- 作者: 松岡修造
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/12/10
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (5件) を見る
内容紹介
誰もが何かしら心に弱い部分を抱え、どこかで限界ギリギリの崖っぷちに追い詰められた経験を持っている。「もう無理だ」はあなたを劇的に変える寸前の最後の苦しみなのかもしれない。挫折、そして、その乗り越え方。
いつでも前向き、暑苦しいほどポジティブ!
そんな松岡修造さんの著書のテーマは、なんと「挫折」。
「挫折」なんて、この人とは極北の言葉なのでは……と思いながら読み始めたのですが、この新書のなかで、松岡さんは、かなり率直に「自分の弱さ」について語っておられます。
僕は「熱血」「気合」「応援」といったイメージを持たれることが多いのですが、いつもポジティブなわけではありません。むしろ、人と比べるとかなり消極的で弱い人間です。
現役時代には、「決断力のなさがテニスに出ている」とコーチに指摘されて悩んだり、ショットが決まらなくて試合を投げ出したくなったり、けがや病気でテニスができなくなって「なぜ自分だけこんなひどい目に遭うんだ」と運命を呪ったこともありました。
スポーツキャスターになってからは、緊張のあまり頭が真っ白になって言葉が出てこなかったり、インタビューに失敗して夜も眠れないほど激しく落ち込んだり……。
あの松岡さんが?と思うのと同時に、けっこう腑に落ちるところもあったんですよね。
もともと「前向き」である人よりも、「自分を励まして、前向きであろうとする人」のほうが、外観上は、よりいっそうそれを表に出そうとするものだと思いますし。
この新書のなかでは、松岡さん自身の経験や、松岡さんと交流があるスポーツ選手たちのエピソードから、「挫折とどう向き合っていくか」が語られていきます。
どんなすごい選手でも、上を目指そうとすればするほど、「挫折」と無縁ではいられないものですしね。
人が自信をなくすのは、どうすればいいかわからなくなってしまったときです。
そういう状態では、「なぜ、自分だけがつらい思いをするのか」と後ろ向きの気持ちになりがちです。膝のけがで苦しんだときの僕も、「なぜ膝が痛いんだ」「どうして頑張っているのに勝てないんだ」「なんでこうなるんだよ」と、頭のなかは「なぜ?」ばかりでした。
その経験から、”Why?”ではなく”How?”に意識を向ければいいのだと気づきました。自分がどうすればいいかわかれば、失いかけた自信を取り戻すことができます。
「どうすれば早く復帰できるか」「どうすれば以前のプレーができるか」に意識を集中した僕は、靭帯の手術の翌日から、ベッドの上で上半身を強化するトレーニングを始めました。
僕も物事がうまくいかないとき「なぜ?」って考えはじめて、堂々巡りになってしまいがちなので、この言葉、すごく印象的でした。
”Why?”をいくら突き詰めても、状況は改善しません。
むしろ、落ち込んでいく一方。
それよりも、「解決法」を考えていったほうが、はるかに有益です。
まあ、そんなことは頭ではわかっていても、なかなか切り替えにくいものです。
そこで、「”Why?”より”How?”」って、シンプルな言葉にして唱えてみれば、けっこう切り替えやすくなりそうな気がするんですよ。
松岡さんは、イチロー選手のこんな言葉を紹介しています。
彼の「振り子打法」と呼ばれるバッティングフォームは独特です。オリックス・ブルーウェーブの二軍時代にフォーム改造を命じられましたが、「自分を殺して相手に合わせるのは僕の性に合わない」と拒否し、一軍に定着できずにいました。
そんな状況のなか、オリックスの監督に就任した仰木彬さんだけは、「お前の好きにやれ」と理解を示し一軍に抜擢。そのシーズン、イチロー選手はプロ野球史上初のシーズン200本安打を達成し、みなさんも知る大活躍が始まりました。そのため、仰木監督に対するイチロー選手の想いは、監督が亡くなった今も非常に強いのです。
その後、マリナーズに移籍したイチローさんははじめはなかなか結果が出ませんでした。そこでコーチからもっと一般的な打ち方に変えるよう指示されました。その場で「ノー」と言えばコーチの立場がなくなってしまうので、とりあえず「イエス」と答えましたが、ちょっと違う打ち方をしただけで、ぜんぜん直しませんでした。周囲から何を言われようが、頑として自分のフォームを変えなかったのです。
のちに、その理由を僕が尋ねると、イチロー選手はこう答えてくれました。
「人の意見や評価ほど曖昧なものはないから」
僕はこの言葉が好きです。自分の想いを貫き通す大切さを教えてくれるだけでなく、周りの評価をつい気にしてしまう僕の不安を取り除いてくれるからです。
結局のところ、「自分の評価を、他人に任せてしまう」ことが、悩みや迷いの最大の理由なのかもしれません。
まあでも、イチロー選手の場合も、結果を出しているからこそ、みんなが「なるほど!」と納得するのであって、うまくいかなければ「他人のアドバイスを聞かない、独善的な人間」だと非難されていたかもしれませんよね。
ただ、他人のアドバイスを参考にするとしても、「自分の責任で参考にする」ことが大事なのだと思います。
僕がこれを読む前に危惧していた「鬱陶しい、ポジティブの押し売りみたいな本」でなく、「弱い人間が、強くあるために、どんなことができるのか?」具体的に書かれている、なかなか興味深い新書でした。