琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

KAGEROU ☆☆


KAGEROU

KAGEROU

内容紹介
第5回ポプラ社小説大賞受賞作。

『KAGEROU』――儚く不確かなもの。
廃墟と化したデパートの屋上遊園地のフェンス。
「かげろう」のような己の人生を閉じようとする、絶望を抱えた男。
そこに突如現れた不気味に冷笑する黒服の男。
命の十字路で二人は、ある契約を交わす。
肉体と魂を分かつものとは何か? 人を人たらしめているものは何か?
深い苦悩を抱え、主人公は終末の場所へと向かう。
そこで、彼は一つの儚き「命」と出逢い、
かつて抱いたことのない愛することの切なさを知る。
水嶋ヒロの処女作、
哀切かつ峻烈な「命」の物語。

流行りものに弱い僕としては、夜の書店に2冊だけ残っていたこの『KAGEROU』を見つけたら、手に取らないわけにはいかなかったのです。
ネットで「酷評」の数々も読んでいて、「どんな駄作なんだろう」という黒い期待とともに読み始めたのですけど、率直に言うと、「面白くなかった」。
この『KAGEROU』なんですが、読んでいて引っかかるような拙い日本語はありませんでしたし、内容的には、そこそこディテールにもこだわっていて、ちょっとスラップスティックな雰囲気も出そうとしているし、「0点」の小説じゃないと思います。
でも、この(「伊坂幸太郎」+「重松清」+「カズオ・イシグロ」+「死神くん」)÷30、みたいなのが賞金2000万円!(水嶋さんは辞退されましたが)の「第5回ポプラ社小説大賞」を受賞して、40万部以上も売れているというのは、やっぱり、「なんだかなあ」という気はします。
ただ、「ポプラ社小説大賞」にそんなに期待してどうする!とも思うんですけどね。
さすがに芥川賞だったら、「いかがなものか?」という感じですが、この「ポプラ社小説大賞」は、これまでの4回で、大賞受賞作は方波見大志さんの『削除ボーイズ0326』(第1回)の1作のみ、そして、少しは話題になったのも、この1作だけなんですよね。
「なんでこんな作品に文学賞を!」っていうのは、「ミス・ユニバース」と「ミス○○温泉」を、同じミスコンテストということで同列に扱うようなものです。
これまでの作品を考えると、ヤラセじゃなくて、「ポプラ社小説大賞」応募作のなかでは、これがいちばんマシだった、という可能性もあるんじゃないかな。
いや、いくら賞金が高くても、「大賞」はほとんど「該当作なし」で、そこから売れた作家もいないとなれば、本格的に作家として生きていきたい人間が、自信作を投稿する賞にはならないでしょうし。
で、「奨励賞」くらいにしようと思ったら、水嶋さんだとわかって、「大賞」にしたのかもしれません(このへんは、僕の勝手な推測ですので悪しからず)。

 何十万という人間がひしめきあって暮らすこの街で、誰もいない暗くて静かな”寂しい場所”を見つけるのは至難のワザだ。しかしヤスオが見つけたこの場所は、奇跡的にその条件をほぼ完璧に満たしていた。
 そこは三年ほど前に倒産して廃墟と化した古いデパートの屋上遊園地だった。
 ところどころ剥がれてコンクリートの地肌がむき出しになった人工芝の上で、引き取り手もないまま野ざらし状態で放置された遊具や、動物をかたどった電動式の乗り物が夜露に濡れて薄ぼんやりと光っている。
 その様子はまるで、かつてこの場所で遊んでいた子供たちの墓標のようだ。

 これが『KAGEROU』の冒頭なのですが、なんというか、これだけストレートで飾りのない情景描写は珍しいし、「その様子はまるで、かつてこの場所で遊んでいた子供たちの墓標のようだ」なんて例えは、中学校時代の僕が、「カッコいい」と思い込んで書いていた自作の小説の一部みたいです。
 たしかに、「わかりやすい」し、「読みやすい」。そして、すべての読者や文学賞が「新しさ」を求めているわけじゃないのも事実です。
 でもまあ、この冒頭の部分だけで、「少なくともこれは、文章表現としての新しさを追究した小説じゃないな」ということは伝わってきます。

 ただ、僕は水嶋さんの「志」は、けっこう好きなんですよ。
 こういう「タレントが書いた小説」って、大部分は、「主人公=そのタレント本人」として書かれていることが多くて、読者は、「へえ、あの人はあのとき、こんなことを考えていたのか」とイメージしながら読むわけです。
 ところが、この『KAGEROU』は、あえて、「フィクション」であり、「オリジナルの小説」であることに挑戦しようとしています。
 その結果、「どこかで読んだことがあるようなマンガと小説をツギハギして何が言いたいんだか、よくわからなくなってしまった作品」になっているのですが、水嶋さんの「覚悟」はたいしたものだと思うんですよ。
 「第1作」として、「自伝的小説」を書かなかったのは、一発狙いの小遣い稼ぎじゃなくて、「小説家」としてやっていきたい、という意欲と覚悟のあらわれではないかと。
 そして、この作品は、おそらく、「水嶋ヒロファンの、いままでハードカバーの小説なんか読んだこともない若者たち」も手にとることになるでしょう。
 その中には、「本を読むこと」の面白さに目覚める人も、一人や二人は(たぶん)いるはずです。

 しかしまあ、何かと気に障るところは多い本ではありますね。
 二百数十ページあるけれど、字が大きくて、章ごとにあんまり意味のない白紙ページが何枚か水増しされていて、定価1470円(税込)!
 これ、『わたしを離さないで』と『流星ワゴン』を両方文庫で買うのと、そんなに変わらないのでは……
 本を読みなれている人であれば、読み終えるのに1時間もかからないはず。
 dankogaiさんなら、10秒くらいで読みそう……

 そして、「このへんで、どんでん返しがきそう」というポイントポイントで、ことごとく、予想を下回る「意外(だと思っているのは作者だけ)な展開」が……
 それなりに「伏線」もあるのですが、その回収のしかたも「こんなふうにしか使えない伏線、ムダだろ……」と言いたくなるものばかり。
 最初に「面白くない」って書いたのですが、それは、「すべてにおいて、器用に、小さくまとまってしまっている」からです。
 駄作なら駄作なりに『リアル鬼ごっこ』のような「メガトン級の暴走っぷり」であれば、ネタとしての価値は高いのですが、そんな破壊力もない。

 この小説を読んでいて、「ああ、水嶋さんは、けっこうわかっているんだな」と感じるところもありました。

 「『生きたくても生きられない人のことを考えれば、命を粗末にする行為はできないはずだ』とおっしゃる方がいますが、私は正直心の中で『それは違う』と思ってしまいます。私は大東さんにはなれないし、大東さんも私にはなれないのと一緒で、生きたい人死にたい人の気持ちはわからないだろうし、死にたい人に『とにかく生きろ』だとか、さきほど大東さんがおっしゃったように『生きてりゃきっといいことがある』と言える方の気持ちは理解しがたいはずです。『世界にはご飯が食べたくても食べられない人が大勢いる。その人たちのことを思えば食べたくないなんて贅沢なこと言えないはずだ』と親が子供を諭す場面と同じように」

 おお、綺麗事ばっかりじゃないな、齋藤智裕! ああみえて、けっこう考えてるんだな!

 しかし……

 この『KAGEROU』を読み終えて僕はツッコミを入れずにはいられませんでした。

 お〜い水嶋〜帰ってこいよ〜
 お前のこの『KAGEROU』こそまさに、「『世界にはご飯が食べたくても食べられない人が大勢いる。その人たちのことを思えば食べたくないなんて贅沢なこと言えないはずだ』と親が子供を諭す場面と同じような小説」じゃないのか……
 もしかしたらこれは、「そんなふうにみんなカッコつけてるけど、実際にそういう人間を目の当たりにすれば、心を動かされるものだ」っていう展開への「伏線」だったのかな……
 少なくとも僕にはそうは思えなくて、単に「目標が高すぎて、結局、安易なところに着地しちゃった」だけだと読んでいて感じたのですが……

哀切かつ峻烈な「命」の物語。

 うーん、「『命』の物語」なら、ブックオフで『死神くん』を探してきたほうが……

 この本のオビには、こんなことが書いてあります。

 著者・齋藤智裕が、人生を賭してまで伝えたかったメッセージとは何か?
 そのすべてがこの一冊に凝縮されている。


 小説の新たな領域に挑む話題作、ついに刊行!

 たぶん、いまごろ、JAROのコールセンターの人は、大忙しなんでしょうね……
 本当にこんなメッセージに「人生を賭している」のか?
 「凝縮」どころか、「星新一だったら原稿用紙10枚で書いちゃう話」を水増ししているだけじゃないのか?
 そもそも、この作品のどこに「小説の新たな領域」が?
(「小説の売り方の新たな領域」に挑んでいることは認めます。大成功でしょう)
 もちろん、「宣伝文句」ですから、いたしかたない面もあるでしょうけど、これはひどい

 ちなみに、この小説を「ライトノベル」ってバカにしている人もいるようですが、それはライトノベルに失礼ってものです。
 ライトノベルなら、もっとキャラクターを徹底的に描かないと「商品」にはなりません。


 けっこう酷いことをたくさん書いてしまったような気がしますが、僕にとっては、「悪くすらないところが、最も悪い小説」でした。
 でも、齊藤智裕さんは、少なくとも「多くの人が作品を手にとってくれる環境にある」作家なのですから、世間のバッシングに負けずに、どんどん書いていただきたいと思っています。
 「作家志望の人が、はじめて書いた作品」としては、そんなに悪くないですよ。これだけ話題になって、売れちゃったから、叩かれてますけど。
 
 そうそう、この作品のAmazonのレビュー、ものすごいことになっています。まさに大喜利状態。

 この『KAGEROU』、小説単体としては全くオススメしませんが、「祭り」に参加したい人は引き留めませんのでどうぞ。



お口直しに、この2冊。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)

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