琥珀色の戯言

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すベてがFになる ☆☆☆☆


すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

出版社/著者からの内容紹介
密室から飛び出した死体。究極の謎解きミステリィ
コンピュータに残されたメッセージに挑む犀川助教授とお嬢様学生・萌絵。

孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季(まがたしき)。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平(さいかわそうへい)と女子学生・西之園萌絵(にしのそのもえ)が、この不可思議な密室殺人に挑む。新しい形の本格ミステリィ登場。

森博嗣先生のデビュー作(実際に書かれたのは、この作品が最初ではなかったそうですが)。
いままで森先生の作品は、『スカイ・クロラ』とエッセイ、新書しか読んだことがなかったのですが、旅行の移動中に読むためのちょっと厚い本を探していたら、未読だったこの本にたどり着きました。
僕は「理系」じゃなさそうなので、なんとなく森先生の小説は敬遠していたのですけど。

今回、旅行先で夜に2日間かけて読了しましたが、この500ページ+αという分量は、普段の生活の合間に読むには、ちょっと厳しいかもしれません。
僕はこれを読みながら、「ミステリ」とは何か?というようなことをあらためて考えずにはいられませんでした。

いわゆる「社会派ミステリ」では、犯行の背景とか動機をつきつめていくのが「常道」で、作品によっては、「警察組織そのもの」を描くことがメインになっていたりもするのです。
しかしながら、この『すべてがFになる』は、「でも、これ『天才』がやっていることだから」という理由で、犯行の動機が(僕のような凡人にとっては)理解不能なことや、「どうやって、あんなに長い間、犯人は○○を隠しておけたんだ?いくらなんでも、それは無理だろ、それこそ『データ』じゃないんだから……」という疑問が、「不問」に処されています。
この作品には、「殺人」というのは、「謎解き」を盛り上げるための道具でしかないように思われますし、ある意味、「フィクションであり、エンターテインメントなのだから、作家が読者に説教するような『テーマ』よりも、パズルとして面白ければいいじゃないか」というような、森先生の覚悟すら感じられるんですよね。
「社会問題」や「人間関係のディテール」にこだわりたい読者だけじゃないよなあ、たしかに。

この作品、僕が中高生くらいのときに読んでいたなら、「その通り!」と、この世界観にハマっていたか、「安易に『人殺し』を描くなよ!」と怒っていたかのどちらかだと思います。
いまは、「まあ、これはこれでアリだよな」というのが率直な印象で、このシリーズ全10冊を読破するほどの気力はありませんが。

2010年8月に読むと、バーチャルリアリティに関する記述などは、懐かしくさえありますが、「ミステリに新しい方向性を与えた作品」のひとつとして、読んで損はありませんでした。

それにしても、この「すべてがFになる」というタイトルの謎解きは、なんだかすごく美しかったなあ。

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