琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【映画感想】怪物 ☆☆☆☆

あらすじ
息子を愛するシングルマザーや生徒思いの教師、元気な子供たちなどが暮らす、大きな湖のある郊外の町。どこにでもあるような子供同士のけんかが、互いの主張の食い違いから周囲を巻き込み、メディアで取り上げられる。そしてある嵐の朝、子供たちが突然姿を消してしまう。


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2023年映画館での鑑賞9作目。
6月中旬の平日の夕方からの回を観ました。観客は10人くらい。

カンヌで脚本賞をとってもいるし、観たいけど是枝監督が子どもを撮った映画って、「重い」んだよなあ……と思いつつ時間が過ぎていったのですが、ある平日の夕方「今日はちゃんとやるべきことをやった!」という気分になった日に観てきました。

観終えて、力が抜けた。
世の中には、誰が悪いわけでもないのに、どうしようもないこと、というのがあって、そういうものに巡り合ってしまったら、もうどうしようもないのではないか。

僕がこうして映画を観ていられるのは、ただ、「幸運だった」だけではないのか。

これは「ハッピーエンド」なのか、「バッドエンド」なのか?
(監督自身には「答え」があるとしても)観客それぞれの「解釈」に任せる、というのが是枝監督のスタンスなのでしょう。

観てよかった、いい映画だ、と思う。
でも、これは映画館だったから最後まで見届けられたような気もするのです。
家でDVDや配信されたものを観ていたら、きっと安藤サクラさんが学校にクレームをつけにいくシーンくらいで、挫折していた。
安藤サクラさんの「モンスターマザー感」の凄さには圧倒されました。言っていることは間違っていないはずなのに、あまりの「圧」の強さに逃げ出したくなってしまう。
この映画についての予備知識(多くの視点で語られ、「正しさ」はひとつではない)もあったし、僕自身、仕事のなかで「モンスタークレーマー」みたいな人、あるいは「過剰な期待や負担を押しつける」タイプの人に接してきた記憶がよみがえってきたのです。


「怪物、だ~れだ?」
当事者の言い分をちゃんと聞かずに、自分の先入観や巻き添えにならないことを優先してしまう「セリフもほとんどなく、役名もない登場人物たち」、ネット的には「無数の名無しさん」たちこそが「怪物」ではないか、という解釈はできるのですが、なんだかそれは安易なのかな、という気もします。

登場人物の子どものひとりは、「いわゆる発達障害」のようにみえて、うまくやっていくのは、周りの側も難しいだろうな、と思ったんですよ。
いち観客としては「なぜ親は診断や治療も含めて、ちゃんとしてあげないんだ?」と言いたくなるのですが、もし同じことが自分に起こったら、平然と「やるべきこと」だけを淡々とやれるだろうか?
毒親」とか「親ガチャ」なんて言葉はかなり一般的なものになりましたが、親の立場になってみると、絶望的に落ち着きがなくて周りの子とトラブルばかり起こしたり、犯罪に手を染めてしまったりするような子どもを「子ガチャ」で引いてしまうこともありえるわけです。

そこまで問題を立て続けに起こすような子どもじゃなくても、自分の子どもの「ふだん」なんて、親にはわからない。僕だって子どもの頃「親はわかっていない」と思っていたし、親になってみると「子どものことが心配な気持ちと、個人として立ち入るべきではない領域」に戸惑い続けています。

正直、この映画に関しては、途中からの「すっきりしない解決編」をみていて、「うまくミスリードしすぎ」だし、「2人の関係をそういうふうに描いてしまうのは、なんかやりすぎというか、海外の映画賞狙いっぽい」とか言いたくもなるのです。
保利先生、キャラ変わり過ぎだろ、とも。

結局のところ、「事実はそれを語る人の数だけある」ということなのか、「子どもどうしの微妙な関係」を描きたかったのか、あるいは、その両方を描こうとして、前半と後半がうまくつながらなくなってしまったのか。

それでも、「巷間伝えられている『ニュース』を鵜呑みにせずに、安易に自分の正義を振りかざさないようにしたほうがいいかな」とは感じました。

「こんなのどうしようもないじゃないか、とくに大人にとっては、もらい事故みたいなものじゃないか」というやるせなさもあったんですよ。
子どもたちにとっても「どうしようもなかった」のだろうけど。
バッドエンドしかないアドベンチャーゲームみたいな映画だよなあこれ。いやあれが「真エンド」なのか?

安藤サクラさん、永山瑛太さん、田中好子さんの「怪演」とも言うべき役者力もすごいし、なんといっても、黒川想矢、柊木陽太というふたりの子どもがすごい。
正常と異常、あの世とこの世の細い「境界」を渡っていくような存在感。僕が子どもの頃にもいたし、いまも「いる」、そして、大人を戸惑わせている。

是枝監督らしい、「観た人の心に爪痕をのこす映画」だと思います。「うまくやりすぎている」ことに、少し違和感もあるのだけれど。


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