琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

スラムドッグ$ミリオネア ☆☆☆☆☆


『スラムドッグ$ミリオネア』公式サイト

あらすじ: テレビ番組「クイズ$ミリオネア」に出演し、賞金を獲得したジャマール(デヴ・パテル)だったが、インドのスラム街で育った少年が正解を知るはずがないと不正を疑われ逮捕される。ジャマールになぜこれほどの知識があり、この番組に出演するに至ったのか。警察の尋問によって、真実が明らかになっていく。(シネマトゥデイ

GWスタートの日曜日とはいえ、12時前からの上映に50〜60人くらいの入り。アカデミー作品賞を受賞したわりには上映スクリーンが少なめということもあり、上映館では、かなり人気になっているようです。

この映画を観ながら、『クイズ$ミリオネア』って本当によくできたクイズ番組だったんだな……というようなことを考えていました。
インド版の『ミリオネア』もまったく同じ出題形式で、セットも音楽も同じ。司会者まで「みのもんたみたいなオッサン」なんだものなあ。
この「全世界で知られているクイズ番組」の存在があればこそ、この映画はつくられたのです。
3つのライフライン、「テレフォン」「オーディエンス」「50:50」も全く同じなので、観客は「あっ、そういえばまだアレが残っているな」とニヤリとできるわけです。そして、その期待に見事に応える脚本の妙。
ほんと、この番組って、「司会者の技量」が問われるのだなあ、と感じましたし、映画的には、このへんの問題で間違うわけはないと思いながらも、「ファイナルアンサー」という言葉のあとに流れるドラムロールを耳にすると、やっぱりドキドキしちゃうんだよねえ。
本当に、「よくできたエンターテインメント作品」だと思います。

この映画、「インドのスラム街で生きる少年たちの姿を描いた感動作」のように紹介されることが多いのですが、実際は、「スラムから這い上がって(というか、「這い上がる」というアクティブな感じはないなあ。どっちかというと「生き延びて」)きた18歳の「携帯電話会社のお茶くみ」ジャマールの「アメリカンドリーム」を描いた作品です。
「涙涙の感動超大作」「世界にインドの下層階級の悲惨さを訴えるための映画」だと思って観にいくと、「これでいいの?」という違和感が残ってしまうはず。

実は僕もちょっと腑に落ちないというか、「これでいいの?」と疑問ではあるんですよ。
だって、この主人公・ジャマールがいくらクイズ番組ですごい賞金を得たとしても、「インドのスラムの現実」は、何一つ変わりはしないのだもの。
彼の快挙は、多くの人々を勇気づけるかもしれないけれども、ただ、それだけのことです。
むしろ、そういう「はけ口」があることで、「現実を変えるより、『ミリオネア』に出よう!」という「問題のすりかえ」がなされるだけのような気もします。
そもそも、この映画のあとに起こるであろうことを予測すると、「ハッピー・エンド」が続くとは思えない……

でも、この映画を観た観客の心には、「予定調和的な満足感」だけではなく、「物乞いの稼ぎをよくするために大人に目を潰される子供」の姿も残るはずです。
「もっと真剣に現実の悲劇を描くべきなんじゃないか?」という疑問はわかりますが、この作品が「エンターテインメントとして面白い」からこそ、多くの「あまり問題意識がない人々」にも観られている、というのも事実です。
あまりに「教育的」な作品って、やっぱり「知りたくない人には届かない」のですよ。

作中に、虐待されている物乞いの子供に「アメリカ人の良心を見せてあげるわ!」と叫んで100ドル札を握らせるアメリカ人のエピソードが出てきます。
『スラムドック$ミリオネア』は「子供たちの生きる力に感動する」ことも「かわいそうだと嘆く」ことも「どんな最底辺でも、夢は信じればかなうと元気づけられる」ことも可能な映画です。
ただ、「いい映画だったね」で終わってしまうのは、まさに「目の前の物乞いの子供に100ドル札を握らせるアメリカ人の良心」みたいなものなんじゃないかな、とは感じます。

映画「スラムドッグ$ミリオネア」 ダニー・ボイル監督インタビュー(MSN産経ニュース)
しかし、↑のダニー・ボイル監督のインタビューを読むと、監督は必ずしも「社会派作品」を目指していたわけじゃないみたいです。
むしろ、「サクセスストーリーを引き立たせる『どん底』のモチーフとして利用した」ような印象すら受けます。
舞台のひとつであるムンバイの街については、

「エネルギーに満ちあふれていた。映画作家にとっては『宝箱のような場所』です。貧困を超えたスピリチュアルなものをとらえられるように気をつけて撮りました」

と仰っていますし。
まあ、だからこそ、「説教臭くない映画」になっているんでしょうけどね。

この映画を僕が楽しみにしていた理由のひとつは、次のようなエピソードを聞いていたことです。

今年のアカデミー賞、『ベンジャミン・バトン』で候補になっていたブラッド・ピットは、『スラムドッグ$ミリオネア』を観て、「ああ、今年は全部この映画に持っていかれちゃうね」と諦めていて、授賞式ではリラックスしまくっていたらしい。

「こんなに悲惨なシーンの連続なのに、エンターテインメントとしての完成度が高い」、つまり、「面白い!」ことこそが、この映画の最大の素晴らしさなのでしょうね。
クイズ・ミリオネア』が好きだった人には間違いなく「楽しめる映画」だと思いますので、ぜひ。

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