琥珀色の戯言

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神様のカルテ ☆☆☆



あらすじ: 自然あふれる長野・松本の本庄病院で、内科医として働く栗原一止(櫻井翔)。24時間365日体制で医師不足の問題を抱える病院で、前向きな職員たちと共に診療をこなす一止にとって、最愛の妻・榛名(宮崎あおい)らと語らうことが日々の楽しみだった。そんなある日、一止はある患者と出会い、人生の岐路に立つこととなり……。

映画『神様のカルテ』公式サイト


2011年22作目の劇場鑑賞作品。
9月1日のレイトショーで、1000円均一だったためか、観客は30人くらいとなかなかの盛況でした。
外は、けっこう激しい雨だったんですけどね。

現役医師・夏川草介さんの大ヒット小説が原作のこの映画、ネットでの前評判は賛否両論というか、やや「否」が多いかな、という印象でした。
僕は原作にちょっと恨みもあるので、「怖いものみたさ」というか、「あら探し」気分で観に行ったことをあらかじめ書いておきます。


観終えての感想。
「ああ、こんな病院で研修したくない……」

いやほんと、この『神様のカルテ』の「デスマーチ礼賛」っぷりには、観ていて気が滅入ります。

 栗原先生、末期がんの患者さんの緩和医療のために、一週間も病院に泊まり込んでおられたんですね……

 (他の末期がんの患者さんのために)ごめん、しばらく病院に泊まることになると思う……

 この病院、待合室は患者で溢れているのに、当直医は医師と研修医のふたりだけ。
 そのうえ、心肺停止の救急車とか引き受けてるし……

 死ぬよ(あるいは、殺すよ)、栗原先生……

 こういう映画を観て「感動」させられてしまった人たちのなかには、おそらく「自分の主治医は、一晩も病院に泊まり込んでお世話をしてくれない。なんて冷たい人なんだ!医者失格!!」とか思う人が出てくると予想されます。


 実際「緩和医療」を一週間泊まり込みでやる意味というのは、それによって失われる医者やスタッフの気力体力を考えると、ほとんど皆無に等しいというのに。


 僕だって、もちろん病院に泊まり込むこともあるけれども、それは、「助かるかどうかの瀬戸際の患者さん」もしくは「今夜にも心臓が止まってしまいそうな患者さん」の場合です。

 
「とにかく病院に寝泊まりして、ボロボロになっている姿を見せれば喜ばれる」なんていうのは、医療ではありません。


 特定の患者さんに入れ込むっていうことは、他の患者さんに対する時間が減るってことですしね。
 しかも、あの人だけ「特別扱い」しても、他の患者さんは納得できないはず。
 みんな、映画のスクリーンだと「感動的なシーン」に涙を流すけれど、現実だったら、「なんであの人だけ、あんなに良くしてもらえるんですか? 私にも同じようにしてよ」って言うと思います。


 あと、「大学病院に見捨てられた患者さんのエピソード」っていうのも酷い。
 主人公を地域医療の「神様」にする必要があったからなのでしょうが、あの患者さんの場合は、手術できなくても、抗がん剤治療するだろ普通……
 「研修に来た他の病院の医者」に、いきなり外来をさせる大学病院、内視鏡検査を一度みただけで、初対面の医者に惚れ込む世界的権威の教授……

 栗原先生、ほんと、あの病院が好きなら無理には止めないけど、若いうちに一度は大学病院みたいなところで勉強してみたほうがいいと思うよ。


 さて、医療関係の描写への愚痴はこのくらいにして。あとは作品そのものの話を。
 いろいろ言われていた櫻井翔さんの栗原一止なのですが、僕はとりあえず「可もなく不可もなく」です。
 キャスティングを聞いたときは、櫻井さんより二宮さんのほうが良いのでは、と感じたのですが、原作に比べると、髪型以外は普通の人っぽい。
 というか、原作を読んでいたときには、ちょっとイライラしたあの「モリミー風トーク」なのですが、あのクセのある文体がないと、『神様のカルテ』って、本当に「お涙頂戴の2世代くらい前の医療ドラマ」でしかないんですね。
 あと、あの泣くシーンは、「えっ、そんな泣きかたするの?」って感じです。


 宮崎あおいさんは、やっぱり良いなあ、と思う一方で、こういう「いかにも宮崎あおいがやりそうな役」ばっかり最近はやっているなあ、という気もするんですよね。
 CMですごく印象的な「ばんざーい! ばんざーい!」のシーンは、松谷卓さんの音楽のおかげもあって、「観客を泣かせたいムード満点」なんですが、原作では比較的丁寧に描かれていた「文士殿」、この映画のなかでは「単なるひねくれた理屈っぽい感じ悪いオッサン」でしかなかったのに、いきなり「ばんざーい!」とか、泣きながらされてもなあ……
 観客が感情移入できるようなお膳立てを映画のなかでは怠ったまま、原作中の「名場面」だけを再現しようとされても、置いていかれたような気分になるだけです。
 この映画、説明的な台詞が多いわりに、なぜか急に「急性閉塞性化膿性胆管炎」を英語の略語(AOSC)と言わせてみたりしているし、どうもディテールの造り込みが甘い。
 それを音楽と宮崎あおいと信州の風景で誤摩化そうとすればするほど、「結局、人が死ぬ話なら、みんな感動するんだろ?みんなが嫌いな『大学病院』や『偉そうな医者』もちゃんと叩いておいてやるから、しっかり泣いてくれよ」という作り手の魂胆が浮き彫りにされてきます。

 しかし、この映画のモデルになった病院、本当に酷い職場環境だなあ。
 たぶん、いろんな「地方の中核病院」の現状って、こんなものなのだろうな、とは思うけど。
 栗原先生の献身っぷりに感動するよりも、こんな「スーパーマン医師」がいないと地方の医療、とくに救急医療が成り立っていかないという現実に怖さを感じてくれる人がひとりでも多くいることを、僕は願ってやみません。

 それにしてもこれ「医療ドラマ」としては、やっぱり「古い」よね。
 これを観る時間があれば、『ディア・ドクター』をDVDで観てほしいなあ。
 櫻井くんも宮崎あおいも出てなくて、主役は鶴瓶さんだけど、だからこそ、良い映画なんですよ、もちろん、あれはあれで言いたいところもありますが。


参考リンク:映画『ディア・ドクター』感想(琥珀色の戯言)

ディア・ドクター [DVD]

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