琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

人生の特等席 ☆☆☆☆



あらすじ: ガス(クリント・イーストウッド)は長年大リーグの名スカウトとして腕を振るってきたが、ここのところ年のせいで視力が弱ってきていた。それでもまったく引退する素振りを見せない彼に、チームは疑いの目を向ける。窮地に陥った父親に救いの手を差し伸べたのは、あまり関係が良好とはいえない娘のミッキー(エイミー・アダムス)だった。

参考リンク:映画『人生の特等席』オフィシャルサイト


2012年38本目の映画館での鑑賞作品。
19時からの会で、観客は僕も含めて3人でした。
雨のなかで、金曜日の夕食時でもあり、まあこんなものかな。


この映画、「俳優業を引退」したはずのイーストウッドさんの、まさかの復帰作。
冒頭の場面では、いきなり前立腺肥大アピールで、「老い」を前面に出した役柄です。
野球、家族、イーストウッド
まさに「アメリカ人好みの映画」という感じですが、イーストウッドさん好き、野球好きの僕も、すごく楽しめました。
メジャーリーグのスカウトって、こんな地味な仕事なんだなあ、というのも、興味深いものがありましたし。


ただ、この映画では、イーストウッドの「頑固ジジイ」っぷりも見事なのですが、娘のミッキー役のエイミー・アダムスさんが、すごく印象的でした。
幼少時、父親と行動をともにし、プロ野球のスカウトという「男社会」を連れまわされていたのに、いきなり1年間親戚の家に預けられたことが、彼女のトラウマになっているのです。
そんななか、勉強して優秀な弁護士になり、父親のことも気にかけているのだけれど、父親のほうは、娘とどう接していいのかわからず、一緒にいても「仕事」である野球中継にばかり目がいってしまう体たらく。
そんな娘の「父親への複雑な感情」をエイミーさんは見事に演じていたんですよね。
あんな男に引っかかるなよ!ということ以外は、言うことなし。


でもなあ、このイーストウッドさんの「父親失格」っぷり、なんだかとても身につまされるのです。
僕も息子から、妻からみたら、「こんなもの」じゃないかなあ、って。
いや、少なくともイーストウッドさんは「仕事での優秀さ」は認められてきた名スカウトであり、それが娘の生き様にも大きな影響を与えているのですから、僕よりも、よっぽどすごい。


ただ、『マネーボール』とか、日本ハムの球団経営とかを本などで知っている僕としては、この映画の「職人の勘こそ正義、コンピュータなんて糞食らえ!」みたいな主張には、「イーストウッドさんが高齢者層に勇気と元気を与えようとしているのはよくわかるんだけど、まあ、けっこうファンタジーだよなあ」とも感じずにはいられませんでした。
コンピュータを導入し、選手の能力を解析してチームを強化する「セイバーメトリクス」というシステムは、ある意味「お金のない球団にとっての究極の武器」でもあります。
他の球団のスカウトもそんなにバカばっかりじゃないだろうし、自分の正しさを証明するために、ゴールデンルーキーにトラウマを与えるようなことが「チームのため」になるとは思えませんし。


ああ、でもやっぱり「ベースボール」の映画って、僕は好きなんだよなあ。
以前、『フィールド・オブ・ドリームス』を一緒に観た女性が「うーん、いつか自分の親がいなくなったら、この映画のことがわかるような気がする」と言っていたのを思い出します。
もちろん、そんなことはわからないほうがいいに決まっている、と彼女も言っていたのだけれども。


本当に「良い映画」だと思います。僕は好きです。
イーストウッドのように老いていければな、とも思う。
でも、その一方で、この『人生の特等席』は、あまりに「良い映画、高齢者に寄り添った映画」になりすぎている、そんな気もするのです。
今の時代、老いていく人たちが求めているのは「最後まで戦い続けて、逆転勝利する物語」なのだろうか、それとも「戦いから解放されて、フェードアウトしていく物語」なのだろうか?
この作品は、前者にあたります。
でも、いま求められているのは、後者ではないのだろうか?


とにかく、イーストウッド好き、野球好きは必見です。
そのどちらかひとつにあてはまる人も、十分楽しめると思います。
両方あてはまらない人は……まあ、DVDレンタルで、くらいかな。

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