琥珀色の戯言

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【読書感想】栞と嘘の季節 ☆☆☆☆


ベストセラー『本と鍵の季節』(図書委員シリーズ)待望の続編!
直木賞受賞第一作

猛毒の栞をめぐる、幾重もの嘘。

高校で図書委員を務める堀川次郎と松倉詩門。
ある放課後、図書室の返却本の中に押し花の栞が挟まっているのに気づく。
小さくかわいらしいその花は――猛毒のトリカブトだった。
持ち主を捜す中で、ふたりは校舎裏でトリカブトが栽培されているのを発見する。
そして、ついに男性教師が中毒で救急搬送されてしまった。
誰が教師を殺そうとしたのか。次は誰が狙われるのか……。


 『黒牢城』で、ついに直木賞を受賞した米沢穂信さんの「図書委員シリーズ」第2弾。

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 この『本と鍵の季節』から、もう4年も経っているんですね。
 『本と鍵の季節』の感想で、僕はこう書いていたのです(書いた本人も、作品の内容も含めて、ほとんど忘れていたのですが)。

 個人的には、この作品は、続きはないほうが良いのではないか、と思います。
 面白くないから、というわけではなくて、この終わり以上の「読者へのバトンの渡し方」はないと思うので。


 2作目となる、この『栞と嘘の季節』は、主人公の堀川次郎と松倉詩門の2人の「信頼と腹の探り合いのあいだ」という感じの関係の不安さ、不穏さに惹きつけられつつ読みました。
 今回は、その2人に、芸能人だと思われるような人目を引く同級生女子、瀬野さんが加わります。
 前作が6篇の短編小説で、読み終えると個々の短編が繋がってくる、という構造だったのに対して、今回はひとつの長編になっているのです。

 ほとんどが、登場人物たちが通っている学校という狭い世界での出来事であり、人が大勢死んだり、難解な密室トリックが出てきたりするわけではないので、これは「ミステリ」というより「青春小説」なのではないか、という気もするのです。
 探偵役の「灰色の脳細胞」が事件を解決するのではなく、会話の中で、誰かがふと口にした言葉や状況の積み重ねを丹念に検証していくことによって、「答え」に辿り着いていくプロセスは、もどかしくも面白いんですよね。

 その一方で、もう登場人物の親世代の僕の感覚としては、「とはいえ、そんなめんどくさい方法で『武器』を手に入れようとしなくても、インターネットを検索していけば、もっと容赦なくて入手法も使い方も簡単なやつがたくさんあるのに、とか、本当に危機意識があるのなら、これは「警察案件」ではないのか、とも思ったのです。

 登場人物が知っていることを隠しているのも、やたらと演技じみた行動をとるのも、「解決篇」が、なんだか唐突で、かつ、詳しい事情も状況も語られないまま読者が放り出されてしまうのも、正直、スッキリしません。
 いや、これは「スッキリさせないことを指向している作品なんだ」ということはわかるのです。若者というのが、大人にとってはよくわからない、あるいは、納得しかねるような「こだわり」にとらわれて行動してしまう、というのも。

 登場人物たちの会話(『銀河英雄伝説』の「陰険漫才」的な)を受け入れられるか、楽しめるかどうかが、この作品を好きになれるかどうかの分水嶺ではないでしょうか。少なくとも「あっと驚くどんでん返し」みたいなものを期待して読むと、「濃度が低いミステリ」になってしまうのではなかろうか。
 僕自身は、「登場人物とその会話に、やたらと沈鬱で深刻だった自分の学生時代を思い出したので☆4つ」でした。
 現実を生きている人間に「解決篇」なんて存在しない、というのは事実だし、「行間を埋めるのも読書の楽しみ」ではありますよね。
 ただ、この作品には、ミステリとしては、長さの割にスカスカおせち感はありました。うまくまとまらなかったのを「余韻」だと勘違いさせているような。まとまればいい、ってものでもないのだろうけど。


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