琥珀色の戯言

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【読書感想】ルビンの壺が割れた ☆☆☆

ルビンの壺が割れた (新潮文庫)

ルビンの壺が割れた (新潮文庫)

  • 作者:宿野 かほる
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: 文庫


Kindle版もあります。

ルビンの壺が割れた(新潮文庫)

ルビンの壺が割れた(新潮文庫)

内容紹介
すべては、元恋人への一通のメッセージから始まった。
衝撃の展開が待ち受ける問題作!

「突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください」
――送信した相手は、かつての恋人。フェイスブックで偶然発見した女性は、大学の演劇部で出会い、二十八年前、結婚を約束した人だった。やがて二人の間でぎこちないやりとりがはじまるが、それは徐々に変容を見せ始め……。
先の読めない展開、待ち受ける驚きのラスト。前代未聞の読書体験で話題を呼んだ、衝撃の問題作!


 この作品が「衝撃の問題作」としてネットで期間限定無料公開されたのは、2017年だったんですね。
 単行本の発売が2017年8月ですから、もう2年半も経つのか……
 無料公開のときに読み損ねてしまって、その後、「うーん、タダで読めたものを、1000円も出して読むのはなんか悔しいなあ。けっこう薄い本だし……」などと逡巡しているあいだに、こんなに時間が経っていた、という感じです。

 昔付き合っていて、結婚式直前で、なにか複雑な事情ですれ違ってしまった、演劇部の先輩後輩の2人が、SNSをきっかけに、微妙な雰囲気のやりとりをはじめる……という話なのですが、いちいち、「こんなの返信しないだろ」とか、「何この気持ち悪いメール」とかツッコミを入れまくっていました。
 まあ、ページ数も内容も「薄い」、1時間くらいで読める本なので、なんとか最後までたどり着いたのですけど。
 
 読み終えての感想を端的に言うと、「ああ、これは人を不快にさせることに特化した作品なのだな」です。
 とにかく、「意外な展開で、読者を驚かせてやろう」という意気込みは伝わってくるのですが、僕は言いたい。
「意外などんでん返し」と「支離滅裂」はまったくの別物です、と。
 古風な男女の愛憎劇だと思いきや、事態は終盤で『週刊少年ジャンプ』の10週打ち切りマンガのような急展開をみせるのですが、「意外」というより、「読者をびっくりさせようとするあまり、伏線もプロセスも飛び越えてしまっている」のです。
『なんでこうなるの?』というか、「作者が書きたい結末を書くために、登場人物が無理な芝居をさせられていてかわいそう」にすら思えてきます。
「劇中劇みたいな小説」なんですよ。
どんな人間にも裏側や事情がある、とはいっても、こんなベタな裏側だと、かえって「えっ?こんなのでいいの?」と、ちょっと新鮮な感じはするんですよ。
「いままでにない読み味」なのは、たぶん、作家志望の人は、こういう伏線もプロセスもすっ飛ばして、「どうです。意外な結末でしょ?」という話は怖いか恥ずかしくて書けないから、ではないでしょうか。
それだけに『リアル鬼ごっこ』をはじめて詠んだときのような「破壊力」を感じる作品であることも否めないのです。


fujipon.hatenadiary.com

この本で、あかほりさとるさんが書いていたことを思い出しました。
あかほりさんにとっての「ライトノベル」は、「擬音を使って、アニメや漫画を小説化すること」がスタートでした。

「具体的に言うと、ジャンプ物なら、車田正美先生の『リングにかけろ』や『聖闘士星矢』だな。先生の漫画だと、まず1ページ目で、主人公が”……何? ○○拳――ッ!!”って必殺技を繰り出すと、次の見開きページは文字だけが”ドュババババンッ!”となっていて。その次のページでは、すでに対戦相手がふっ飛んでる絵なんだよ。それをそのまま小説にするとどうなるかっていうとだな……」


「……何? ○○拳――――――ッ!」


 ドゥババババババババババババババババンッ!


 グワ―――――――ッ!


「これでいいんだよ!
 これが普通の小説だと、『”○○拳―――ッ!”主人公が拳をつき出した。その拳がゆっくりとスローモーションのように飛んでくるのが見える。しかし、相手はそれをかわしつつ新たな拳を繰り出す。主人公の顎にヒット。するどい痛みが主人公の顔面を貫いていく。倒れこむ主人公』……みたいな。これだと何文字も何行も書かなきゃいけないし、読むほうも文字いっぱいで読みたくないだろ?


なるほど!
これほど明快な「ライトノベルの書き方」というのは、いままで読んだことがありませんでした。
「こんなんでいいのかよ!」と思ってしまう一方で、「マンガ世代」にとっては、こちらのほうがダイナミックに「伝わる」のかもしれないな、という気もします。

この『ルビンの壷が割れた』は、「文字いっぱいで詠みたくない読者」や「伏線なんてややこしいものは求めていない読者」に、インパクトのある描写や言葉をぶつけてくる、ライトノベルをミステリっぽくした小説なんですよ。いや、最近のライトノベルのほうが、もっと、「文学的」です。

とにかく、読んでいて不快になるエピソードが、これでもか!と、次から次へと投げつけられる、「不快玉の猛吹雪」みたいな内容なんですよ。
よくぞここまで、惜しげも恥ずかしげもなく……と苦笑してしまいます。

ただ、こういう小説を読みやすい、面白い、眠る時間を惜しんで読んだ、という読者の声をみると、丁寧に伏線を張っていくよりもジェットコースター的なめまぐるしい展開のほうが、いま、小説を読んでもらうためには必要なのかな、という気もしてくるんですよね。『屍人荘の殺人』なんて、「そのトリック、ちょっとイメージするのに時間がかかるな……めんどくさいな……」って僕も感じていましたし。

僕は、面白いとか素晴らしいとは全く思わないのですが(正直、「なんで金払って、こんな、読者を不快にさせることにだけ徹底的に力を入れた雑な小説を読まなきゃならんのだ」とさえ思います)、「こういう作品がけっこう話題になって売れたのだ」という意味では、興味深い作品ではありますよね。



はるか

はるか

オタク成金

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イノセント・デイズ(新潮文庫)

イノセント・デイズ(新潮文庫)

  • 作者:早見和真
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/08/18
  • メディア: Kindle

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