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【読書感想】スマホ料金はなぜ高いのか ☆☆☆

スマホ料金はなぜ高いのか (新潮新書)

スマホ料金はなぜ高いのか (新潮新書)

  • 作者:山田 明
  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: 新書


Kindle版もあります。

官房長官が「スマホ料金4割値下げ」をぶちあげてから早や2年。5G対応や急増するテレワークなど通信インフラ大変革の時にあって、日本の通信料金は高止まりしたままだ。背景には、NTTはじめ大手3社による寡占市場、歪んだ料金体系と収益構造、官民の馴れ合い体質がある。誰が悪いのか、何が改革を邪魔しているのか――通信業界に長年身を置いた著者が全てを明かす。


 日本の通信料金は高すぎる、という話はよく耳にしますし、「いつまでも大手3社(NTT、KDDIソフトバンク)の携帯電話を使っているなんて情弱(情報弱者)!」なんてことを言う人もネットにはけっこういますよね。
 僕自身は、携帯電話を持つようになってから、ずっとドコモのユーザーなのですが、ドコモのサービスが素晴らしい、というよりは、他の携帯電話会社に移るのも、なんだかめんどくさいな、というのが理由ではあるのです。
 いま、大手3社を使っている人の多くが、そんな感じなのではなかろうか。
 
 著者は、長年通信業界に身を置き、総務省から大手通信会社の社外取締役まで務めた方だそうです。
 読んだ印象としては、さすがに業界の内情に詳しいなあ、というのが半分、個人的な思い込みや人に対する好き嫌い、不快だった経験に基づくところが多くて、「なぜ高いのか?」の説明としてはスッキリしないなあ、というのが半分、という感じです。
 「サムライ経営者」がいないのが日本の大企業の問題点、って言うけれども、その「サムライ経営者」っていうのがどんな人なのか、よくわからない。

 著者は、2018年の夏に菅義偉官房長官が札幌市での講演で、携帯電話の利用料金が「今より4割程度下げる余地がある」と発言したことを冒頭で採りあげ、その後の携帯料金の変化について解説しています。


 日本の携帯料金は本当に海外に比べて高いのかどうか?については、(1)家計支出に占める電話料金の割合、(2)料金水準そのものの比較、が紹介されていますが、MCAという庁舎会社による「電気通信サービスに係る内外価格差調査」では、大手3社でのシェアが最も高い事業者のプランでは、東京は割高になっています。とくに多くの一般ユーザーが利用する5GBモデルでは、東京の価格を5割以上も引き下げて、ようやく諸外国並みの水準になるそうです。
 さらに、東京の価格は「通話5分以内無制限」プランのものですが、諸外国の多くでは「通話・SMS無制限」プランが採用されていることが多いのだとか。
 また、2018年10月のSankeiBizの記事によると、2014年に東京よりもはるかにスマホ料金が高かったニューヨークとデュッセルドルフが、3年間で6~7割も値下げしており、他都市でもすべて大幅に値下げされているにもかかわらず、東京だけが高止まりしているのです。

 さらに、端末代金の通信料からの割引で、端末代金を払い終わって通信料金が安くなるかと思いきや、割引が終了してしまって毎月の携帯通話料金は変わらない、という「同じ機種を使い続けている人に負担を強いる(あるいは、頻繁に機種変更したほうが得)な仕組みも長年続いていたのです。

 日本の携帯電話大手3社は、既得権を利用して、顧客にとっては割高な料金体系を、ずっと続けてきたのです。
 2000年代の前半くらいは、日本の通信料は、世界のなかでも最も割安だったそうなのですが、大手の寡占によって競争原理が働きにくい業界でもあり、ずっと企業側にとって高収益な状況が守られてきました。

 以下、NTTが公開しているセグメント情報をもとに経営実態を分析してみよう。
 1999年末に固定電話と移動電話の契約数が逆転した後、携帯電話は急激に契約数を伸ばし、2017年度末の加入数は1億7357万となった。一方、固定電話は携帯電話に逆転されてから減少の一途を辿り、同年度末の契約数は2135万で携帯電話の8分の1以下にまで落ち込んでいる。
 この固定、携帯の契約数の変化は売上構成に表れており、2012年度以降のドコモの売上はNTTグループ全体の約40%前後で推移している。ドコモに続く売上を計上しているのは東西会社(NTT東日本NTT西日本)で、約30%程度で推移している。両者合計で売上の70%を占め、NTTは寡占事業と独立事業が中心の会社であることが分かる。

 次にグループの利益構成である。ドコモの利益は全体のほぼ60%で推移しており、売上が40%であることに比べると、利益面でのドコモ依存度は極めて高い。2018年度ではグループの利益1兆6938億円に対し、ドコモの経常利益は1兆136億円で59.8%。ドコモがグループ経営の大黒柱であることは一目瞭然だ。
 では、この事実は何を意味するだろうか。携帯料金大幅値下げでドコモの利益が急減すれば、グループ全体の利益も急減するため、NTTの経営が成り立たなくなる可能性がある。それゆえ、ドコモの携帯料金は簡単には下げられないのだ。
 しかもドコモは親会社であるNTTと同様に証券取引所に上場(いわゆる親子上場)しているから、両社はそれぞれ株主に対して利益を計上する責任がある。特に親会社NTTは、子会社ドコモからの利益をグループ企業全体で活用しているため、料金値下げに応じるのは簡単ではないだろう。


 ちなみに、NTTグループで2番目に利益をあげているのは、地域通信事業を独占する東西会社です。
 著者によると、1999年のNTTグループ再編時、東西会社は余剰人員の受け皿、ドコモは誰も社員が行きたがらない赤字会社だと揶揄されていたそうです。未来というのは、予想通りにはいかないものですね、本当に。
 東西会社に関しては、社員の高齢化がすすんでおり、社員数の自然減で人件費が削減されていることも大きいのだとか。
「余剰人員の受け皿」だったことが、業績的には幸いしたのです。


 事情としては、KDDIソフトバンクも似たようなもので、携帯電話の通信料金が会社の屋台骨を支えている現状で、そう簡単には値下げできそうにはありません。
 どこかが率先して「値下げ競争」を仕掛けてくれば、他者も追随せざるをえないでしょうけど、3社それぞれのシェアが安定し、3社の通信網を利用して格安スマホを運営している、MVNO仮想移動体通信事業者 / Mobile Virtual Network Operator)もなかなか浸透しない日本では、「暗黙の談合」的に大手が料金を高止まりさせているともいえます。


 それこそ、官房長官の発言のように「政府主導」でもないと、料金値下げは難しそうです。
 最近では、楽天が携帯通信業界に参入してきていますが、通信インフラの整備など、まだ大手3社とは大きな差があります。

 楽天がこれからの「5G」時代に目指しているものは、単なる携帯通信業者としてのシェア獲得だけではなさそうです。

 4G時代の進化は、携帯会社のビジネスモデルにも変化を迫る。2G、3Gの時代には通信品質が重視され、どこでもつながるか、安心して使えるか、が携帯会社を選ぶ上で重要であった。しかし4Gの時代も終盤を迎えると、3社とも品質は向上し、ユーザの評価基準は、面白い動画やコンテンツが見られるか、ポイントが付くか、など通信とは関係のないところにシフトしている。言い換えると携帯サービスは、単純な通信サービスから、携帯通信とEC、金融、決済などが組み合わされた融合サービスへと移行しつつある。
 このため、大手3社はネットフリックスやアマゾンなど動画配信会社や、ネット通販やポイントを管理する会社、オンライン決済銀行などとの連携の動きを加速している。楽天もサービス融合を志向している点は同じだ。大手3社との違いは、自ら築いてきた楽天市場などのEC事業や金融・保険事業、スポーツ事業などから成る「楽天経済圏」が既に存在しており、楽天は「楽天経済圏」の成長を加速させるために、楽天モバイルを活用しようと考えているのではないか。
 このように、4Gの時代の終盤になると、ユーザニーズの変化に対応する形で、携帯会社は新しいビジネスモデルを創造しようとしている。それは携帯会社が長年親しんだ携帯の通信サービスにより収益を上げるモデルから、携帯通信と多分野の連携により収益を上げるモデルへの移行であり、携帯ビジネスに地殻変動が発生していると言えるだろう。そこに空気を読まない楽天が参入し、5Gの時代がスタートする。携帯各社は新しいビジネスモデルの中に、5Gの新サービスを取り込むという複雑な作業に直面している。


 楽天が最終的に目指しているのは、通信業界でのシェアを広げることではなく、楽天スマホを自社のさまざまなサービスへの入口にすることなのだと思われます。
 大手3社も、ドコモのdカードとか、ソフトバンクスマホとPayPayの連携など、「自社の携帯電話から、顧客を自社関連のサービスに連れてくる」ことを意識しているのです。

 もしかしたら、近い将来、AmazonKindleでやっているように、「無料または安価な端末で通信料金も無料だけれど、その会社のサービスを使うことを前提としたスマホ」が当たり前の時代になるかもしれません。

 実際のところ、MVNOに抵抗がなければ、日本の通信料金もそんなに高くはない、とも言えるのですけどね。


スマホを落としただけなのに

スマホを落としただけなのに

  • 発売日: 2019/04/17
  • メディア: Prime Video

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