琥珀色の戯言

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くちびるに歌を ☆☆☆


くちびるに歌を

くちびるに歌を

内容説明
書店員さん大注目作家・中田永一最新作!


長崎県五島列島のある中学合唱部が物語の舞台。合唱部顧問の松山先生は産休に入るため、中学時代の同級生で東京の音大に進んだ、元神童で自称ニートの美しすぎる臨時教員・柏木に、1年間の期限付きで合唱部の指導を依頼する。
それまでは、女子合唱部員しかいなかったが、美人の柏木先生に魅せられ、男子生徒が多数入部。ほどなくして練習にまじめに打ち込まない男子部員と女子部員の対立が激化する。夏のNコン(NHK全国学校音楽コンクール)県大会出場に向け、女子は、これまで通りの女子のみでのエントリーを強く望んだが、柏木先生は、男子との混声での出場を決めてしまう。
一方で、柏木先生は、Nコンの課題曲「手紙~拝啓 十五の君へ~」にちなみ、十五年後の自分に向けて手紙を書くよう、部員たちに宿題を課していた。提出は義務づけていなかったこともあり、彼らの書いた手紙には、誰にもいえない、等身大の秘密が綴られていた--。


「ひとり本屋大賞」8冊目。
本のオビには

「電車、今日は止まっていいぞ!」と思いながら、中盤からラストにかけて一気読みしました」

というような書店員さんたちの強力な推薦コメントが寄せられていたのですが、僕としては「これを読むために電車止められたら、かなわんなあ」と思いました。


長崎の島の中学校、母親の死、自閉症の兄、心臓の弱い女性の出産……
なんかもう、「感動の地雷原」って感じです。
でも、地雷の設置に忙しすぎて、中身が薄くなり、地雷丸見え……


まあ、僕が中高時代「帰宅部のエリート部員」だったからなのかもしれませんが、正直、この合唱部、真面目に活動しているようには思えませんでした。
少なくとも、この小説にえがかれているかぎりでは。
それが、「コンクールのときだけ、すばらしいデキ」とか、そんな甘いもんじゃないだろう、と。

 吹奏楽部がうらやましい。そこにも何人か男子部員が所属しているけれど、合唱部のような問題には発展しない。楽器をつかって音を奏でるのだから、演奏者が男だろうと、女だろうと、関係ないのである。しかし合唱部は体をつかって演奏する。身体のつくりの異なる男と女とでは、奏でられる音がはっかりと別物であり、男子がいるのといないのとでは合唱の方向性もちがってくる。運動部のように性別ではっきりと種目がわけられていたら単純だったのだろう。男子の入部がこれほど響いてくる部活はきっと他にない。

「音楽小説」といえば、2009年の『本屋大賞』にもノミネートされた『船に乗れ!』が思い出深いのですが、あの作品の「合奏って、こんなふうになっているんだな」と感心してしまう薀蓄の数々に比べれば、この『くちびるに歌を』は、著者の合唱への思い入れが伝わってこないのです。
「田舎の高校3年生がいきなり入部しても仲間に入れそうな部活」として、合唱が選ばれただけなのではないか、という気がしてなりません。
ああ、でも主人公の名前が同じ「サトル」なのは、もしかしたら、中田さんは『船に乗れ!』を意識していたのかもしれないなあ。
さらに絲山秋子さんの『沖で待つ』もミックスして、大サービス!


ラストの「大勢の無名の人たちの善意のハーモニー」には、「それが僕の泣きのツボなんだよなあ……」と思いつつ、ちょっとだけ感動してしまいました。
年取ると、そういうときに「まあいいや、とりあえず感動しとけ!」って気分になっちゃうんですよ。若いころは、「そんな手に引っかかるなよ、自分!」って身構えていたものですが。


オビには、こんなのもありました。

中田永一キタ――――――!!!
きっとこの小説は日本の宝になる!

……たぶん、日本の宝じゃなくて、ブックオフの不良在庫になると思います……


どうしたんだ『本屋大賞』。
いくら覆面作家中田永一さんの正体が●●さんだと言われているからって、いくら本を売りたいからって、最近の「書店員の推薦文句」って、あまりにハイパーインフレ化しすぎてないかい?


……って、悪く言い過ぎですね。
素直に読めば、素直に楽しめる小説なのでしょう、きっと。

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