琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】知らないと恥をかく世界の大問題10 転機を迎える世界と日本 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
「新しい冷戦」の時代に入った世界を読み解く。池上ニュース解説の決定版

米中衝突!! 新・冷戦時代へ
転機を迎える世界と日本を読み解く、池上ニュース解説の決定版。

混迷の度合いを深める世界。
大国間での「自国ファースト」のぶつかり合いをはじめ、
テロや紛争、他民族を排斥する動き、環境問題、貧困問題等々……課題は山積み。
この「転機」の時代に世界はどこへ向かおうとしているのか――。
未来を拓くために、いまこそ歴史に学び、世界が抱える大問題を知る必要がある。
2009年の第1弾の発売から今回で10作目。
シリーズ累計186万部突破、信頼の「池上解説」最新第10弾。


 このシリーズも、もう10冊目になるんですね。
 池上彰さんは、「このシリーズは空港の書店で買われて、フライト中に読んでいる人が多い」と仰っているのですが、まさに「2時間くらいで、いまの世界情勢の概略がわかる本」なのです。
 
 いまから30年前、1989年12月に、地中海のマルタでアメリカのジョージ・H・W・ブッシュ大統領(パパ・ブッシュ)と、ソ連ゴルバチョフ書記長が東西冷戦の終結を宣言しています。
 その後は、「アメリカの覇権時代」が続いていたのですが、その覇権が揺らぎつつあるのです。

 米ソの対立は「冷戦」と呼ばれました。お互いが実際には使えない(使わない)核兵器を持ってにらみ合っていたからです。実際に撃ち合う戦争(ホット・ウォー)に対して、「冷戦」(コールド・ウォー)。核兵器の恐怖が”平和”を創り出すという異常な時代でした。
 ところが、いま、また大国間に新たな対立が生まれています。
 2018年10月4日、アメリカのマイク・ペンス副大統領が、保守派シンクタンク、ハドソン研究所で行った演説は衝撃的でした。経済大国となった中華人民共和国への容赦ない対抗心をむき出しにしたからです。


(中略)


 そんなペンスの演説の概要を一部、紹介しましょう(日本経済新聞2018・11・2付より引用)
ソ連の崩壊後、我々は中国の自由化が避けられないと想定した。楽観主義をもって中国に米国経済への自由なアクセスを与えることに合意し、世界貿易機関WTO)に加盟させた。中国での自由が経済的だけではなく政治的にも拡大することを期待してきた。しかし、その希望は満たされなかった」
 要するに、アメリカとしては中国が経済的に豊かになれば、やがて民主主義の国になるだろうと思って中国に投資し続けてきた。ロシアでさえ経済が豊かになると民主化された。しかし中国は、世界2位の経済大国になったいまも共産党による独裁で、政治的自由が進む気配がない。アメリカは中国に裏切られたのだ。自分たちの見通しは甘かった。ペンスは、「アメリカが中国を助ける時代は終わった」と断じたのです。


 ペンス演説のなかでは、中国がアメリカから技術を盗もうとしていると断じ、インターネットの検閲などで人びとの自由が奪われ、宗教の自由も奪われている、という激しい批判がなされているのです。
 池上さんは、ペンス演説は「中国への宣戦布告」であり、民主党も反対していない、と述べています。
 アメリカと中国の蜜月時代は、終わりを告げたのです。

 中国の国家体制を許せないと考えるペンス副大統領と違って、トランプ大統領は自称「タリフマン(関税の男)」です。貿易赤字さえ解消すればいいのです。
 対して中国側は「アメリカの貿易赤字を減らすためにも、もっとアメリカ産農産物を輸入します」と低姿勢になりました。「バカなトランプに媚びておこう」と、トランプのご機嫌をとるために妥協のポーズを見せたのですが、結局交渉は決裂。2019年5月初旬、アメリカは中国に対して輸入品2000億ドル(日本円で約22兆円)に25%の関税をかけることを決めました。


 アメリカと中国の駆け引きによって、これからの世界は動いていくことになりそうです。
 それにしても、これほどはっきりと「方向転換」するものなのだなあ、と驚くばかりです。日本は、あまり「白黒つけない、とにかく関係を悪くしない」という感じなので。まあ、アメリカの意向をうかがいながらの外交なので、致し方ないのかもしれませんが。


 ヨーロッパでも、EUの揺らぎは続いており、不透明な状態が続いています。イギリスも、EU離脱が決まっているはずなのに、実際に離脱するとなると、さまざまな問題が出てきています。
 とはいえ、「離脱やめます」というわけにもいかず、まさに「迷走」しているのです。
 「EUからの離脱」となると、イギリスには、北アイルランドの国境管理問題が生じてきたのです。

 北アイルランド情勢が安定したのにはいろいろな理由がありますが、一番大きな理由は、イギリスとアイルランドの双方がEUに入ったことがあります。EUに入ったことで、北アイルランドアイルランドの国境管理がなくなり、お互いが自由に行き来できるようになりました。家は北アイルランドにあるけれど、農場はアイルランドにあるといった人もいて平和になったのです。
 ところがイギリスがEUから離脱するとなると、アイルランドはそのままEUに残りますから、北アイルランドアイルランドの間には再び国境線が生まれます。となると、北アイルランドにいるカトリック教徒たちがまた怒り出して、北アイルランド紛争が再燃しかねません。すでにIRAから飛び出した「真のIRA(RIRA)」という過激派のテロが始まっています。
 北アイルランド紛争の地・ウエスベルファスト地区には、いまでもあちこちに壁があります。カトリック系住民とプロテスタント系住民が壁をつくって住み分けているのです。


 EUの分担金などの負担があるとはいえ、イギリスの場合は、島国でもあり、移民が国境をこえて押し寄せてくる、ということも起こりにくいわけで、北アイルランド問題などを考えると、離脱のリスクのほうが、傍目には大きいように思えるのです。


 中国も「経済大国化」している一方で、その反動もみられています。

 アメリカは中国経済が発展し豊かになれば中国の政治が民主化するだろうとずっと応援してきたら、裏切られてしまった。ついに本気の対中宣戦布告「ペンス演説」です。
 先にも触れたように、中国の発展の絵を描いたのは鄧小平でした。国民も彼を尊敬していました。しかし現在は国民の間で毛沢東人気が再燃し、習近平は第2の毛沢東になりたいと思っているようです。
 毛沢東と鄧小平、何が違うのか。鄧小平は国家のことを考えていました。毛沢東は自分が権力者となることを考えていました。その違いです。
 権力志向が強かった毛沢東ソ連型経済をモデルとし、大躍進経済で大失敗。5000万人以上の餓死者を出し、果ては文化大革命毛沢東主導で行われた権力闘争)を引き起こして、ここでもまた多数の死者を出しました。鄧小平はものごとを合理的に考える有能なリーダーでしたが、毛沢東はただの独裁者だったのです。
 しかし、そうした過去を知らされることのない国民は毛沢東を再評価しています。なぜなのか。それは毛沢東の時代は”平等”だったからです。貧しくても平等に貧しかった。中国は現在、とてつもない格差社会です。鄧小平は「豊かになれるところから豊かになれ」と言いました。その結果、沿海部ばかりが豊かになり、格差が広がりました。格差に不満がある庶民は、「毛沢東の時代はよかった」と言うわけです。
 とくに最近は、マルクス主義を掲げ、「労働者の人権を守れ。格差をなくせ」と主張する大学生のグループが北京大学をはじめ、各地で活動を広げています。彼らの主張を見ると、まるで資本主義社会における共産党の活動のように見えます。
 習近平は鄧小平を否定し、毛沢東路線へ回帰しています。ただし、こうした学生運動は弾圧しています。自分に対する批判は許さないのです。習近平中国共産党のトップ=総書記であると同時に、中国政府のトップ=国家主席。両方を兼務しています。


 「共産党」が一党支配しているはずの中国で、「(日本の)共産党のような主張をしている大学生が活動を広げている」というのが現状で、しかも、習近平国家主席は、毛沢東を目指している。
 アメリカでは、「格差社会の是正」をスローガンとする民主党バーニー・サンダース議員が支持を集めています。

 歴史は繰り返す、というか、資本主義が突き詰められ、格差が広がっていくと、またマルクスが蘇ってくる可能性はありそうです。
 日本で左派やマルクス主義が再燃してこないのは、まだそれなりに社会福祉が行き届いているのか、もう、みんな諦めてしまっているのか。

 
 ものすごく目新しいことが書いてあるわけではないのですが、「移動時間に、世界情勢をひととおり仕入れておく」には、ちょうどいい本ではあると思います。


世界を変えた10冊の本

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池上彰のお金の学校 (朝日新書)

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