琥珀色の戯言

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【映画感想】グランツーリスモ ☆☆☆☆

世界的人気を誇る日本発のゲーム「グランツーリスモ」から生まれた実話をハリウッドで映画化したレーシングアクション。

ドライビングゲーム「グランツーリスモ」に熱中する青年ヤン・マーデンボローは、同ゲームのトッププレイヤーたちを本物のプロレーサーとして育成するため競いあわせて選抜するプログラム「GTアカデミー」の存在を知る。そこには、プレイヤーの才能と可能性を信じてアカデミーを発足した男ダニーと、ゲーマーが活躍できるような甘い世界ではないと考えながらも指導を引き受けた元レーサーのジャック、そして世界中から集められたトッププレイヤーたちがいた。想像を絶するトレーニングや数々のアクシデントを乗り越え、ついにデビュー戦を迎える彼らだったが……。

主人公ヤンを「ミッドサマー」のアーチー・マデクウィ、GTアカデミーの設立者ダニーをオーランド・ブルーム、指導者ジャックをデビッド・ハーバーが演じる。


www.gt-movie.jp


2023年映画館での鑑賞16作目。 平日の夕方からの上映で、観客は10人くらいでした。
予告編を観たときには、正直、Amazon Primeとかで配信されて気が向いたら、くらいかなあ、と思ったのですが、公開後の評判がけっこう良く、僕はカーレースを扱った映画が好きなので、時間が空いた日に観てきました。

「レースカーにかかるG(重力)は、宇宙ロケットの2倍」
まあ、そんなに簡単な世界ではないよなあ、と。
宇宙飛行士たちは、そのGに耐えるために、長い時間の訓練を受けているのです。
運転しながら首をカクカクしていたドライバーもいました。

「運転すること」に関しては、F1パイロットたちもシミュレーターでトレーニングしているわけで、逆に考えれば、『グランツーリスモ』のような精密なドライブシミュレーターを実車に近いハンドルやブレーキなどの入力機器を使って上手くプレイできるのであれば、かなり「適性」はあるともいえそうです。

とはいえ、大学時代にF1ブームの直撃を受け、徳弘正也先生が『ジャングルの王者ターちゃん』で、主人公の「目がいい」ことをマクラーレン・ホンダに描かれた『ジャンプ』の小さなロゴが見える、というギャグにしていたのを覚えている僕には、F1パイロットは「特別な人間」であり、精神的にも肉体的にも鍛え抜かれたアスリートである、というイメージがあります。

いくら『グランツーリスモ』をやっても、アイルトン・セナミハエル・シューマッハマックス・フェルスタッペンにはなれない、なれるはずがない、と思ってしまうのです(F1のトップドライバーは、レーサーの中でも「特別」なのでしょうけど)。

クラッシュしてもゲームオーバーになるだけのテレビゲームでアグレッシブなドライビングができたとしても、アクシデントが起こったら命の危険がある状況下で同じことができるかは別のはず。
地面に据え付けられた平均台を渡るのは余裕でも、全く同じ幅のものが高層ビルとビルの間に架かっていれば、それを渡るのは簡単なことではありません。

この映画、すごく「楽しい」んですよ。僕も体力には自信がないゲーマーなので、ゲームの世界からリアルワールドで活躍する主人公は応援したくなりましたし、この映画の映像と音、とくに車のエンジン音は大迫力です。まるでサーキットにいるような、うるさいくらいの音の洪水。
「テレビゲームの映画化作品」というよりは、「映画をテレビゲーム化した」ような高揚感。
努力・友情・挫折・勝利!
観ていて、『トップガン』を思い出しました。
おそらく、制作側も「王道の物語を迫力の映像とサウンドで魅せる映画」にしようと考えたのではなかろうか。
それは見事に成就していて、まさに「映画館で見る(聴く)べき作品」になっています。

その一方で、長年カーレースをみてきた僕としては、「こんなにうまくいくものなのか?」と引っかかりもしたのです。
「このクラスのレースで、こんなに簡単にオーバーテイクなんてできないだろ、相手もそれなりのレーサーだし、そもそも車の性能差がそんなにあるはずがない」
「デビュー戦で終盤までポイント圏内に入るような走りをしてリタイアしたドライバーが『実力不足です!』と評価されるわけがないだろ」
「あんなアクシデントが起こったのに、立ち直り早いな……」
などと、観ながら心の中でツッコミを入れずにはいられなかったのです。
それこそ「テレビゲームじゃないんだから」と。

なかなか前の車を抜けないリアルなレース映画なんて、観ていて面白くないし、「僕はもうエヴァに乗りたくありません!」みたいなやりとりは、この映画に関しては、テンポを悪くするだけ」というのもわかるのです。

実際は、ヤン・マーデンボローがプロのレーサーになるまでには、映画で受ける印象よりも、長い時間のハードなトレーニングがあったし、「あんなこと」は起きなかった。まあ、それはそれで良かった、という話でもあるのですが。
そもそも、現在の「世界トップクラスのゲーマー」は、心技体を兼備したアスリートであり、超人なのです。

「実話に基づく物語」ということで、どこまでが「実話」なのか気になって、観た後検索してみたのですが、かなり「『トップガン』要素」を盛っているようです。

「リアルだけどつまらない映画」よりも、「驚くべき事実をベースにして、エンターテインメントに振り切る映画」を求める人が多いのだろうし、僕も、ツッコミどころも含めて、楽しい映画だったと思います。

そして、この映画を観ると、僕も『グランツーリスモ』をまたプレイしたくなりました。
ハンドルセットとかは高いけど、実車よりは、ずっと安いし。
「僕には精密すぎて、ちょっと苦手なゲーム」でもあるのですけど。

このeスポーツの時代に、ドライバーや関係者が常に強いストレスと命の危険にさらされる「リアルカーレース」を行う必要があるのだろうか、ネット上の「バーチャルレース」にしてしまえば、事故で亡くなるレーサーもいなくなるのに、なんてことも考えました。
「命懸けだからこそ、レースは美しいのだ」というのは気持ちとしては理解できるのだけれど、「人が死ぬかもしれないからドキドキする」というのは、悪趣味でもあるよなあ。

ソニーと日産が全面的に協力している(であろう)映画なのですが、いまやパソコンではできない、プレイステーションでしか遊べないキラーコンテンツって、あらためて思い浮かべてみると『グランツーリスモ』くらいなんですよね。
おそらく、プレステ(と日産)のプロモーション的な役割も担っている映画なのでしょう。

そういう意味では「帰ったら『グランツーリスモ』またやってみようかな」と僕に思わせた時点で、この映画の勝ち、ですね。


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