琥珀色の戯言

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【読書感想】話すチカラ ☆☆☆☆

話すチカラ

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Kindle版もあります。

話すチカラ

話すチカラ

内容(「BOOK」データベースより)
齋藤孝先生と安住紳一郎TBSアナウンサーは、明治大学時代の先生と教え子という師弟関係。いまや日本屈指の話し手となったふたりが、「話すチカラ」について縦横無尽に語り尽くす。安住アナが後輩の現役明大生たちを前に白熱講義した内容も紹介!


 TBSの安住紳一郎アナウンサーは、齋藤孝先生の教え子だったんですね。この本は、「人に伝えるための話し方」について、ふたりが明治大学の学生たちを前に行った講義をもとにしています。
 これを読むと、好感度が高いアナウンサーとしての地位を築いた安住さんが、アナウンサーという世界で、どうしてここまで「個性」を活かせるようになったのかがわかります。
 齋藤先生によると、安住さんは、学生時代から「人の心をつかむ喋りがとびぬけて上手かった」そうです。

安住アナ:生放送の仕事をしていて痛感するのは、視聴者の興味が移るスピードが本当にすさまじいということです。
 ついさっきまでホットな話題だったはずなのに、3分くらいで急に鮮度が落ちてしまうことなどは日常茶飯事です。
 私が司会をしている『ニュースキャスター』のような生放送の情報番組でも、用意していたVTRをそのまま流すと、視聴者の興味から完全に外れてしまうケースが多々あります。
 それに気づいたときは、勇気を持って用意した素材をすべて捨て、ガラッと構成を変えます。生放送は、こうした決断と失敗の連続です。

齋藤孝安住君は生放送中、番組スタッフに細かな指示を出し続けています。
「ここのコーナー、この部分を短くして、ここを拡大したほうがいい」「今のVTRはあとでもう1回流しましょう」などと臨機応変に対応するさまは、非常にクリエイティブです。
 生放送をしていると、放映する予定だったVTRができていないとか、突如何かの事件が起こって段どりが狂うといった不調の事態が起こります。
 私が見ていると、どうやら彼はそういった不測の事態をワクワクしながら楽しんでいるようです。
 段どり通りにいかない事態を面白いと感じられる感性が、ライブ感を生み出します。


 安住さんの仕事ぶりというのは、僕がイメージする「原稿を正しく読むアナウンサー」の領域をはるかに超えているのです。
 局アナが、そこまでやっているのか、と僕は驚いてしまいました。
 あのビートたけしさんが、安住さんを高く評価しているのには、理由があるのです。
 こうして、臨機応変に番組の内容を差し替えて行くことに対しては、事前に準備しておいた素材を使ってもらえなかったスタッフには不満もあって、「ケンカしながら番組をやっている」とも仰っています。
 
 凡人である僕は、安住さんの真似など無理だ、とも思っていたのですが、この本を読んでいると、けっこう参考になるんですよ。

安住アナ:人とよりよいコミュニケーションをとるうえで、相手を気持ちよくさせる「サービス精神」は必要です。
 相手を気持ちよくさせたいからといって、心にもない嘘をつくわけではありません。
 重要なのは、自分の感情をきちんと言葉にして相手に伝えることです。そもそも、自分の感情は意外なくらい相手に伝わっていません。きちんと言葉にして伝えるだけで相手の反応は違ってきます。

 私は人と食事をしたときに「今日はとても楽しかったです」と言うようにしています。
 相手は「社交辞令で言っているだけかも」とは思いつつも、やはりうれしい気持ちになるでしょう。
 少なくとも私は、イヤな気持ちにはなりません。
 相手がうれしい気持ちになれば、人間関係も良好になります。お世辞は遠慮せず、積極的に口にすべきなのです。

安住アナ:初対面の人と会うときは、何はともあれ相手に対して興味を持っている気持ちをアピールすることです。
「お会いできてうれしいです」と口に出して伝えてみる。あるいは第三者から紹介されるのを待たずに、自分から近づいて声をかけるのも効果的です。
 これが意外とできないのです。

 初対面の人と会うとき、緊張してしまう人も多いでしょう。目上の人と会うときはなおさらです。
 社会的地位が高かったり有名な人だったりすると、相手のほうが「自分と会うのに緊張しているかもな」と織り込み済みの場合も多いです。
 そんなときは「今日は少し緊張していますが、1日どうぞよろしくお願いします」と正直に先に言ってしまいます。
 エラい人は正直者に優しいので、向こうがフォローしてくれるときもあります。
 いずれにしても、初対面では様子見をしてはいけません。会った瞬間から距離を詰めていく、感情を伝えていく。これが緊張を乗り越える最良の方法です。


 僕は基本的に知らない人と会ったり、話をするのは苦手だし、できれば避けたい、と思っているのです。
 こんなことを言ったら、お世辞だと思われて、気を悪くするんじゃないか、とか邪推してしまうことも多々あります。
 それに対して、安住さんは、思い切って、自分の好意を伝えたほうがいい、と繰り返し述べているのです。
 自分のこととして考えても、「今日は楽しかった」「あなたに会えて嬉しかった」と言われたら、相手が苦渋の表情で絞り出すように口を開いているのでなければ、悪い気はしませんよね。
 細かい会話術よりも、素直に感情を伝え、アピールするほうが確実なのです。
 まあ、これを読んで、すぐに自分にも同じことができるか、と問われたら困ってしまいますが、「今日は楽しかった」「会えて嬉しかった」くらいならなんとか……
 それができるかどうかで、相手に与える印象がかなり違う。
 そういう体験が豊富な安住さんが仰っていることなので、間違いないはずです。

 この本を読んでいると、安住アナも齋藤孝先生も、コミュニケーションの達人だと感じるんですよ。
 ところが、安住アナは、こんな話もされているのです。

安住アナ:そのときどきの機嫌や好不調の波が影響してパフォーマンスを落とす。社会人が失敗するパターンの多くが、これです。
 それがわかっているので、私の場合は、なるべく仕事の前は日常生活で機嫌が悪くなることが起きないように注意しています。
 たとえば、仕事の前に買いものに出かけて、入荷されていると聞いていたはずの品物が置いてなかったとき。やっぱりガッカリしますし、イラッときます。イラッとした感情のまま現場に戻ると、よくない結果をもたらします。
 ですから、そもそも買いものに出かけないようにして、不測の事態を回避するのです。独身だからできる力ワザです。
 
 大事な仕事の前には電車やバスを使います。時間通りに行けるからです。
 どうしてもタクシーを使うときには、道順を自分で説明します。自分で地図を見ながら、「この先、左です」「右にお願いします」といった具合に伝えます。
 これは結婚できませんね(笑)。


 安住さんは、アナウンサー、キャスター、あるいは、ラジオのパーソナリティとして、高いパフォーマンスを維持するために、日常生活では、極力、不測の事態を避け、自分が不機嫌にならないように気を付けているのです。
 プロだなあ、と感心してしまうのだけれど、ここまでやるとなると、身近な人にとっては、かなり面倒な存在なのではなかろうか。
 安住さんにもその自覚はあって、「これは結婚できませんね」と仰っているのです。
 
 ものすごく立派なことが書かれていたり、誰にでも手っ取り早くできるコミュニケーションの秘訣が明かされたりしているわけではありません。
 だからこそ、けっこう「役に立つ」のではないかと思うんですよ、この本は。
 安住アナや齋藤孝先生でも、コミュニケーションで日頃から意識しているのは「当たり前のこと」だし、うまくいかなくて悩むこともある、というだけでも、なんだか安心できますし。


局アナ 安住紳一郎

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恥をかかないスピーチ力 (ちくま新書)

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一行でわかる名著 (朝日新書)

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