Kindle版もあります。
第19回『このミステリーがすごい! 』大賞 大賞受賞作
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」――奇妙な遺言状をめぐる遺産相続ミステリー!シリーズ累計48万部突破!
テレビ・新聞・雑誌・WEBニュースほか各メディアで話題(あらすじ)
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」。元彼の森川栄治が残した奇妙な遺言状に導かれ、
弁護士の剣持麗子は「犯人選考会」に代理人として参加することになった。
数百億円ともいわれる遺産の分け前を勝ち取るべく、麗子は自らの依頼人を犯人に仕立て上げようと奔走する。
この作品が第19回の受賞作ですから、『このミス』大賞も20年になるのだなあ、と感慨深いものがありますね(2021年が第20回)。深町秋生さんの『果てしなき渇き』が第3回、海堂尊さんの『チーム・バチスタの栄光』が第4回の大賞受賞作なのだから、僕も年取るはずだよなあ……
『元彼の遺言状』、書店ではけっこう推されていることが多かったのですが、個人的に「強い女性主人公もの」にはなんとなく気圧されてしまうところがあって、なかなか手に取る機会がありませんでした。
今回の文庫化を機に、ようやく読んでみたのです。
最近、僕自身の読書への意欲の減退というか、長くて重厚感がある本(とくに小説)に手が伸びなくなっていたのです。
話題になっているし、これくらいの分量のミステリなら読めるかな、という感じ。
でも、読み始めて、主人公・剣持麗子のキャラクターの「圧」に、けっこう後悔したんですよね。
「あなたへの私の愛情は、世間の平均程度ってこと? そもそも私は、自分が世間の平均どおりの女だと思ったことはないし、平均が四十万円だとしたら、百二十万円の指輪が欲しいの」
私は腕を組んで、真っ白なテーブルクロスの上に置かれた赤い箱と、その中に縮こまっている、とっても小さなダイヤを見つめた。
輝いているけれど、しょせん、小さいなりの輝きだ。
こんなものを見ていると惨めな気持ちになってくる。
「でも私も悪かったかも。百万円以下の指輪なんて欲しくないって、前もってあなたに伝えておくべきだった」
読んでいる僕も、男として、惨めな気持ちになってきました……
この弁護士・剣持麗子のキャラクターにも、読んでいくうちに慣れてはいくんですけどね。
ただ、ものすごく優秀な弁護士であり、「お金」に徹底的にこだわる割には、目の前の報酬のことで業界内で力を持っている上司に怒りをぶつける場面を読んで、「そんなに優秀な弁護士の割には、ちょっと短絡的&感情的すぎない?」とも感じました。「野心」がある人間であれば、目先のボーナスの額よりも、業界の重鎮の上司に与える印象のほうを重視するのでは……
まあ、そういう「これだけカネカネ言っているはずの人が、案外情にもろかったり、元彼の遺言に関する事件を追っていくうちに、お金以外の弁護士の仕事というのものについて、少し考えが揺らいでいったりするところ」を成長物語として読むべきなのかもしれません。
ただ、どうせだったら、中途半端に「いいひと化」するのではなく、徹底的に「拝金キャラ」として突き抜けてほしいなあ、とも思ったんですよ。
読者(というか僕)っていうのは、我儘ですね……
いくら身体が弱っているからといって、そんなに都合よく人が死ぬかよ!とか、金庫の件は枚数稼ぎっぽい、とか、その遺言状の中身は、いくらなんでもデリカシーなさすぎだろ、とか言いたいことはたくさんあるのですが、ぶつぶつ言いながらも読み終えられるくらいの分量ではあるんですよね。
そして、僕のなかの「ミステリに出てくる女性像」みたいなものは、あまりにもステレオタイプだったのではないか、と、ちょっと考えさせられました。
僕はつい、女性の部屋の本棚に、サブカル系の本が並んでいると「それは付き合っていた男の趣味だ」とか、YouTubeの女性演者に「企画・撮影・編集しているのは男だろ」と思ってしまう。
でも、2021年は自発的にサブカルが好きになった女性がたくさんいるし、パソコンが使える若者に個人差はあっても性差はなさそうです(最近はむしろ、みんなスマホファーストで、「若者のパソコン離れ」なんて言われていますが)。
この作品に関しては、「東大卒の弁護士で、プロ雀士の資格を持つ作者」というプロフィールと主人公の剣持麗子のキャラクターの強さの「合わせ技」で話題になっている、という気はしますが、いまの時代に「読んでもらう」ためには、そういう戦略もやらなきゃ損、ではありますし。
ミステリとしての「緻密さ」「意外性」みたいなものよりも、『逆転裁判』のように、強引な展開をキャラクターの力で押し切る作品、という印象でした。
「重厚で隙のない社会派ミステリ」に疲れたときにちょうどいい一冊、かもしれません。
映像化されるときには、剣持麗子役は北川景子さんかな……などと思いつつ。