琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

考えよ! ――なぜ日本人はリスクを冒さないのか? ☆☆☆


内容紹介
サッカーW杯でベスト4を目標に掲げる岡田ジャパンだが、不安材料は数え切れない。誰よりも日本人のサッカーを理解している前監督が、日本サッカーの弱点と可能性を指摘する。

著者について
1941年サラエボ出身。サラエボストラスブールでFWとしてプレー。引退後欧州クラブの監督として実績を残した後、旧ユーゴ代表監督、日本代表監督などを務めた

イビチャ・オシムサッカー日本代表監督の、日本のサッカー界および日本人への提言。
僕はこの本を13日の日曜日に読んだのですが、読み終えて、内心、「ああ、この本の感想は、月曜日の日本対カメルーン戦の前に書かないと、もう旬が終わってしまうな……」と考えていました。
正直、これまでの岡田ジャパンの状況をみていると、「3連敗……よくてカメルーンデンマークに引き分けられるかな……」と思っていたんですよ。
で、カメルーンに負けてしまった後だったら、みんなのワールドカップへの興味も激減するにちがいない、と。

今日の試合で、日本はカメルーンに1対0で勝利しました。
日本代表が海外で行われたワールドカップ本戦であげた、はじめての勝利。
カメルーンの内紛やそれにともなう主力選手の欠場、伸びるボールが本田の足元にやってきたこと(とはいえ、いままでの日本代表のFWは、ああいうボールを外してばかりだったのですがら、本田のハートの強さには恐れ入ります)、ゴールバーも日本代表の味方をしてくれたことなどもありますが、本田・大久保・松井という海外経験のある選手たちのフィジカル・メンタルの強さは光っていましたし、岡田監督の選手交代も完璧。まあ、勝つときはすべてがうまくいくのだとしても、先制したときの岡田監督の「やった!」という表情は印象的でした。代表監督になって、ひとつも良いことなかったようにみえたけど、今日まとめて報われたんじゃないかな。ご本人も仰っていましたが、「まだまだこれから」なんですけどね。
しかし、あれだけ「ドン底」「史上最低」だった日本代表が、本番になって、「初の海外ワールドカップでの勝利」を緒戦で挙げたということには、勝負というものの面白さ、難しさを痛感させられます。バッシングされ、嘲笑されていた代表チームが、一夜にして「国民の希望」に。これもまたスポーツの恐ろしさなのか。
オシムさんなら、「人生で起こりうることはすべて、サッカーでも起こりうるのだ」と言いそうだなあ。

かなり脱線が過ぎましたが、この『考えよ!』オシム監督が直接書かれた本ではなく、聞き書きだと思われます。
とはいえ、この本にも「オシムのエッセンス」は十分にこめられているのです。
僕は『オシムの言葉』を読んで以来、この孤高の名将の大ファンで、オシムさんが日本代表監督に就任されたときには、「ついに切り札登場か!」と大喜びしたのをよく覚えています。残念ながら、大きな可能性を残したまま、オシム・ジャパンは失われてしまったのですが、今日の試合の「最後まで走るサッカー」には、オシムさんの志が反映されているような気がしました。

この本、サッカーのことに限らず、さまざまな含蓄に溢れているのですが、日本の次の相手となる、強豪オランダについて、オシムさんは、こんなふうに仰っておられます。

 オランダは、日本との試合には絶対に勝たねばならないのだから、実は相当なプレッシャーを背負っているはずだ。2006年のドイツワールドカップにおけるクロアチア戦の日本みたいなものだ。
 彼らは、有利な立場からは逃げ出すことはできない。彼らは100パーセント勝たねばならないのだ。日本は敗れても何も失うものはない。引き分けという結果でさえ、それが大きなサプライズとして世界に認識されるかもしれない。
 つまり、そのような状況で日本代表に何ができるか考えてみよ! ということである。オール・オア・ナッシングのスタイルで、全力で攻撃するか、もしくは、静かにスタートするか。
 だが、気をつけてほしいのは、彼らがパクッと開けたジョーズの口に走りこんではいけないということだ。オランダ戦では冷静に落ち着いて対処しなければならない。まるで一滴の水をコーヒーに注ぐようにだ。

 こんなふうに「対戦相手の立場になって」考えてみるというのは、まさに「オシム流」です。
 たしかに、オランダにとっても、「勝たなければ当然の相手」との試合には大きなプレッシャーがかかるはず。
 しかし、これを読んでいると、今日のカメルーン戦こそ、ドン底の日本代表にとっては、「敗れても何も失うものはない」と開き直れたし、どんな泥臭いプレーをしてでも勝つ、という気迫が出た試合だったようにも思われます。
 「色気」が出てしまうオランダ戦は、ちょっと危険かも。
 
 ところで、オシムさんは、この本のなかで、岡田監督が本田中心のチームづくりをしていることに疑問を投げかけてもいるのです。

 国際Aマッチが10試合(2010年3月の時点)と経験の浅い23歳の選手が、どうやってワールドカップのような大舞台での難しい状況を乗り切ることができるのか。

 結果的には、オシムさんの危惧はカメルーン戦に関しては外れてしまい、僕はあらためて、「オシムさんでもこういうことがあるのだから、サッカーっていうのは本当にわからないよなあ」と考えずにはいられませんでした。

 ちなみにこの新書のなかで、オシムさんは、日本人に対して、こんなメッセージを投げかけています。

 ヨーロッパではゲームに負けて駐車場に戻ると車が壊されている。アテネではファンが練習に来て監督や選手を追い回していた。そういうことも、ヨーロッパを模倣し続けると将来起こりうるということだ。
 日本独自のサッカー文化も大事にしなければならない。
「日本はスポーツ国家ではない」――そういう意見も一部の識者の中にはあるらしいが、私は、その意見には賛同できない。
 日本人はスポーツインフラストラクチャーに多大な投資をしている。ホール、スタジアム、子供用の小さなスタジアム、プール、他のスポーツ施設も、全てがとてもハイレベルだ。日本では、これら全てのスポーツ施設が人々によって建てられ、使われている。
 だから「日本はスポーツ国家ではない」とはいえないと思う。日本人はスポーツ好きな国民で、自由な時間にさまざまなスポーツを楽しんでいる。
 フーリガンのいないスポーツ国家は理想ではないか。日本人はそのことに誇りをもっていい。

この新書を読むと、結果はどうあれ、一度でいいから、ワールドカップの舞台で、オシム・ジャパンを観てみたかった、と思います。
それでも、イビチャ・オシムが日本のサッカー界・スポーツ界に遺してくれた財産は、けっして少なくないし、これからも、「オシムの言葉」は受け継がれていくはずです。

何度かここでも御紹介したのですが、↓の本は、まさにスポーツ・ノンフィクションの金字塔であり、サッカー、いやスポーツに興味がなくても、「人間」に興味がある人なら絶対に楽しめると思います。個人的には、この『考えよ!』よりも、こちらを読んでいただきたいです。

オシムの言葉 (集英社文庫)

オシムの言葉 (集英社文庫)

↑の感想はこちらです。
いや、「いまさら」読んでも、絶対に面白いから!

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