っていい。僕は作家に、そこを掘り下げて書くように進言する。コンプレックスのある所にこそ、文学的な黄金の鉱脈があるからだ。
見城さんは、若い頃、勉強もスポーツもできず、容姿に自信もなく、ただ、本を読むことだけが「救い」だったそうです。
ところが、その「コンプレックスとのつき合い」が、編集者として、すごく役に立っているのです。
林真理子さんも「コンプレックスと妄想力」の重要性について話していて、「負の経験の蓄積」というのは、創作のための重要な材料なのかもしれません。
それを正しく活かせる人というのは、割合としては少ないのでしょうけど。
ビジネスとは一般的に、合理的な経済活動と思われている。そのため、人間的な要素を軽視する人が少なくない。しかし、ビジネスは、何よりまず、人間の営みである。それは多くの感情的な細部から成り立っている。
たとえば、待ち合わせの時間。遅刻さえしなければいいと思う人が多いのかもしれないが、僕はそうは思わない。僕は初対面の場合、必ず30分前に到着するようにする。人を待たせるのが嫌だからというだけではない。その真剣さが相手に伝わることで、ビジネスにプラスの結果をもたらすと思うからだ。
経験上言うと、大きな会社の人間は、遅れることがよくある。それは、自分の属するブランドにあぐらをかいているからだ。
見城さんくらい忙しい人にとっての30分って、けっして短い時間ではないと思うのです。
でも、それを実行するのことによって、相手は見城さんに好感を持つのと同時に、少し気圧されるはず。
そして、見城さんは少しだけ有利な立場で、交渉をすすめていくことができる。
こういうのって、わかっていてもなかなかできることではないけれど、「合理的ではない」からこそ、相手に刺さることって、あるんですよね。
売れるコンテンツには4つのポイントがある。オリジナリティ、明快、極端、そして癒着である。僕はこれを、「ベストセラー黄金の4法則」と呼んでいる。
僕はこの見城さんの言葉を読んで、「ああ、本当にその通りだなあ」と感心してしまいました。
幻冬舎のベストセラーは、この法則に則っている。
そして、ブログでのヒットコンテンツも言えることだよなあ、と。
正直なところ、「真似できる人たち」ではないとは思うのです。
でも、僕のような普通の人間にも、活かせる言葉も含まれています。
コンプレックスも使いよう、という言葉に、コンプレックスだらけの僕は、けっこう励まされましたし。