吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集
- 作者: 吉田豪
- 出版社/メーカー: 白夜書房
- 発売日: 2013/02/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 3人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (15件) を見る
内容紹介
月刊誌『BUBKA』に掲載された人気連載がついに一冊の本になりました! プロインタビュアー吉田豪による超大物プロレスラーのインタビュー集。プロレスが最もアツかった時代を闘いぬいたレスラーの壮絶なエピソードが満載! 雑誌掲載時よりも大幅に加筆した決定版です。巻末には著者による取材秘話も収録。「プロレス者」もそうでない者も、読めば心にガツンと響く濃厚格闘人生譚!!
【出演レスラー】
天龍源一郎「俺みたいな生き方、するモンじゃないよ」/武藤敬司「いま、あえて言うプロレスLOVE」/蝶野正洋「レスラーはリング上の職人です」藤波辰爾「どんなに怒っても、お腹はすくんだよね」/ドン荒川「冗談で試合はできない。いつも真剣勝負(笑)」/藤原喜明「ナメられたら終わり。ジャンケンでも負けるな」/山崎一夫「常識人? う~ん、どうなんですかねぇ」船木誠勝「一回壊さないと新しいものは作れない」/鈴木みのる「ガキが簡単に『ガチで』って言うとイラつくんです」/宮戸優光「プロレスというものは強さが一番ですから」/鈴木健「他団体とはガチンコでやるのが絶対正しい」/菊田早苗 「プロレス界のスターになりたかった」/大仁田厚「引退試合は電流爆破って決めてんだ」/ミスター・ポーゴ「怖いものはお化け。好きな映画は『ゴースト』」/マサ斎藤「いつだってGo for broke」
「濃い人々」に臆せずに徹底的に切り込んでいくプロインタビュアー・吉田豪さんの面目躍如のインタビュー集。
いや、吉田さんの本質は「臆せず切り込む」というよりは、きちんと下調べをして、「対戦相手」に寄り添い、言葉を引き出していくスタイル、というべきなのかもしれませんけど。
この本は、吉田豪さんにとっては長年のライフワークともいえる、プロレスラーたちへのインタビューが収録されています。
武藤、蝶野、藤波といった、プロレスファン以外にも知られている有名どころから、ドン荒川、宮戸優光、ミスター・ポーゴといった「知る人ぞ知る」存在まで、大変興味深い顔ぶれです。
いやほんと、読んでいて、昭和のプロレスラーの「凄さ」というか「濃さ」に圧倒されるばかりです。
そして、リングの上で勝っている人気レスラーよりも「本当に強い人」がいる、あるいは、レスラーとしてはほとんど知られていなくても、マッチメーカーとして団体を動かしていた人がいるんですね……
あのとき分裂した団体の裏側で、何が起こっていたのか?
あの「遺恨対決」には、どういう伏線があったのか?
「ヒールのほうがいいひと」というのは、本当なのか?
これを読んでいると、プロレス、そしてプロレスラーというものを「当事者」はどう考えているのか?というのがよくわかります。
まあ、それも「十人十色」で、「リングの外でも普通の人じゃダメだ」という「フルタイム・プロレスラー」もいれば、「プロレスは仕事」と割り切って、それ以外では常識人、という人も(少数派ですが)いるのです。
武藤敬司さんの回から。
――相手の良さを引き出さないと、自分の良さもちゃんと伝わらないですもんね。
武藤敬司:うん。弱い相手に勝ったって、ただのイジメになっちゃいますよね。所ジョージの番組でやってたんですけど、ヒーローもので、ヒーローが怪獣に「なんとかパーンチ!」ってやるとき、最初から一方的にパンチで勝つと、あとで子供たちに「どういう技で勝った?」って聞いても覚えてなかったんですよ。ところが、ヒーローがやられたあとに「なんとかパーンチ!」ってやったとき、子供たちはやられた技も全部覚えてた。それは、ヒーローがやられたことによって子供たちが感情移入してたってことなんです。
――特撮とかで「なんで最初に必殺技を出さないんだ」とかよく言われますけど、それは単に効果的じゃないからでしょうね(笑)。
武藤:うん。ただ、数多いプロレスの中で、そんなのもあったっていいけどね。全部がそれだったらきっとつまんないけど。
こういうことをいろいろ考えながら、プロレスラーはアピールしているのか……
僕も小学生のころ、「なんでいつも8時45分にならないと、猪木は延髄斬りを出さないのか?」と疑問だったのですが、やはりそこには「戦略」があるわけで。
「延髄斬り」とか「ウエスタン・ラリアート」とか、技としてごく単純なもののはずなのに、それを魅力的に見せるのが、レスラーの凄さなのでしょう。
藤原喜明さんの回から。
――組長は本物を学ぶわけじゃないですか。ボクシングなりキックなりいろいろやってみても、それをそのまま提示はしませんよね。
藤原喜明:まあ、そうですよね。それはチラチラと見せる。要するに、いまのヤツらってお客に媚びてしゃべるでしょ? リングと客席っていうのは別世界じゃなきゃいけないんだよ。やっぱり、お客さんに「こいつらと喧嘩したくねえな」って思わせないと。お客っていうのは怖いもの見たさで来るんですよ。それが、「みなさん!」ってマイクで言った瞬間、「あ、俺らと同じじゃん」ってなっちゃうの。黙ってやって黙って持って帰っていかなきゃいけないんですよ、非現実だから。だからプロレスラーは子供を出したり、奥さんを出したりしちゃいけないんだよ。あくまでも神秘じゃなきゃいけない。
――それは技術的な部分も同じなんですね。いろんな武器を持ってるけど、チラチラ見せることで、より含みを持たせるっていう。
藤原:要するに俺らの世界では、(シュートサインを出して)ピストルっていうでしょ。ピストルをこうやってしょっちゅうバンバン撃ってたら、ただのアホだよね。ピストルというのは懐に入れといて、いつでもチラッと見せられるようにしておく。だから価値がある。で、たまに撃つときもある。そのスレスレでやってるからおもしろかったんですよ。
(中略)
ーーファンは来ないほうがいいんですか?
藤原:来ないほうがいいよ。ファンに「ファンです〜」なんて来られるようなったらプロレスラーは終わりだよ(キッパリ)。
ーーダハハハハ! そうなんですか!
藤原:行きたいけど行けない状態にしておかないと。プロレスラーは怪物なんだから。
藤原組長からは、「昭和の悪役レスラー」としての矜持を感じずにはいられません。
こういう「美学」がまだ許されるのが、プロレスのおもしろさ、でもあります。
鈴木みのるさんの回。
ーーホントのガチがわかってんのか! と。
鈴木みのる:プライドとリスペクトっていう言葉が軽く若者の中で使われているのと同じ現象になってるんで、嫌だなって思いますよ。なんだよリスペクトって。そんな簡単に人間尊敬しないでしょ? 人生でひとりとかふたりとかじゃないですか。なのに「俺、おまえのことリスペクトしてるよ」とか、軽いですよね。そんなわけねえだろ。あと総合の選手で「対戦相手を尊敬して闘う」ってヤツ多いんですけど、ホントかって。尊敬する人をふつう殴んねえだろとか思うけど(笑)。
ーー絞め落としたりもしないですよ(笑)。
これなども「そうそう!」って笑ってしまうんだよなあ。
確かに、尊敬している人をぶん殴ったりはしないですよね。
まあ、それをあえてやるのが「プロレス」なのかもしれません。
いやほんと、当事者たちの話によって、いろんな疑問にこたえてくれるインタビューの数々。
とくに、UWF〜UWFインターの流れの内幕については、佐山聡、前田日明、高田延彦という「UWF系三大レスラー」のインタビューは収められていないものの、当時、彼らの周囲にいた人たちによって、完全に「外堀」は埋められている感じです。
それだけに、この3人の「ホンネ」も聴いてみたいところではあるんですけどね。
「万人向けの本」ではないというか、おそらく、狭い範囲の人間を深く喜ばせる種類の本だと思うのですが、プロレスファン、とくに新日本プロレスのタイガーマスク後の維新軍団全盛期〜UWF〜UWF分裂くらいまでのファンにとっては、たまらない一冊ですよ。
僕もこれを読んで、もう一度、プロレスを観てみようかな、って。