Kindle版もあります。
千葉ロッテマリーンズの正捕手としてチームを2度の日本一に導いた里崎智也氏。
現在は解説者・スポーツコメンテーターとして数多くのテレビ・ラジオ・新聞のレギュラーを持つ傍ら、YouTubeチャンネル「Satozaki Chanel」は登録者数が47万人以上と、引退後も様々なフィールドで活躍している。
そんな里崎氏が結果を出すために心がけていたのは「人生の一丁目一番地を決めて行動する」というシンプルな思考法だった。
情報が溢れ、人生の選択肢が多様化する時代を生きる人々に向けて、流されないための「シンプル思考」を「お金」「趣味」「仕事」「言葉」「人間関係」「失敗」の6つの視点から説く
里崎智也さんのYouTubeチャンネル「Satozaki Chanel」は、僕もときどき観ています。
プロ野球選手のセカンドキャリアとしては、監督やコーチといった指導者になる、野球解説者やスカウト、広報など球団の職員として仕事をする、あるいは一般企業に就職したり、自ら飲食店などの事業をはじめるなど、さまざまなルートがあるのですが、里崎さんはYouTuberとしても成功をおさめているのです。
選手としての実績を考えれば、指導者として声がかかってもおかしくないと思うのですが、この本を読むと、里崎さんは、あえて新しい道を開拓しているということがわかります。
この本の冒頭には、こう書かれています。
僕が16年のプロ野球生活で稼いだお金は、だいたい13億円です。
千葉ロッテマリーンズに入団した際の契約金は、自分の手元に残っている分は今もまったく手をつけていませんし、一年目から定期預金の口座を開設しました。貯えは十分にある。おかげで、プロ野球選手を引退してからの僕の人生は安泰となりました。
最近、僕と同じ40代、早ければ30代で仕事をリタイアし、自分の好きなことに時間をついやす人が増えていると聞きます。きっと彼らも、その実現のために必死に働いたりして、質素だとしても仕事をせず生活をしていけるだけの資産を築けたのでしょう。
「里崎くらい稼げば、誰だってリタイアできるでしょ」
その通りです。ただし、ここで勘違いしてほそくないのは、プロ野球選手として成功したから大金を稼ぐことができたのではなく、お金のために生きてきたからこそ、金銭的に余裕のある暮らしを手にできた、ということです。
いきなり、フリーザ様の「私の戦闘力は53万です」かよ!と苦笑してしまいました(狙ってやっているような気はしますが)。
とはいえ、プロ野球選手になれる人なんてごく一握りだし、生涯に10億円以上の年俸をもらえるとなると、その中でも限られた人ですよね。
そう簡単に真似できるわけもない。
もっとも、里崎さんはそんなことは百も承知なのです。実際に「特別な才能もないし、そんなに稼ぐのは無理、という反応の人も多いだろう」とも仰っています。
でも、里崎さんと同じくらい、あるいはそれ以上に稼いだプロスポーツ選手が、その後の人生で、みんな里崎さんのようにお金に困らない生活をしているかというと、そんなことはないんですよね。
現役時代は宵越しの銭は持たないとばかりに豪快に遣いまくって貯金がほとんどなかったり、事業に失敗したり、信頼していた人に裏切られたりで、あんなに稼いでいたはずなのに、どうしてこうなった……というお金に不自由している元有名人、スポーツ選手は大勢います。
この本を読んでいて思うのは、里崎さんというのは、良くも悪くも「身も蓋もない人」だなあ、ということなんですよ。
堀江貴文さんや、ひろゆきさんと似たところがある。
合理的すぎて、これは真似できないな、と僕などは敬遠してしまうのです。
ロッテに入ったのも「当時のロッテの選手層なら、キャッチャーとして試合に出られる可能性が高いと思ったから」だそうです。
僕などは、贔屓のプロ野球チームの選手が、某金満球団にFA移籍するたびに、「所詮、カネかよ!」と憤ってしまうのですが、「ああ、カネだよ。同じことをやるんだったら、お金をたくさんもらえたほうが良いに決まっているだろ?」と正面切って言われてしまうと、言い返すのは難しいよなあ。
里崎さんはプロ野球のコーチになる気がないのは「給料が安い(年俸1000~2000万円くらいが相場)し、結果が出せなければ1年でクビになってもおかしくない不安定な立場だから」だと明言されています。
そう言い切れるのも、「お金と仕事に困っていないから」ではあるんですよね。経済的に余裕があるからこそ、仕事を選ぶことができる。
「Satozaki Channel」はプロ野球OBが運営するチャンネルのなかで異質だと言われます。かといって、奇をてらったことはなにひとつしていません。やりたい企画を遂行し、言いたいことを言う。これだけです。
ではなぜ、プロ野球OBのチャンネルでも異質な存在でいられるのか?
理由は簡単です。ほかは同じ企画が多いから。現役時代の昔話。ゲストも同じ人がいろんなチャンネルに出演していて、なおかつ話す内容も代わり映えしないため、視聴者の立場としては誰のチャンネルを観ればいいかわからない。
「じゃあ、里崎のように歯に衣着せぬ物言いをすればいいじゃないか」
僕は別に舌鋒鋭く話しているつもりはありませんが、多くのOBの方々はきっとそれができないんでしょう。なぜなら、将来的にプロ野球で指導者としてユニフォームを着たいから。各チームにとって悪いこと、あるいはネガティブに捉えられてしまうことが言えない。気持ちはわかりますけどね。
でも現実は、言いたいことを言って、やりたい仕事をしていても、現場に戻れる人は戻れます。巨人で一軍投手コーチをしている宮本和知さんやヘッドコーチの元木大介さんがなによりの好例じゃありませんか。
里崎さんは、「プロ野球の指導者になる気がない」ということを、自らの武器ととらえて、他のプロ野球OBが「こんなことを言ったら、関係者に嫌われるかな……」と恐れてできないことをやり続けているのです。
里崎さんの話を読んでいると、自分が持っているものが、より高く売れる場所、他者と差別化できる方法をつねに意識しているというのが伝わってくるのです。
「プロ野球選手のセカンドキャリアの最上位は監督やコーチになること」という先入観や「強いチームに入って、競争に勝ち抜いてレギュラーを目指すべき」という他者からみた「理想のアスリート像」へのこだわりを捨てることで、里崎さんは「自分の居場所」を確立しています。
この本で、里崎さんは「自分の目的をしっかり確認しておくこと」「それを実現するために要領良く振る舞うこと」を繰り返し語っておられます。
そして、こんなことも書かれているのです。
オリンピックで金メダルを獲得したアスリートには、勝てた要因についてこう述べている人が多いような気がします。
「世界一になるために、世界一の練習をしてきました」
僕はこの言葉に激しく同意します。苛酷な練習に耐えられるだけの体力や肉体を手に入れられるということは、すなわち多くの技術を習得できることでもあります。
先ほど書いた通り、僕自身も高校からウエートトレーニングを精力的にこなすことで打球の飛距離がアップし、プロへの扉を開くことができました。ロッテでも体力強化を最優先事項としたことで、結果的にバッティング技術も向上できました。守備に至っても、基本以前の構えから作り上げ、キャッチングなどの反復練習を繰り返すことでひとつずつ正しいスキルを習得していきました。
「努力の方向性が間違っていなかった」と前述しましたが、それをさらに言い換えれば「質の高い練習量をこなしてきた」と自負しています。
世間では考えなしに「量より質」と言う人がいます。実に耳障りです。
僕の経験上、この類いの理論を振りかざしている選手で、成功した人を見たことがありません。そういうことを平然と言う人は、楽をしたいだけか、結果を出せない自分に対する言い訳をしているだけなんだと思います。
(中略)
素質があり、将来性がある選手を「ダイヤの原石」なんて表現したりしますが、年々、そういった選手が本物のダイヤになるケースが少なくなっているような気がします。
素質があり、技術も高いけれど、体力がない。これが彼らの特徴です。
「量より質」ではなくて、「質も量も」じゃないと、レベルが高いところで頭角を現すのは難しい、ということなのでしょう。
里崎さん自身も、さりげなくではありますが、自らがやってきた(合理的で)キツイ練習についてところどころで触れています。
「自分はプロ野球選手じゃない、それどころか、特別な『強み』なんて持っていない」という人のほうが、むしろ、「刺さる」内容だと思います。
里崎さんは一流選手ではあったけれど、「名球会入りするほどの成績」でもなく、「コーチから監督になるのが既定路線」というほどのチームのレジェンドでもなかった。
でも、そういう「やや中途半端な存在」だからこそ輝ける「居場所」を探し、見つけることができているのです。
「ただ、やるべきことをやる」
それを意識せずにはいられない本でした。
まあ、わかっていても、それができる人って、そんなにいないんですけどね。僕もできないまま半世紀生きてきたことを思い知らされました。