リッツ・カールトン 至高のホスピタリティ (角川oneテーマ21)
- 作者: 高野登
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2013/05/10
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
リッツ・カールトン 至高のホスピタリティ (角川oneテーマ21)
- 作者: 高野登
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2013/06/03
- メディア: Kindle版
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内容紹介
「一流のおもてなし」ができるプロは、仕事に臨む態度、周囲への気配り、そして人生に取り組む姿勢そのものが違う! 前リッツ・カールトン日本支社長が教えるホスピタリティの極意
170ページも無い、新書としても比較的薄めの本で、「まあ、ちょっと気分転換に。最近いろいろと『ホスピタリティ』のことで考えたこともあったし」などと思いながら手に取りました。
しかしながら、この新書、僕が思っていたよりも、ずっと良質な「ホスピタリティについて考えさせられる一冊」だったんですよね。
僕は、リッツ・カールトンには泊まったことも、中に入ったことすらありません。
正直、これを読むまでは、「まあ、超高級老舗ホテルだからできることで、一般のサービス業には真似できないような話ばっかりなんだろうけどね……」とも思っていました。
たとえば、
今度は、「ジェット機が欲しい」というお客様への対応です。じつは、前項もこも、私が在職中にリッツ・カールトンで本当にあった事例です。
窓の外を見ていたお客様の目の前を、飛行機が飛んでいきました。何を思ったのかその方は、大空に吸い込まれていく飛行機を見ているうちに「あれが欲しい!」と、強く感じてしまったのです。
この方は大金持ちですから購入資金はあるのですが、飛行機そのものには詳しくなかったため、あなたのところへやってきました。
「僕、○○号室に泊まっている○○だけど、僕の部屋からちょうどね、すっごいきれいな飛行機が見えたんだよね、あれジャンボかな? あれ買いたいんだかど、何とかしてよ」
さて、あなたならどう答えますか?
僕だったら、「ご冗談でしょう」と笑い話にしてしまうか、「さすがにいきなりは難しいかと思います……」と突っぱねるか……
もちろん、この新書には、このお客様への実際の対応と、その後の顛末も書かれています。
詳細は書きませんが(機会があれば、ぜひ書店で確かめてみてください)、世の中というのは、無理なんじゃないかということでも、実際にあたってみると、けっこうみんなきちんと対応してくれるものなんだな、と思いました。
考えてみれば、いろんな問い合わせがあるからこそ「サービスセンター」という仕事に給料が払われているわけですし、飛行機メーカーだって、「売れるものなら、売りたい」はずなんですよね。
こんなエピソードも紹介されています。
たとえば、こんなイメージです。あなたが女性だとします。恋人とリッツ・カールトンのレストランで食事をしながらプロポーズされたら、「イエス」と答える確率は高くなることでしょう。
リッツ・カールトンのスタッフは、そういったときは特別なステージを用意してお迎えします。もちろん、これは他のホテルやレストランにもあるサービスだと思います。
しかし、リッツ・カールトンは、より高度なおもてなしを提供するために、最強のチームワークを発揮します。
カップルが食事をしているテーブルの脇には、美しく輝くアイスカービング(氷細工)が置かれています。
食事が進んでいって、メインコースが終わると、だんだん氷も融けていきます。
そして食後にコーヒーとケーキで、「おいしかったね」という会話をしているときに、氷細工の中からカランと何かが銀盆の上に!
彼氏が拾いあげたそれは、紛れもなく婚約指輪。
「僕と結婚してくれませんか」と言ってかれはあなたの目の前にさし出したのでした。
ここで「NO」と言える勇気を持っていたら大したものです(笑)。
絶妙なタイミングで花束を届ける、といったことは、おそらくどこでも実行できるでしょう。しかし、ここまで実行するとなると、面倒くささが先にきて、それこそ夢物語で終わってしまうのではないでしょうか。
じつは、大阪のリッツ・カールトンでは似たような状況が何度もありました。そして、挙式はもちろんリッツ・カールトンです。
それにしても、この作戦遂行はかなり大変なことなのです。ホテル関係の方ならおわかりいただけると思うのですが、氷細工の中にリングを入れて、その部屋の温度調整からお客様が食べるスピードから、全部を上手にコントロールしていかなければならないわけです。
このプロポーズ大作戦を成功させるために、メニュー考案から入り、食事のスピード予測、室温設定の管理等々、どのように進めていくかをみんなで考えました。
シェフは、当日に用意する氷細工と同じものを作り、そこにリングを仕込んで、氷の融ける時間を計っていました。
うわー、バブルの頃を思いだすようなエピソードだなあ!と思いながら読みました。
しかも、ここまでのことがやれるのは、おそらくすごいお金がホテルに入ってくるであろう、披露宴での利益も含めて考えているからなのでしょう。
著者は、現場でこのプロポーズ大作戦を成功させるために研究をしたり、当日の現場で氷の融けぐあいをみながら、料理を出す時間やコーヒーのタイミングを計ったり、時間を稼ぐためにウエイターがお客様に話しかけたりしているのを、スタッフの「遊び」なのだと紹介しています。
もちろん、失敗が許されない状況ではありますが、「スタッフも遊び心をもって、お客様を喜ばせるためのサービスをしているのだ」と。
実際、良いサービスって、そういうものじゃないかな、と僕も思うんですよ。
サービスする側も、「これで喜んでくれるかな?」って、ちょっとワクワクするような気持ちがあったほうが、良い結果を生むのではないかって。
この本には、リッツ・カールトンの話だけではなくて、もっと身近な「ホスピタリティ」の話もたくさん紹介されています。
私自身は、ホスピタリティとは自分の身を修めること、つまり修身であると考えています。だから、子ども時代に身につけてほしい人として当たり前の行動を「キッズホスピタリティ」という言い方でお伝えしています。
たとえば、「”お姉ちゃん、ハサミ貸して”と、下の学年の子に言われたとき、どんなふうに渡す?」と質問します。
そのうえで、「まず最初にハサミを用意するよね。それを相手に渡すときに、刃先を向けて、どうぞれは、相手は小さい子だし、危ないよね。だから、柄の方を相手に向けて、けがをしないように手の上にそうっとのせてあげるでしょ。これがホスピタリティの第一歩だよ」と話します。そうすると、小学生でもわかるのです。
ここからさらにもう一歩進めます。
今度は、カーテンの向こうにいる3人の人たちに「ハサミを貸す」という設定です。こちらから向こうの3人は見えません。たいていは母親がいつも使っている裁ちバサミを用意したりするわけです。
ところが、カーテンを開けてみると、一人は左利きの人です。用意した裁ちバサミは右利き用でした。
真ん中の人は目が不自由でした。やはり鉄製の裁ちバサミでは危険ですね。今は、セラミック製の安全性を高めた視覚障害者用のハサミがあるのです。それなら安心して使ってもらえるでしょう。
あと一人は2歳の女の子です。大人用の裁ちバサミは彼女の手には大きすぎますね。
裁ちバサミを用意すること、それはサービスです。それを相手にとってベストなものを選んで渡してはじめて、ホスピタリティになるのです。
ホスピタリティと聞くと、難しく考えてしまう人がいますが、要はそういうことなのです。しかし、こんなことが、ホテルマンでもできていない人が多いのです。
これは本当に考えさせられる話です。
著者は「子ども向け」だと仰っていますが、僕自身も「自分基準」で、いつも使っているハサミを「はい、これ」と手渡してしまいがちなんですよね。
それを「普通に」使うことが難しい人の存在を、想像することもなく。
もちろん、すべての問題に対応したハサミがその場にあるわけではないのでしょうが、その場合でも、危険が少ないようにサポートしたり、代わりに切ってあげることで、状況はずっと良くなるはずなのに。
ホスピタリティというのは、「想像力」であり、「相手の立場になって考えること」なんですよね。
ああ、でもそれを実践できている人って、どのくらいいるのだろうか?
僕も「うちにはこのハサミしかないから、相手が合わせてくれないとしょうがない」って、思考停止してしまいがちです。
もちろん、すべでのサービス業従事者が「リッツ・カールトンのホスピタリティ」を実践することは難しいでしょう。
コストやマンパワーの問題もありますし、お客だって、吉野家で『トゥール・ダルジャン』と同じサービスを求めてはいないはず。
いくら良質なホスピタリティを提供しようとしても、「相手による」ってところもありますしね。
リッツ・カールトンのスタッフでさえ、あまりにもワガママな「お客様」にキレて、「もうやめる!」といきなり制服を脱ぎ捨てて帰ってしまう人もいるそうですから。
リッツ・カールトンのクレドカードには、「We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen」というモットーが書かれてあります。
そこには、「私どものホテルにいらっしゃるお客様は紳士・淑女です。そのお客様をおもてなしする私たちも紳士・淑女でなければなりません。ここが召使い(サーバント)との違いです」という思いが込められています。
実は、いちばん欠けているのは、「お客様」の側のスタッフに対する「敬意」なのかもしれません。
いくらお金が介在していても、相手を召使いとして扱えば、「召使いのサービス」しかしてくれないのは当然のことだから。