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- 出版社/メーカー: 幻冬舎
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内容紹介
一軍を支え、一軍を目指すプロ野球の二軍。各チームに所属する約70名の「支配下登録選手」のうち、一軍登録された28名を除く最大42名の彼ら二軍選手は、どんな日々を送っているのか? 一軍の状況次第で急遽昇格することもあれば、二軍戦への出場機会ですら一軍選手に奪われることも。調整中のベテランと新人選手が入り交じり、「プロの厳しさ」を肉体的・精神的に学ぶ「二軍のリアル」を元メジャーリーガーの現役監督が解説。さらには、日米ファームチームの違いや二軍の試合の楽しみ方、監督ならではの苦労や裏話も満載。
プロ野球の世界には、テレビやラジオで中継され、スポーツニュースでも採りあげられる「一軍」だけでなく、一軍での活躍を目指す選手たちが所属する「二軍」があります(一部の球団は「三軍」も持っているのです)。
野球ファンであれば、贔屓のチームの「期待の二軍選手」くらいは把握しているかもしれませんが、
二軍というのは、球団のなかのどういう組織で、首脳陣はどういう意識を持って日々を過ごしているのか、というのは、なかなか伝わってきません。
この新書では、オリックスの現二軍監督である田口壮さんが、二軍の役割やスタッフの仕事ぶり、どういうことを考えて選手を指導しているのか、などを語っています。
プロ野球の「監督」といえば、全権を背負い、チームという世界を動かしているトップの人間というイメージがあります。しかし「全権掌握」がすなわち「独裁」ではなく、監督はあくまでもチームの一員として、全体の意見や方向性を鑑みながら意思決定していく立場のひとりです。
そんな中でも一軍監督はその方の持ち味なり、野球観をチーム作りに反映させていきますが、これが二軍となれば、仕事の核は「一軍の方向性を選手に浸透させる」「一軍と二軍の意思疎通を円滑にする」「一軍の戦力になる選手を育て、供給する」の3点となり、自分の意思・意見でチームの方向性を決める、ということはほぼありません。
僕は大学を卒業してそのままプロの世界に入ったため、サラリーマンの経験はありませんが、一般企業で働く友人たちの話から見えてくる「中間管理職」という立場が、もしかしたら二軍監督に一番近いものかなと想像しています。
二軍というのは、目の前の試合の勝利よりも、一軍で活躍できる選手の育成や調整を優先させる組織なのです。
とはいえ、「負けてもいいや」という意識で試合をするのではトレーニングとしての効果も落ちてしまうので、勝つことやチームプレーへの意識を保ちつつ、一軍のための組織運用をしていく、という難しさがあるのです。
田口さんはアメリカのメジャーリーグでも活躍してきましたし、キャリアの中で、マイナー落ちも経験されています。
日本のプロ野球選手の一軍と二軍に比べると、アメリカのメジャーリーガーとマイナーリーグの所属選手の「格差」の大きさには驚かされます。
メジャーリーグでは、クラブハウスに専用のコックがいて、ホームでの試合後には前菜からメイン、デザートまで用意されており、2016年までは、遠征先でも「ミールマネー」という食事代が1日1万円支給されていたそうです(2017年からは3000円に減額)。
ちなみに、日本のプロ野球チームの公式戦では、遠征先ではホテルに食事が用意されていますが、ホームゲームでは食事は出ないのだそうです。
これは、日本では「家に帰って食べたい」という選手が多いからなのだとか。
アメリカの場合は「食事の準備の負担を減らし、ホームゲームの日は家族で過ごす時間を増やす」という目的もあるのです。
家での食事の準備や一緒に食事をする時間を含めて「家族で過ごす時間」と解釈するのか、「それは家事労働を増やすことで、一家団欒にとってはマイナス面が大きい」と考えるのか、日米の考え方の違いがあらわれています。
この、至れり尽くせりのメジャーリーグに比べて、マイナーリーグはこんな感じだそうです。
しかし、マイナーはどうでしょう。基本的に試合後の食事は用意されていますが、質と量が、どんどん落ちていきます。もう栄養価なんておかまいなし。たとえば僕が所属していた2Aでは、試合前の練習を終えたあとに、ロッカールームに人数分のハンバーガーがどっかり置かれ、フライドポテトがざっと大きなトレイにあけられているというような状況でした。まだ十分食べ盛りと言ってもいいような若い選手たちがそこに群がるため、僕が道具の手入れをしてゆっくり戻ったときには、ハンバーガーはすべて消え、フライドポテトの端っこのカリカリした部分だけが寂しげに残っている、というような有様。端っこ、嫌いじゃないですが、それだけでは悲しいものです。
キャンプのときは、「マイナー」はすべてひとくくりです。最下部組織のルーキーリーグも3Aも関係なく、昼食のときにポンと渡される茶色の紙袋に入ったサンドイッチとバナナやリンゴ、飲みもの1本(もしくは牛乳に溶かして飲むタイプの粉など)が食事のすべてです。メジャーの暮らしをまったく知らなければまだ我慢できるのでしょうが、一度その世界を知ってしまうと、この「紙袋ひとつ」に泣けてきます。僕がこういった経験をしたときはすでに30歳を過ぎていましたので、10代の若者と一緒に「食事」を受け取るときのむなしさといったらありませんでした。
日本では、二軍の選手も寮で質量ともに十分な食事を提供されています。
身体作りの一環として、食事もきちんと管理して、育成していく、という方針なのです。
こういうのを読むと「厳しい環境のなかで、這い上がってきた者を優遇する」というアメリカとは考え方が違うのだなあ、と思い知らされます。
田口さんは、多くの二軍の選手に欠けているものとして、試合に対しての「集中力」を挙げておられます。
たとえば試合中、その流れを見極め、「今日は自分がどの場面で、どんな役割を担うか」ということを想像し、準備しておくのは、プロ選手にとって最低限必要なことです。にもかかわらず、一人前になりきれていない選手には、自分がいつ代打で登場するかと読むことができず準備が間に合わなかったり、代走で出るはずの状況なのに、なぜか素振りをしていたり、といった「試合の流れを読み切れていない」ということが起こるのです。こういった試合への集中力のなさは、出場した際のミスにつながります。それも、ゲームを決定的にひっくり返すようなとんでもないミスになるのです。野球の技術うんぬんの前に、こういった「試合に対する集中力」を養うために、二軍の選手は昇格・降格を繰り返し、その大切さを学んでいくのです。
どの球団にも「二軍では大活躍するのに、一軍に上がると結果を出せない選手」っていますよね。
そういう選手は、技術というより、こういう「試合に対する大局観」みたいなものが養えていないのかもしれません。
こういうのって、野球だけじゃないよなあ、と考えさせられました。
1969年生れの田口さんが、自分の子供くらいの選手たちに対して、感覚の違いを意識しながら「指導」することの難しさ(「理由なんて聞かずに、とにかくやれ!」みたいなのは、今ではまったく通用しないのです)や、中間管理職でありながらも、田口さんの「出勤・退勤時間」に周囲のスタッフが合わせてしまうことへの困惑などが率直に語られていて、「現役の二軍監督なのに、ここまで手の内を明かしても良いのだろうか?」と思いながら読みました。
もちろん、個々の選手やスタッフの悪口や批判を書いた「暴露本」じゃないですけど。
fujipon.hatenadiary.com
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メジャーリーガーの女房 ヨメだけが知る田口壮の挑戦、その舞台裏 (マイナビ新書)
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