琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

ナイチンゲールの沈黙 ☆☆☆

出版社 / 著者からの内容紹介
第4回『このミス』大賞受賞作、25万部突破のベストセラー『チーム・バチスタの栄光』に続くメディカル・エンターテインメント第2弾!
バチスタ・スキャンダルから9ヵ月後、愚痴外来田口&ロジカル・モンスター白鳥コンビが帰ってきた!

(STORY)
東城大学医学部付属病院、小児科病棟に勤務する浜田小夜。担当は、
眼球に発生する癌網膜芽腫(レティノブラストーマ)の子供たち。
眼球を摘出されてしまう彼らの運命に心を痛めた小夜は、子供たちの
メンタルサポートを不定愁訴外来・田口公平に依頼する。

その渦中に、患児の父親が殺され、警察庁から派遣された加納警視正
院内捜査を開始する。小児科病棟や救急センターのスタッフ、大量吐血で
緊急入院した伝説の歌姫、そこに厚生労働省の変人・白鳥圭輔も加わり、
事件は思いもかけない展開を見せていく…。

 あの『チーム・バチスタの栄光』の続編として発表されたこの作品なのですが、僕は正直ちょっと物足りないというか、あんまりすっきりしない作品でした。
 この文庫版の「解説」で東えりかさんが書かれていた

 本書が発売になった当時、ややSFじみた設定が『チーム・バチスタの栄光』のようなリアルさを求める読者から、一部批判の声が上がった。しかしその後続々と発表される作品群を見れば、彼の書く小説は、近未来も含んだ世界であり、Aiのように本当に実用化されるものもあるし、夢物語で終わってしまうものもあることがよく分かる。小説なんだからどんな嘘を書いたっていい。しかし、そこに大いなる意図を持って嘘を突き通し、読者を喜ばせてくれればそれでいいのだ。この後の物語で、端人が、アツシが、そして小夜がどのように登場してくるか楽しみにしていて欲しい。

 という文章を読んで、まさに僕が「批判した一部の読者」なんだろうなあ、と思ったのですが、この『ナイチンゲールの沈黙』っていう作品は、どうしても『チーム・バチスタ』と比較される運命にあるはずです。そして、この作品は、『バチスタ』に比べてキャラクター、とくに読者にとってはもっとも期待しているキャラクターである、田口・白鳥コンビの影が薄いように感じられるんですよね。このあっさりした人が、あの白鳥なの?という印象。キャラクターがたくさん出てくるのはいいのですが、結局、どのキャラクターも印象に残らないのです。主人公の小夜も何考えているのかよくわからない人だし、お父さんがアレで、その子供を愛せるのか?というのは、ものすごく疑問なんですよね。
 正直、この小説の「嘘」は、キレイごととありえないフィクションばかりにしか思えない。
 東さんの解説の裏を返せば、「読者が喜ばない嘘では、どんな大いなる意図があるのだとしても効果がないんじゃない?」と僕は感じます。

 たぶん、海堂は、本質的には「医学」「医療」より「SFじみた世界」を描きたい人ではないかな、とも思うんですよね。自分がかかわっている「医療」の世界が描きやすいというのと、今の医療の現状を放っておけない、というだけで。
 でも、海堂さんが描きたい作品と、海堂さんに世間が求めている作品というのは現時点では乖離してしまっているような気がしてなりません。
 それでも、とりあえず「売れる作品」をコンスタントに発表されているのは本当にすごいな、とは思うのですけど。

 

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