琥珀色の戯言

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【読書感想】Who You Are(フーユーアー)君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
偉大な文化があっても、偉大なチームをつくれるわけじゃない。プロダクトがダメなら、文化が優れていても企業は失敗する。それでも文化を気にすべきなのは、人間の記憶に残るのは会社の業績でもなく、時にはプロダクトでもなく、会社の気風や気質だからだ。そこからみんなの目的意識が生まれる。資金ショートや株価急落、度重なるレイオフなど死の淵から生き延びた著者が、18年かけてたどりついたビジネスで最重要の本質的なテーマを取り上げる。


 著者のベン・ホロウィッツさんは、ベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)の共同創業者兼ゼネラル・パートナーで、ニューヨーク・タイムズのベストセラー『HARD THINGS』(日経BP)の著者でもあります。
『HARD THINGS』、僕は5年前くらいに読んだことをすっかり忘れていて、いきなりこの『WHO YOU ARE』から読んでも大丈夫かなあ、なんて思いつつ読み始めたのです。


fujipon.hatenadiary.com


 著者が、この『WHO YOU ARE』で採り上げているのは、「『企業文化』のつくりかた」なのです。
 「企業文化」という言葉はしばしば耳にしますが、実際にそこにあるのは、「一日一善」とか「お父さん、お母さんを大切にしよう」というような、あるいは、相田みつをさんの色紙の言葉のような、「標語」的なものが多いような気がします。

 私が生まれてはじめて立ち上げた会社が、ラウドクラウドだ。起業したときには、CEO(最高経験責任者)や業界の大物にアドバイスを乞いにいった。みんなが異口同音に教えてくれたことがある。
「企業文化に気をつけろ。なによりも文化が重要だ」
 だが、業界の大物たちに「企業文化って具体的には何のことですか? どうやってつくればいいんですか?」と聞いてみると、どうもあやふやな答えしか返ってこない。その答えを見つけるのに、それから18年も費やすことになってしまった。企業文化とは、職場に犬を連れてきていいとか、休憩室でヨガができるってことなのか? いや、違うはずだ。そんなのはただの福利厚生だろう。企業の理念のこと? いや、企業理念とは単なる志に過ぎない。では、経営者の性格と志向のことだろうか? もちろんそれが企業文化の土台にはなるだろうが、企業文化そのものではない。


(中略)


 もっと深く掘り下げてみないと、企業文化がどうつくられるのかを本当に理解することはできない。そこで、自問してみることにした。次の質問の中で、表向きの企業目標やミッションといったもので解決できるものは、いくつあるだろう?


・この電話は、今日折り返したほうがいいほど緊急なものなのか? 明日まで待っても大丈夫か?
・人事評価的に昇給を求めてもいいだろうか?
・この資料は外に出せる品質か? それとももう少し手を入れたほうがいいのか?
・このミーティングに遅れてもいいのか?
・格安ホテルに泊まるべきか? それとも超高級ホテルに泊まってもいいのか?
・この契約の交渉で、重要なのはどちらだろう? 価格か、それとも両社の提携関係か?
・同僚の間違いを指摘すべきか? うまく行っている点を褒めるべきか?
・5時に帰宅していいか? それとも8時まで会社にいるべきか?
・ライバル会社について、どのくらい必死に研究すればいいのだろう?
・新製品の色味の話し合いを5分で終えていいのか? 30時間かけたほうがいいのか?
・自分の会社の中で何かとてもまずいことを見つけたら、報告すべきだろうか? 誰に話したらいいのだろう?
・勝つことは倫理より大事なのか?


 答えられる質問は、ゼロだ。
 こうした質問に、「正しい答え」はないからだ。「正しい答え」は会社によって違う。その会社の今の姿、その行動、これからなりたい姿によって答えは変わってくる。つまるところ、社員がこれらの質問にどう答えるかが、その企業の文化なのだ。トップがいないところで、人々がどんな判断をするかこそが、企業文化というものだ。社員が日々の問題解決に使う一連の前提が、企業文化だ。誰も見ていないときにどう行動するかが、企業文化なのだ。


 著者は、「アップルの文化は、アマゾンでは絶対に通用しない」とも述べています。それは、どちらかが優れているという話ではなくて、アップルでは「世界一のデザイン」を生むことが優先され、アマゾンでは「コストを下げて、他者よりも安く商品を提供すること」を重視しているからです。
 企業文化は、常に同じではなくて、時代の変化や企業が大きくなることによって、移り変わっていくべきものでもあるのです。

 著者は、この「企業文化」についての考え方を、現代の企業ではなく、歴史上のリーダーや日本の侍の心得を書いた『葉隠』を用いながら説明していくのです。
 出てくる人物のなかには、チンギス・ハンのような世界を征服した人物や、「西欧の歴史上唯一成功した奴隷の反乱」であるハイチ革命を指揮したトゥーサン・ルーベルチュール、殺人罪でミシガン刑務所に入り、ギャング団のリーダーになったあと、刑務所内で思索を続けた末に、出所後、新たなコミュニティをつくりあげたシャカ・サンゴールという人がいます。
 殺人罪で服役していたギャング団のリーダーが、なぜベンチャーキャピタルの経営者とつながりを持つことになったのか?
 いや、その人物の「前科」にこだわらず、自分が世界を知るために必要な話には耳を傾ける、というのが、著者の「企業文化」だということなのでしょう。


 著者は、「企業文化をつくるのは、理念を唱えることではなくて行動や実践の積み重ねである」と繰り返しているのです。

 武士道は一見、一連の哲学のように見えるが、むしろ実践の積み重ねだ。侍にとって、文化は行動規範だった。つまり、価値観ではなく徳(善い行い)の体系が文化だったのだ。価値観は単なる信条だが、徳とは人間が努力し体現する行動だ。いわゆる「企業理念」に意味がないのは、それが行動ではなく信条しか表していないからだ。文化を築くにあたって、あながた何を信じているかはどうでもいい。あなたが何をするかに意味がある。


「武士の4誓願」もまた、行動を説くものだ。


一、武士道に於いておくれ取り申すまじきこと(武士道を誰よりも率先して実践しなければならない)

一、主君の御用に立つべきこと(主君に忠誠を尽くさなければならない)

一、親に孝行仕えるべきこと(敬意をもって両親に孝行しなければならない)

一、大慈悲を起し人の為になるべきこと(思いやりの心で他人を助けなければならない)


 武士の知恵をまとめた最も有名な武士道の著である『葉隠』では、こう教えている。
「剛臆と言う物は平生当りて見ては当らす。別段に有物也」(勇気があるか臆病かは平時にはわからない。何かが起きたときにすべてが明らかになる)


 たしかに、ここに挙げられているのは「実際にどう行動するか」であって、「心の持ちよう」ではないのです。
 この本を読んでいると、「内心」というのは、その人を評価するための信頼できる指標にはならない、と痛感させられるのです。
 そもそも、他人の「内心」をどう評価するかというのは、こちら側の好悪の感情や先入観に左右されやすいのです。

 スラックの共同創業者でCEOのスチュワート・バターフィールドは、求める社員像を企業文化に合わせたところ、社内の状況が劇的に改善しはじめたと語っていた。

 僕たちの企業理念はすごく独特で、たとえば遊び心とか団結心といったことも入っていたが、行動を促すものではなかった。そこで、社員の意思決定を助けるような何かを入れたいと思っていた。
 その時、アドロールのセールス部門のトップだったスレッシュ・カーナとの会話を思い出したんだ。彼の言ったあることが、ずっと頭に引っかかってた。採用では、賢くて謙虚で勤勉で協力的な人を探すと言っていた。
 僕たちに必要なのも、そんな人たちだ。この4つの組み合わせが特に大切なんだ。2つだけだと悲惨なことになりかねない。賢くて勤勉でも、傲慢で人と協力できなければ、ただのいやな奴でしかないし、採用したくない。謙虚で強力的でも、賢くもなく勤勉でもなければ、やはりダメだろう。そういうタイプはよくいるが、やはり採用したくない。
 彼の教えてくれた理想の社員像または候補者像の基準は、僕たちがつくった基準よりはるかに測りやすかった。遊び心や団結心は面接では測れない。僕はこの4つの要素を求めることにした。


 たしかに、「賢くて謙虚で勤勉で協力的な人」と、一緒に仕事をしたいというのはわかります。
 とはいえ、この4つを併せ持つ人というのは、そんなに多くはないですよね。
 でも、そこで妥協しないことが、企業文化をつくっていくのでしょう。
 そこにいる人がどういう人であるか、というのは、まさに「企業文化を体現している」のです。

 大小にかかわらず、なんらかの組織でリーダーとしてふるまう立場にある人は、一度は読んでおいて損はない本だと思います。
 きれいごとだけではなくて、「効果的な見せしめについて」書いてある章もあるんですよ、この本には。


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