琥珀色の戯言

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【読書感想】ルポ 出所者の現実 ☆☆☆


ルポ 出所者の現実 (平凡社新書)

ルポ 出所者の現実 (平凡社新書)


今回はKindle版で読みました。

内容(「BOOK」データベースより)
刑務所出所者による再犯が社会問題化している。『犯罪白書』(平成21年版)によると、一般刑法犯の再犯者率は40パーセント以上。受刑者同士が刑務所内で出所後の犯行を謀議し、凶悪犯罪に結びついたケースもある。彼らの自立更生と再犯防止の有効手段はないのか。出所者と彼らを受け入れる社会、統計では見えないリアルな姿を描く。


いまの「刑務所」はどうなっているのか?
僕は「再犯者による凶悪犯罪」のニュースをみるたびに、「なんでこういう連中を刑務所から出したんだ?」などと考えてしまうんですよね。
堀江貴文さんによる「獄中記」などを読むと、日本の刑務所というのは「反省」「改心」とか「再犯防止」を重視しているわけじゃない、というのがわかります。
受刑者の自由を制限することによって、ストレスをかけ、「もうこんなところ(刑務所)には入りたくない」と思わせることで精一杯。
それでも「入りたくない」はずなのに、再犯をくり返す人は少なくないのです。

 法務省法務総合研究所編『犯罪白書』(平成21年度版)には前年にひきつづいて、「再犯防止施策の充実」を重点的に取り上げている。それほど「刑務所へ再入所」する者が多く、それを法務当局が憂慮している証左であろう。
 統計によれば再犯者率(検挙人員に占める再犯者の比率)は1999年以降、30パーセント台で推移していたが、2008年には40パーセントを超えた。特に顕著なのは「窃盗と覚せい剤」で、これにかぎれば再犯者率は50パーセントを超えている。
 窃盗がもっとも再犯者率が高く、動機は「生活の困窮」という理由が7割を占めている。近年の経済不況という社会的背景を反映した結果であろう。窃盗によって手にした金額は詐欺などの犯罪に比べると、金額的には微々たる事件が多いが、裁判になれば常習窃盗犯の実刑判決はほぼ100パーセントである。
 また、覚せい剤事犯は窃盗罪に次いで再犯率が高く、窃盗同様に再犯者は同じ罪名で再入所してくる。また覚せい剤使用者は一般市民が圧倒的に多く、裁判で実刑が確定して刑務所に入るのは、初犯のケースよりも再犯者が80パーセントを占めている。

 こんなに再犯者が多いとは。
 なかには、刑務所内で他の受刑者と共謀し、出所後に強盗殺人事件を起こした、という事例まで紹介されています。
 また、受刑者の会話には自分たちの犯罪を「武勇伝」のように語るものが多いのだとか。


 ある刑務所の所長は、著者にこう語っています。

 地域社会の人たちが刑務所と受刑者に理解を示してくれることが、受刑者の更生に役立つと所長は強調する。確かに所長の語る「地域社会の理解」が、出所者の更生には必要であろう。だが、実際問題として再犯者率は5年で40パーセント以上。2.5人に1人は5年経つと、また刑務所に戻ってしまう。
 この現実は実際のところ、社会が出所者に対して冷たく無理解というよりも、本人自身に問題があるからではないのか。彼らは不自由な刑務所に入ると「よく働く」と、ベテラン受刑者は話していた。その理由は「不自由さから一日でも早く解放されるための手段として真面目に働く」というものだった。こうなると、まるでイタチごっこではないか。彼ら累犯受刑者(当てはまらない受刑者もいるが)は、真面目に働いているという態度を装うことこそ刑務所体験の知恵で、そのスタイルを刑務所ライフの極意と心得ているのではないか。
 所長は静かに語る。
「仮に、そのベテランのいうことが刑務所生活の知恵としてもですよ、それでも、受刑者の人間性を尊重し、よい面を最大限に伸ばすことによって反社会性、反道徳性を自主的に克服させて、再犯に走らないよう自立更生させることが、私たち刑務所に勤める人間の役目なんです。累犯者といっても立派に更生している者もいるわけで、統計数字だけで彼らを評価するのはどんなものですか……」

 現場の刑務官たちは「4割の再犯」に打ちのめされつつも、「6割は再犯しない」ということに希望を見いだしているのかもしれません。
 この新書を読むと、たしかに出所直後の元受刑者たちは、所持金も少なく、住むところもなく、仕事も見つからず、頼りにできる人もほとんどいない、という現実にさらされます。
 一部の元受刑者には、数か月間の社会復帰準備施設での「肩慣らし」が行われていますが、それはもう、ごく一部の「優良受刑者」だけが対象です。


 まあでも、「じゃあ、元受刑者たちをお金や仕事の面で『優遇』すべきか?」と問われたら、「悪いこともせずに地道にがんばっていても、仕事がなくて困っている人がたくさんいる世の中で、それはいくらなんでも不公平なんじゃないか?」と言いたくなりますよね。
 再犯防止や治安の維持という観点からは、「優遇措置」が望ましいのかもしれないけれど……


 この新書のなかには、元受刑者の「出所後も差別されている」という憤りの声も録られていますし、現実問題としての出所後の生活の厳しさや偏見はあるようです。
 でも、「平等」って何なのだろう?
 どんなことをやっても、刑期を終えればリセットされるのが正しい、とも思えないのです。僕の感情としては。
 「差別されるし、生活も苦しいから再犯するんだ」と「更生したいとか言ってるけど、2.5人に1人はまた何かやるんだから、近くにいると危険極まりない」
 これは、それぞれの立場からすれば「正しい」わけですし。


 また、最近の刑務所には、こんな問題もあるそうです。

 刑務所では65歳以上の受刑者を「老人受刑者」として区分している。その数は2006年に936人で、受刑者全体に占める割合は2パーセントに過ぎなかった。だが、数字は年々増え続け、2008年には1502人となり、全受刑者に占める比率は3パーセントを超えてしまった。
 老人受刑者の犯罪で最も多いのは窃盗(50.6パーセント)、次いで詐欺(10.3パーセント)。殺人も179人が服役していた。また、窃盗犯は初犯よりも再犯が多いのは、若年層と変わらない。
 しかし、老人受刑者を主に収容する刑務所)尾道刑務所以外に四国、九州にも増設の計画がある)は、今日では刑事施設というよりも老人ホーム化しており、現場は刑を執行するというよりも、老人受刑者の介護に追われているのが現状なのである。それは、わが国の福祉政策の貧困度を象徴している現象なのではあるまいか。

「食べていけないから」という理由で犯罪をおかし、「刑務所に入れてくれ」と懇願する高齢者の話は、ときどき耳にします。
 それは、本当に不幸なことだと思うんですよね。
 食い逃げやちょっとした窃盗でも、実際に「被害者」は出るわけだし。


 こういう現実があるのだ、ということを知ると、いまの世の中で、「刑務所に入れること」というのは、一時的な隔離が主目的になっていて、そのため、無期懲役犯もなかなか仮釈放されなくなってきているというのもしょうがないのかな、思えてきます。
 とはいえ、軽微な犯罪でも、みんな死刑にしちゃうわけにもいきませんし……


 社会は、どこまで「元受刑者」に寛容であるべきなのか?寛容でいられるのか?
 難しいですよね、こちらにも余裕がなければなおさら。

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