琥珀色の戯言

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【映画感想】ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー ☆☆☆☆

あらすじ
ニューヨークのブルックリンに暮らす配管工のマリオと弟のルイージは、水道管の修理中に謎のパイプを通じて不思議な世界に迷い込んでしまう。キノコ王国にたどり着いたマリオは、離れ離れになったルイージを捜すことを決意。一方、ルイージは闇の国を支配するクッパに捕らえられていた。マリオはキノコ王国の統治者ピーチ姫の訓練を受け、才能を開花させていく。

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2023年映画館での鑑賞8作目。
ゴールデンウィーク翌週の平日の夕方からの回を観ました。観客は20人くらい。

テレビゲームの映画化といえば、実写では『バイオハザード』シリーズや『トゥームレイダー』シリーズが知られています。
マリオブラザーズも実写映画化されたことがあるのですが、「あれを映画館で観た人は、(興行的にも内容的にも低評価だったという意味で)貴重な体験をした」という作品でした。『逆転裁判』の実写映画もあったなあ。
アニメ化された作品では、『ファイナルファンタジー』が、製作費がかかりすぎて大赤字になったことで有名です(僕は作品としてはけっこう好きなんですが)。
ドラゴンクエスト・ユア・ストーリー』という「問題作」もありました。

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「ゲームの映画化」には、あまり良いイメージを持っていない人が多いのではないでしょうか。
僕もそのひとりで、「やっぱり、テレビゲームは自分で操作して遊んだほうが楽しいよな」とか、「なんかこれ、自分のイメージとは違う」という感想になってしまいがちなのです。

この『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』、アメリカで大ヒットし、鳴り物入りで日本公開となったのですが、大ヒットしているようです。
今年のゴールデンウィークは、『マリオ』と『コナン』の両アニメ作品でシネコンのスクリーンを占拠していました。

僕もけっこう楽しみにしていたのですが、観終えての感想は「これは確かに『スーパーマリオブラザーズ』の映画だな。これでいいんだよ、これで。正直、期待を上回るものではなかったけれど、楽しい時間を過ごせた。帰って久しぶりに『マリオ』やろうかな」というものでした。

ストーリー、映像、アクション、すべてが嫌味なくまとまった佳作です。
これまでのゲームの映画化作品って、成功例は、もともと映画的な物語をゲーム化したものばかりだったんですよね。
アクションゲームがベースで、テレビゲームの人気キャラクターを映画にすると、つい、「映画的なドラマ性やテーマの追求、意外な展開」つまり、「テレビゲームとは一線を画したもの」を制作側が狙いすぎ、あるいは「映画はこうでなくては」という幻影にとらわれて、「プレイヤー(観客)を置き去りにしてしまう」ことが多いのです。

この『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』がここまで支持されているのは、「映画としての特別な体験」ではなく、「大画面でみんなが楽しめるゲーム実況的な映像」をつくりあげることに徹したから、だと思うのです。
よくここまで「作家性」みたいなものを抑制したなあ、これはこれで「プロの仕事」だなあ、と感心しました。

本当に、内容的には「ここがすごい!」みたいなものはないのですが、「パソコンで作業をするときのBGMみたいな感じで流しておくのにちょうどよさそう」です。
個人的には、音楽、とくに『スーパーマリオブラザーズ』の音楽のアレンジ版の使い方が素晴らしいと思いました。
「ここはやっぱり、この曲だろう」というところで、しっかりそれが流れてくれるのです。
いま50代はじめの僕が若い頃に聴いていた洋楽の大ヒット曲が何曲か効果的に使われていて、当時のことも思い出しました。
あまりにもベタ、でも、それが楽しくて嬉しい。

ドンキーコングの出番が多いのは、アメリカで『スーパードンキーコング』が大ヒットしてずっとハードを牽引してきたからなのだろうな、とも。
僕としては、「その配管工設定、必要?マリオはマリオだし、いきなりキノコ王国からはじまっても良いのでは」と思いましたし、現実世界とクロスオーバーさせたことによって、かえって「ありきたりなハリウッド映画」になってしまったような気もしたのですが、観ていて楽しい映画ではありました。
クッパも憎めないし、ピーチ姫はこの映画で「なんで毎回クッパにさらわれて助けを待ってるだけなんだよ!」というオールドゲーマーに、ポリティカル・コレクトネスの現在を認識させてくれます。

この映画だけでみれば、「興行成績ほど凄い作品じゃないな」って思うんですよ。
でも、映画を観ながら、「帰ったら、久しぶりに『マリオのゲーム』をやろう!」と僕に決意させた時点で、この映画の「勝ち」なんですよね。
ゲームの世界と現実とがシームレスになることに違和感がなくなった、というか、「ゲームの世界もまた、われわれにとっての『現実の一部』になった」という、この40年間の「ゲーム(あるいはフィクション)と人間の歴史の変化」について思いを馳せずにはいられませんでした。

上映時間も90分ちょっとと短めで、観やすい、楽しい映画です。
「テレビゲームの映画化」から、「テレビゲーム化した映画」へ。
任天堂が長年積み上げてきた「マリオ」というキャラクターの「強さ」をあらためて感じました。


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