琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

「患者さんを見捨てて逃げた」というのは誤報です。

参考リンク:福島・双葉病院「患者置き去り」報道の悪意。医師・患者は患者を見捨てたりしていなかった - 絵文録ことのは - BLOGOS(ブロゴス) - livedoor ニュース

この「医師・職員が患者を見捨てて逃げた病院」のニュースは、昨日、twitterでいろんな人がリツイートして広めていました。
僕は「本当なのかそれ?」と信じがたい気持ちでいたのですが、ようやく「事実」がわかってきたようです。
双葉病院の医師・職員・そして他の患者さんたちは、けっして「患者を見捨てた」わけじゃなかった。

詳しい経緯は、参考リンクをぜひ読んでいただきたいのですが、もしあなたが同じ立場だったら、「それでも病院に残る」と言えますか?
退避を促されても誰かがその場に残ることを強行に主張すれば、全員の退避が遅れてしまう可能性もあります。


正直、僕も「見捨てたんじゃなくてよかった」と安心しています。
ただ、その一方で、あらためて考えてみると、「いまの日本の社会は、あんな極限状態でも、医療者に『殉死』を求めているのだろうか?と考えずにはいられませんでした。
それって、太平洋戦争の末期に「乗組員は船と運命をともにせよ」と言っていた大本営と同じなんじゃない?


今回のような天災の際に、ある病院に津波が迫ってきていて、医者と身動きのとれない患者さんがいるとします。
その場合、医者が「患者さんを見捨てて逃げる」ことは、許されるのか?

傍観者からみれば、「患者さんと運命をともにして、波にのまれる」ほうが美しいし、「道徳的」なのでしょう。
でも、その患者さんが逃げられない状態であれば、断腸の思いであっても、自分は逃げて、避難するべき場合もあるのではないでしょうか。
ひとりの医者が「殉死」せずに、生き残って避難所にたどり着くことによって、避難所で救われる命だってあるかもしれません。

そもそも、今回の未曾有の大災害では、多くの人が、「自分が守らなければならなかった人」の手を離さざるをえない状況に追い込まれました。
目の前で身内が津波に呑まれていった人に、あなたは、「お前はなんで一緒に流されなかったの?」と言うのでしょうか?


「みんなが助かる」道があれば、誰でもそうします。
「選びたくない選択肢の、どちらかを選ばざるをえない状態に陥った人々」を、なんでそんなに簡単に責められるのか?
みんなに希望を与えるようなツイートなら、いくらでもリツイートすればいいよ。
でも、不確かな情報をもとに、わかりやすい「悪人」を生み出して、快哉を叫ぶようなニュースをホイホイとリツイートするような輩は、あなたたちが「信じられない」といつも言っている「マスゴミ」と同じだとしか僕には思えない。
 twitterが「個人による情報発信ツール」であるとするならば、ひとりひとりの利用者も、少しは自分の「責任」について考えてもらいたい。
 あなたが、マスメディアに対して求めている「モラル」や「責任」の何万分の1でもいいから。


こんな誹謗中傷をさんざん広めておいて、誤報を謝罪するマスコミもtwitterユーザーもほとんどいないのが実情です。
マスメディアの多くは、元記事を消してしらんぷり。
リツイートした人たちも、みんな「自分たちも騙されただけ」と被害者面。


医者には、医者の「責任」がある。それは間違いありません。
そして、この「誤報」の他には、いまのところ「患者さんを置いて病院のスタッフが逃げた事例」を僕はひとつも知りません。
それって、「すごいこと」だと思いませんか?


もちろん、それは医者だけじゃない。
役場の人たちも、自衛隊員たちも、アメリカ軍の人たちも、東電の人たちも、交通機関を支えている人たちも、「みんなのため」に踏みとどまっているんですよ。
停電でネットができなくても我慢している人たちだって。
被災した人たちの「闘い」には及ばないとしても、みんな、頑張っているのです。


それは、けっして、傍観者が考えているような「あたりまえのこと」じゃないはずです。
「悪者」を捜して叩く暇があったら、目の前の「踏ん張っている素晴らしい普通の人たち」を応援してあげてください。


医者って仕事をやっていると、眠れない当直とかでつらい夜があるんです。
それでも、「みんなはそれが当たり前のこと」だと思い込んでいて、完璧な仕事が求められる。
一睡もせずに働いているのに「なんでこんなに待たされるんだ!」と罵声を浴びせられたりして。
ときどき僕は、いたたまれない気持ちになってしまうのです。


そんなときに、僕は何度も、患者さんの「こんな遅い時間に診ていただいて、ありがとうございます」という言葉に救われました。
人をいちばん勇気づけられるのは、お金でも、名誉でもなく、やっぱり、人だと思う。
だから、何度でも言います。


みんな、本当にありがとう。
みんなの頑張りは、きっと、日本の、人類の、そして子どもたちの未来につながると信じています。
いや、きっとつなげてみせる。

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