- 作者: 天児慧
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/08/22
- メディア: 新書
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内容紹介
21世紀に入り、世界の眼は俄然、中国に向けられるようになった。飛翔を始めた巨大な龍。この国は、どんな歩みを重ねてきたのか。建国以来、今日に至る数多くの事件・事実をたどり、他に類を見ない、そのダイナミックな歴史の流れを描く。定評ある通史をアップデートした新版。
14年前に出た旧版を、2013年にアップデートしたもの、なのだそうです。
14年前といえば、まだ21世紀を迎える前ですから、中国がここまで世界で大きな存在になる前、だったんですね。
この新書では、1949年の中華人民共和国の成立から、2013年春までの「通史」が語られています。
あれだけの大国の歴史を、それほど分厚くもない新書のなかに詰め込んでいるため、パッとページを開いたら字だらけ、という感じですし、主要な歴史上の人物の面白エピソードなどもほとんどありません。
ですが、「中華人民共和国の歴史を、数時間で俯瞰する」という意味では、かなり有用な一冊だと思います。
基本的には「起こったこと」が淡々と並べられているだけなので、あまり偏見や個々の人物への思い入れ無しに読めますし。
まあ、それは逆に、物語としてみれば「読みづらい」感じもするんですけどね。
著者は、成立当初の中華人民共和国について、こんなふうに述べています。
われわれは、1949年の中華人民共和国の成立を二つの点で誤解しがちである。第一はこの時点で国家体制が確立したという誤解である。第二はこの時点で中国が社会主義国家もしくは共産主義国家になったという誤解である。
1949年の時点での「中華人民共和国」は、その統治形態において、まだかなり流動的であり、それが「社会主義化」していくのは、朝鮮戦争などを通じ「アメリカ帝国主義」との対決を余儀なくされるなかで、「親ソ路線」を選択せざるをえなくなったから、なのです。
つまり、中華人民共和国というのは「社会主義国として生まれた」というより、「生まれたあと、急速に社会主義国化していった」ということなのですね。
朝鮮戦争がなければ、もっと早い時期にソ連との路線の対立がみられたか、あるいは、まったく違ったかたちの国になっていたのかもしれません。
この新書を読んでいると、中華人民共和国という大国の歴史というのは、少なくとも1997年までは、「毛沢東と鄧小平の歴史」なのではないか、という気がしてきます。
建国の英雄である一方で、文化大革命を引き起こし、多くの犠牲者を出した毛沢東。
何度も失脚の憂き目をみながら、権力の座に返り咲き、中国の経済発展の立役者となった&鄧小平。
吉川英治が『三国志』のあとがきで、「これは曹操と孔明という二大英雄の物語なのだ」と書いていたのを記憶しているのですが、中華人民共和国の歴史というのは、そういう意味では「毛沢東と&鄧小平の物語」なのかもしれません。
出てくる数字のスケールが、良くも悪くも日本の歴史とは「一桁違う」ことにも驚きます。
とくに、人間の数が。
「文化大革命」に関する数字には、とくに圧倒されました。
プロレタリア文化大革命(文革)とは、広義には1965年、ないしは1966年から1976年の毛沢東の死に至る時期にみられた、毛の理念の追求、ライバルとの権力抗争といった政治闘争に加えて、それらの影響を強く受けながら、大嵐のごとき暴力、破壊、混乱が社会を震撼させ、従来の国家や社会が機能麻痺を起こし、多くの人々に政治的、経済的、心理的苦痛と犠牲を強いた悲劇的な現象の総体を称する。文革の犠牲者は、正確にはわからないが死者1000万人、被害者1億人、経済的損失は約5000億元とも言われるほどであった。教義には、1966年から69年の中共第九回全国大会までの中央から末端に至る、「紅衛兵」、労働者、農民らをまきこんだ激しい政治闘争を指す。
死者1000万人、って……
著者によると、この「文革」の背景には、政治闘争だけではなく、それまで差別されてきた「革命に協力しなかったとされている人々」の不満もあったのではないか、とのことです。
「階級」のリセットを求めた動き、でもあったのです。
当時の日本には、こんな毛沢東の権力闘争を支持していた、言論人たちもいたわけで、人というのは「見たいものを見る生き物」なのだということを、あらためて考えさせられます。
第一次、第二次天安門事件、鄧小平の経済改革路線、そして、「世界の工場」としての経済発展……
こうして、中華人民共和国になってからの歴史を辿ってみると、中華人民共和国が「本格的に大国としての影響力を周囲に行使しはじめた」のは、20世紀末から21世紀にかけてであって、それまでは、国内問題に忙殺され、アメリカやソ連との関係に悩見続けてきた国だということがわかります。
経済発展の一方で、富裕層と貧困層、都市部と農村の格差が急速に進行してきています。
「三農問題」とは、「農業」の低生産性、「農村」の荒廃、「農民」の貧困のことを指し、経済社会の持続的発展を脅かす不安定要因といわれる。1985年には都市住民一人当たりの賃金は690元、農村一人当たりの純収入は397元で、両者の格差は1.74対1であった。それが、2005年には、都市1万493元に対し、農村は3255元となり、その格差は3.22対1に拡大した。もっともその後、大量に都市に流入した農民工の仕送りなどによって農村の収入が伸び、都市と農村の格差は縮小傾向に転じている。
これを「農村の収入が伸びている」として良いのか、ちょっと疑問でもあるのですが……
「一人っ子政策」の影響で、急速に進行してくる高齢化社会、政権が軍を背景にしているため、伸び続ける軍事費など、これからの中国にも、さまざまな問題が山積みです。
もっとも、日本だって他国のことが言えるような余裕はないのですけど。
「中国の脅威」や「中国への嫌悪感」を受け売りで拡散する前に、相手の成り立ちを知っておいたほうが良いはずです。
そんなに読みやすいわけではないのですが、コンパクトにまとまった「通史」だと思います。
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