琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】小説家になって億を稼ごう ☆☆☆☆

小説家になって億を稼ごう (新潮新書)

小説家になって億を稼ごう (新潮新書)


Kindle版もあります。

いま稼げる仕事はユーチューバー? 投資家? いや「小説家」をお忘れでは? ミリオンセラー・シリーズを多数持つ「年収億超え」作家が、デビュー作の売り込み方法から高額印税収入を得る秘訣まで奥の手を本気で公開。私小説でもライトノベルでも、全ジャンルに適用可能な、「富豪専業作家になれる方程式」とは? ここまで書いていいのか心配になるほどノウハウ満載、前代未聞、業界震撼、同業者驚愕の指南書!


 『万能鑑定士Q』『探偵の探偵』『催眠』『千里眼』シリーズなど、多数のベストセラーを生み、実際に「億」を稼いだ松岡圭祐さんが書いた本。

 この本の「あとがき」で、ライターの吉田大助さんが、こう書いておられます。

 松岡は日本推理作家協会70周年特別企画「嗜好と文化」のインタビュー(2016年2月更新)で、次のように語っていました。

 宝くじの高額当選者に対してみずほ銀行(昔の第一勧銀)が作った『その日から読む本』という小冊子を渡して、税金のことなどを教えている。あの作家版みたいなのがあれば本当に助かったと思いますよ。売れてうれしいけど、どの程度羽目を外していいのかわからない。開けば、翌年にドーンと地方税が来るぞと。そういうのもきちんと教えてくれるような本が必要ですよ。若い作家が江戸川乱歩賞など文学賞を受賞して賞金をもらっても、ワーッと騒いだ後どうなるのか、そのへんをきちんと書いた本がいりますよ。

 その五年越しの実現が、本書です。


 まさに「そういう本」なんですよ。
 この本には、松岡さんの「想造(創作)術」が、けっこう具体的に書かれており、読者としては大変興味深いのですが、じゃあ、自分が同じことをやったら書けるのか?と考えると、できそうな感じはしない。

 原稿を書くにあたり、小説の例文となる本を数冊用意しましょう。これは貴方が尊敬する作家の、特に文章表現に長けていると感心した本に限ります。世間の基準ではなく、貴方自身が決めてください。貴方が書きたい作品が時代小説なら、手本も時代小説にします。ライトノベルなら、手本もライトノベルにしましょう。
 手本の小説は文章表現の参考にするだけに留めます。どうしても似てきてしまうことはありますが、最初から意識的にセンテンスを引用するのはやめましょう。
 なお「プロの書いた小説を、そのまま書き写すトレーニングを積めば文章力が上がる」というのは俗説です。文章を組み立てる時には脳の前頭葉、とりわけ文法を考える時に前頭葉下部の働きが活発になりますが、書き写すだけの作業時には主に左脳が使われます。思考自体が異なるので意味がありません。単に何度も読み返したほうが、文章表現のコツはよほど身につきます。

 第一章でも書いたように、読書を楽しめるのは、ほぼ先天的と言える特殊な才能です。それは必ずしも書き手の才能とは一致しません。食通が料理人になれるわけではないのと同じです。
 もちろんなるべく読書はしたほうがいいのですが、小説家になるための勉強としては、なんでも手あたりしだいに読むのではなく、貴方が文章表現の手本に選んだ二、三冊を、繰り返し何度も読むのが適しています。何十回、何百回、それこそ先に何が書いてあるのかを、暗記してしまうぐらい読みましょう。


 これを読んで、森博嗣先生の話を思い出しました。

fujipon.hatenablog.com


『一個人』2008年10月号(KKベストセラーズ)の特集記事「2008年度上半期・人生、最高に面白い本」という記事のなかで、森先生はこんな話をされています。

 工学博士であり、なかでも建築が専門の森博嗣さんは、自らが設計した工作室兼書斎で一日の大半を過ごしている。もとはガレージだったというその場所には、車の代わりに鉄道模型や飛行機模型が所狭しと並び、本棚らしきものは見当たらない。
「基本的に再読はしないので読んだ本はとっておかないんです。だから、本棚もありません。雑誌には数十冊ほど目を通しますが、小説は年に3、4冊しか読めないんですよ。一冊読むのに2~3週間はかかりますから、書くのと同じくらいの時間がかかっていることになります」
 一度しか読まない代わりに、どのページに何が書いてあるかということが思い出せるくらい丹念に読む。繰り返し読むことはないのに、1日2時間で20ページほどしか進まないのだそうだ。
「だって、書いてある文章から世界を頭の中で構築しなくちゃいけないわけですから、すごく大変じゃないですか。むしろ、みんながどうして小説を早く読めるのかわからないですよ。僕は一度読んだストーリーは絶対忘れないし、自分の経験と同じくらい鮮明に覚えています。その点、頭の中にあることを書き留めるのは楽ですよね。小説を書くということは僕にとって頭の中の映像をメモするような感覚ですから」


(中略)


 再読はしない森さんが例外的に3回読んだのは埴谷雄高の『死霊』である。
「どうやったらこういうものが書けるのか、その才能が素晴らしいですね。これを読むと、刀が研がれるような、感覚が研ぎすまされるような、そんな気持ちになるんです。僕にとっては言葉を味わう詩集のような作品です」


 物語を楽しむ能力と、書く能力は必ずしも一致しないし、たくさんの本を読めば書けるようになるわけでもない、ということなんですね。
 もっとも、たくさん読む作家というのもいるわけで、結局のところ、成功の公式があるわけではない。
 「作品を完成させられる」「書き続けられる」というのが、「小説家」になるための、もっとも高いハードルなんだよなあ。


 まともな商品がないのに「うまい商売の仕方」を学んでもどうしようもない……

 もっとも、そういう反応は松岡さんにとっても想定内のはずです。
 やる前にあれこれ言い訳をしてばかりで、実際にやろうとしないから、書けないんだ、ということなのでしょう。
 黙って、誰かの真似でもいいから、まず書いてみなければはじまらない。
 だから、松岡さんは「自分のやりかた」を紹介しているのです。

 書ける人は、黙っていても、自分なりの方法で書いてしまう、それが創作というものではなかろうか。

 人生で、宝くじの高額当選者になれる人は、ごくわずかだと思います。
 『その日から読む本』が「役に立つ」人は、ほとんどいないはずです。
 でも、その本にどんなことが書かれているかは、僕も興味があるのです。
 そして、読んでみると、「こういうことが起こるのか」と、けっこう楽しめてしまう。

 編集者との付き合い方、「売れない(売れた)ときの心構え」、映像化をめぐるトラブルについての見解……
 松岡さんは「他人のせいにしない」し、基本的に、相手に過剰な期待をせず、人はそれぞれの立場で動くものだとみなしているのです。
 自分の権利はきちんと主張するけれど、相手を追い詰めるようなやり方は長い目でみれば損だし、編集者だって「良い作品を貰えて、それが売れる」のがベストなわけです。
 いまの時代、作家も「常識人」であったほうが、生き残りやすい。
 

「アルコールが入っているからこそ傑作が書ける」という理屈は、「飲酒したほうが頭が冴えて運転が巧くなる」という主張に似ています。実は細部の情報を省略しているため、楽に作業が行えるように錯覚しているだけです。
 小説の執筆には、クルマの運転のような危険は伴いませんが、不注意の頻度が増し、物事を深く考えられなくなるという点は共通しています。実は現在、億単位の年収を得る小説家に、酒豪は皆無と言えます。一滴も飲まない作家ばかりがトップクラスに君臨しています。貴方が小説を書くにあたり、完全に酒を断つ必要はありませんが、小説家とは頭脳そのものが唯一の商売道具だと認識しておくべきです。サッカー選手が足のセルフケアを欠かさないように、小説家たるもの常に脳をいたわっておきましょう。

 好調に数作の発売が続くと、今まで気づかなかった事実に気づきます。例えばネット上のレビューサイトです。レビュー件数は、おおまかにでも本の売り上げに比例していると考えがちですが、それが思いこみにすぎなかったと知ることになります。
 アニメやゲームに近い題材を扱った小説、SFやファンタジー小説は、発行部数が少なくてもレビューが増えます。倍の部数が刊行された歴史小説に対し、ファンタジー物のレビュー数は6倍に達していたりします。レビューサイトのユーザーの多くがスマホ世代だったり、パソコンの愛用者でアニメやゲーム好きだったりすることが影響しているようです。ライトノベルは全般的にレビュー数が伸びる傾向があります。
 五つ星の採点機能についても、たくさんの高評価に恵まれている場合、実は発行部数が少なかったりします。文庫で3万部あたりを基準にして、それ以下なら同好の士ばかりが集合し、誰もが称賛するという現象が起きますが、3万部より上であれば多様な読者が入ってくるため、低評価も交ざってきます。初版10万部の本は、レビュー上ではあまり高評価を得られませんが、売れ行きは好調ですぐに増刷がかかったりします。
 以前のアマゾンはレビューを書かなければ採点できなかったのですが、現在は採点のみを反映させられるようになりました。これによって新刊の採点者数が増加するとともに、評価の平均点も上昇する傾向がみられます。つまり批判的な感想を持つ人のほうがレビューを書くことが多いと考えられます。


 この本、「実用書の体裁をとった、『なろう小説』のベストセラー作家版」とも言えそうです。読んでいるあいだは、自分がベストセラー作家の卵のような気分になれる。
 「そんなに簡単に書けない、売れないから苦労しているんだ!」と言うのは野暮というもの、なのでしょう。

 「小説家というのは、人生でのネガティブな体験や鬱屈を武器にできて、一発逆転が狙える稀有な職業」というのは、たしかにそうだよなあ、と思いますし。

 最近は小説家も、ストイックな姿勢が求められ、「アスリート化」しているのも事実みたいですが。


探偵の探偵 (講談社文庫)

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死霊I (講談社文芸文庫)

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